第7話 現状と魔法

 何も成長させることが出来ないよりは遥かにマシだが、出来ればすべての項目を平均的に上げていきたかった。


(まぁ、仕方ない。今できることをしていこう)


 今ある【EXP】は1ポイント。【感 覚】に1ポイント振るのに2ポイント必要だったので、今ある【EXP】では自分を成長させることが出来ないだろう。ライディはまだ【EXP】の増やす方法を「1日生きること」しか知らない為、ステータスの成長についてはほとんど手詰まりだった。

 

 ライディはステータスに関する興味をなくすと、今度はこの精神体(からだ)について考える。


(この精神体からだは神様が名前を付けてくれた時にできた姿形はそのままかな、白色袖なしワンピースも着ているし……)


 この精神体からだは赤ちゃんの身体の時と違い、理由は分からないが五感がある程度備わっている。そのおかげで、赤ちゃんの身体の時には分らなかったことが分かるようになった。そして、移動できるようになったことが大きい。


(これで、この狭いあばら屋から出られる。ただ、陽光は避けないと、かなり重い日焼けをしてしまう。……いや、これって私の【種 族】がお化け、アンデット(レイス)だから日の光に弱いのかな? 多分そんな感じするな。お化けと言えば、夜とかお墓とか薄暗いところにいそうなイメージだよね。じゃあ、夜しか外に出られないか……ッ!)


 急にガラガラっと、この部屋の扉が開けられ陽光が部屋の中を照らす。


 ライディは扉の音にも驚いたが、それとともに差す陽光に当たり、痛みが走った為とっさに影に逃げた。


 そこに扉を開けた本人たちが部屋に入ってきた。


 その人達は男女の2人組だった。男性は仕事で疲れたのかひどく疲れた表情(元々その顔かもしれない)をしていて着心地の悪そうな生地のタンクトップの様な上着と半ズボンを履いていた。女性の方は男性よりも具合が悪そうな顔色と表情で、身体全体的にやせ細っていて不健康そうな印象を受け、服装も男性の方と似たようなものを着ている。両者とも風呂に何日も入っていないのか、髪はぼさぼさで手や足は土で汚れていた。そして男性は手にはくわを持っていて、女性は採れた作物なのか、恐らく食べ物を持っていた。


 この男女は私の元の身体の両親なのだろうとライディは察していた。そしてこのあばら屋の状態からも裕福ではないだろうとは思っていたが、やはり生活は色々厳しそうに見えた。


 そして男女が各々に部屋の中を移動して、ざらざらした床にくつろぎだす。


 そこで、ライディは少し疑問に思う。この男女は赤ちゃん(死体だが)に見向きのしないのだ、この世界の常識がどうかは知らないが、少しは気にはしないのだろうか? 


(あんまり赤ちゃんに対する愛情とかないのかな? それ以上に疲れているのかな?)


 少し釈然としないが今のライディが考えても特に意味がない。ここは異世界である。この世界の常識と倫理観を知らないので、物事の根本を地球(日本)中心でばかり見ていては、これからやっていけないだろう。


(まぁ、いいや。でもこの人達は私のこと見えないのかな?)


 陽光を避け逃げるように影に入ったライディだが、この狭い室内では、すぐに気付かれるだろう。しかし、気づかれないということは、実際にライディの姿が見えていないのではないだろうか? そう思ったライディは行動を起こす。


 まずは床に胡坐をかいている男性に接近し、軽く肩に触れてみる……触れられなかった。肩に触れようとしたライディの手は、肩の中に入ったかのように、すり抜けてしまった。感覚としては、スクリーンに投影している光を横切っても物理的に痛くも痒くもないのと一緒な感じだ。触れようとしても通し抜け、ライディ自身も特に変わった感触はなかった。ただ。

 しかし、男性の方は何か感じたらしく後ろに振り返り、きょろきょろと周りを見回す。しかし、勘違いだと考えたのか、ため息をついて、くつろいでしまった。 


 ライディは次に自分の声が相手に聞こえるか試してみる。


『こんにちは~』


「「……」」


 結果、無視された。いや、ライディの声は恐らく相手に聞こえていないだけだろう。しかし一方的ではあるが、挨拶をしたのに返事や反応がないのは少し辛いものがある。まぁ、勝手に試して勝手に傷ついただけであるが。


 しかし、この検証でまず、この精神体からだは人の身体をすり抜けられることが分かった。そして恐らく、壁とかも同様だろう。ただ、人に触ったり通り抜けたりすると何か違和感があるのかもしれない。次に私の発した声は恐らく聞こえていない。もしかしたら、大声だったりすると聞こえるのかもしれないが、さっきのライディの挨拶の声の大きさで反応なしとなると、聞こない方の確率が高そうだ。

 しかし言語や文化の違いのせいかもしれない。「こんにちは!」といったセリフ、音は極力無視する決まりでもある可能性もあるには、ある。ライディならさっきの様な完全な不意打ちの挨拶をされると、ビックリして肩が跳ねるくらいの反応はしてしまうだろうが。


 それからライディは元両親だっただろう男女に何もせず、ただ生活を観察していた。

 

 男女はしばらく寛いだ後、大・中・小のツボの内、男性が大を、女性は中をもって、家の外に行き水を持ってきた。そして男性が囲炉裏のようなところに木の枝を集めて、火を付けた。この男性の行動にライディは驚かされた。


(え!? 何それ? 手品? まさか……魔法?)


 別に木の枝に火を付けることに対しては驚かないが、ライターやマッチなどの道具なしに男性が何かを口ずさんだら、その手のひらにライターの火くらいの炎が出来たのだ。

 

 この現象がただの手品には見えなかった。少なくともライディは地球でこんな現象を見たことがなかった。


 そんな、ライディの驚きなどつゆも知らず、魔法を使った男性は火を付けた木の枝を囲炉裏に移し、水の入ったツボを火に当てて温め始めるのだった。


 ☆

 

 ライディはしばらく、男女2人の生活を魔法とか何かこの世界ならではの新しい発見が無いか観察していた。しかし、あの一軒以来特に興味のひかれるようなことは起きなかった。

 

 かなり長く観察していたのか日が沈み、外が暗くなってしまった。


 ライディはもうこの家にいても、この世界についてしれることは少ないと考え、家の外に出ることにした。

 ライディは隙間の多い木で出来た家の壁に手をかけてすり抜けられるか試すと、普通にすり抜けた。壁もすり抜けられる見たいなのでそのまま全身すり抜けると家の外に出ることが出来た。


 外は暗く、空を見上げても雲が掛かっているのか星は見えない。ただ、所々にある、燃えている松明が夜の闇を小範囲照らしていた。

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