第8話 門番

 外は暗く、空を見上げても雲が掛かっているのか星は見えない。ただ、所々にある、燃えている松明が夜の闇を小範囲照らしていた。


 ライディはまず、松明の灯りに照れされているところを回ってみることにした。灯りに向かう途中にライディが出てきた家と同じ様な、あばら屋がいくつか見られる。壁をすり抜けて、家の中を覗くこともできるが、しない。


 この世界でもプライバシーは大切だろう。ライディはある意味で、透明人間になった様なものなので、誰にも知られずに行動出来る状態だが、だからと言って、他人の営みを覗く趣味は持っていない。誰にも知られないからと言って、に良くない事をすれば、罪悪感が少なからず心に湧く。そんな心のモヤモヤをできる限り作らずに、これから生きていきたいとライディは思う。


 そうして堂々と自分で胸を張って、神様に会いに行けたら最高だ。


 そんなことを考えながら、灯りに近づいていくと、そこには木で作られた柵が左右に伸びていて、灯りがついている所だけ柵がなく、この町? 村? の門の様な場所であった。

 そこに一人、門の外に佇んでいる人がいた。その人は手に槍を持っていて、周囲を警戒する様に顔を左右に振っていた。


(門番……かな? でもこんなに暗くなった後に1人で門番として立ち続けるのはつらいだろうなぁ)


 ライディは門に近づき、門番を観察していると、門番の人が槍を両手に構えだした。その行動にライディが外から誰か来たのかな? と首を傾げていると、そこへ、5人程の小さな影が現れた。

 ライディは現れた5人が暗くてはっきりと見えなかったが、人間の子供くらいの大きさの集団だろうと推測した。

 

(あぁ、門番として外から来る人を警戒するのは分かるけど、いきなり槍を向けるのはどうなのだろう?)


 門番の対応に疑問を抱いていると、事態が急変した。門番が対峙していた5人に槍で襲い掛かったのだ。


 門番の行動にライディは目を剥いてしまう。そこから起こったことは、ライディからして門番の一方的な蹂躙だった。


 まず門番が5人に一気に肉薄した。


 先頭の人の頭を槍の一突きで貫く。


 そして、すぐに槍を引き戻し、頭を貫かれた人が倒れる。


 その間に、槍の横薙ぎで横にいた相手の首をへし折る。


 首を折られた本人は「グッギャッガァ…」と苦しそうな悲鳴を上げ、倒れていく。


 そこで一旦門番が残りの3人と距離をとるように飛び下がり、バラバラと門番への反撃に寄って来た相手を門番が確固撃破していく。


 門番は相手の対格差と槍のリーチの差をうまく使い、怒りの雄叫びを上げながら接近してきた相手の頭を上段から槍で叩き潰す。


 そして、2人同時に接近してきた相手に対して、まず右に移動し右の人が直線的に追ってくるのを、そのまま槍で突き刺し倒す。


 左の人に対しては、槍の横薙ぎで対応し――


 ――戦闘が終了した。



 門番は5人との戦闘(蹂躙)後、腰に下げたナイフで5人それぞれの胸元を切り、何かを取り出していた。


 ライディはその戦闘を見て、あまりにも肉の潰れる生々しい音、潰れた頭、おびただしい血と血の滴る音に恐れ慄(おのの)いていた。

 初めて見る殺し合い、初めて聞く肉の潰れる様な生々しい音、初めて聞く死へ向かう者の悲鳴……戦闘が終わり、頭がこの光景を理解し始めると、より身体の芯から恐怖が伝染していく。


 背中や肩に鳥肌が立ち、手が震え、膝が笑う。


(……怖い)


 それ以外に何も考えられない。あまりに衝撃的で、さっきの戦闘の光景が頭から離れない。ついライディはこの惨状を生み出した張本人の門番を見つめてしまう。


 門番は一通りの作業を終わらせたのか、門の外から戻ってきた。


 そして、門番とライディの


(……え? 目が合ってる?)


 ライディはこれに驚き、頭が真っ白になりかけたが、自分が見えない存在であることを思い出し、勘違いだと思い直す。

 しかし、門番も驚いた表情をしており、こちらを凝視している。


 ライディは自分お後ろに誰かいるのかと思い、振り返って後ろを確認してみるが特に誰もいなかった。

 

 再び、門番に視線を戻すが、やはりこちらを凝視している。


(……見えてる……私、見つかってる!?)


 やばい! と思い、相手から視線を逸らさず、一歩ゆっくり足を後ろに引いてみる。


「~~~? ~~~!? ~~~~~~!」


 そうすると急に門番が話し出し、何かに驚いた後、ライディに槍の穂先を向けてくる。


 言葉は分からないが、この行動で敵意を持たれていることは、分かる。


 しかし、この門番相手に戦っても勝てないし、今のライディには戦う度胸もない。そして、さっきの戦闘を見る限り、逃げてもすぐに追いつかれるだろう。相手の攻撃がすり抜けることに賭けるのも有りかもしれないが、私のことが見える相手の攻撃は普通に当たってしまいそうな気がする。なら、もうライディに残された選択肢は1つしかない。


『私、何もしてません! 私、門番さんの敵じゃないです! 攻撃できません! …』


 ライディは必死に門番に訴えた。手を万歳の姿勢で頭よりも高く上げて、無抵抗、敵意なしのアピールをする。

 ライディの行動を怪訝そうに見ているのを見るに言葉は恐らく聞こえていない。それでも、とにかく敵意が無いことをライディは訴え続けた。


 そして、しばらくライディが万歳をして「私、敵じゃないです!」 ということを訴え続けていると、門番が槍を下ろしてくれた。

 そのことにライディは一先ず内心でホッとするが、まだ完全に安全とは言えないので、万歳は続けて、門番の反応を伺う。


 すると門番は何か話し出して近寄ってくる。その行動にライディは手を下ろして、後ろに下がろうとしたが、たじろいでしまい足が縺(もつ)れて尻もちをついてしまう。


 ライディは「あ、終わった…」と半ば遠いところを見つめ始めた時、門番が、ライディに近づいてきて、ライディを殺す……ことはなかった。



 ☆



 ライディはあの後、門番が「ここに居ろ」というジェスチャーによる指示通りに、指定された所で待たされた。


 そして、太陽が昇り始めるころに門番が仕事を終えたみたいで、ライディを連れて、門番は家に帰った。

 

 ライディは門番に何をされるかわからず、戦々恐々としていたが、特に酷いこともされず、そのまま門番の家に居着いてしまった。

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