第22話 白煙の衣

先にダメージから回復したベルトレだったが、理不尽にくらった一撃に、いまだ心のダメージは健在のようで、通路の端で膝を抱えたままこのパーティーに対していつくるか分からない理不尽な扱いに疑心暗鬼になっていた。その姿は高位の魔族として、かつて魔族の軍を率いていたとは思えず、保健所に保護されたばかりの子犬のようだった。








「ベル?」


「ベルちゃん、ごめんね?あの時は他に良い案を思いつかなくて、だから機嫌直して?」


ベルトレはその後く万引きGメンばりの鋭い視線でロゼッタの一挙手一投足を警戒し、暫く誰とも口をきかなかった。








その後、ベルトレに続いて復活したクラインは、暫く内股であったが、四人は一様に目の前の扉に視線を向けていた。


「この扉の先に、何年も閉じ込められているのかな?」


「だとすると、こんな場所で何の役割さえ与えられなかった事に、永遠に苦しんでいるのかも?またはもう亡くなっているかもしれない。」








ロゼッタと一ノ瀬は、扉の向こうに居ると思われる者に対し、悲観的な思いを述べた。今までと違い、固く閉ざされたままの扉はいっこうに開く様子がなく、一ノ瀬と未だ内股のクラインは、左右の扉に分かれて、閉ざされたままの扉を力の限り押したが錆びついているのか扉は開かずにいた。そのまま顔を真っ赤にしてを押し続ける二人にベルトレが背後から渇を入れた。








「貴様。そんな内股で扉が開くと思っているのか。腰を入れんか腰を!」


その言葉を聞いたクラインは、額に青筋を入れ、背後で監督の様に腕組みをするベルトレに怒号を発した。


「おぉ前も押さんかー!!!」








ベルトレを含めた三人は、未だ開く事の無い扉の前で疲れ果てた様子で座り込んでいた。


「ハァッハァッこの扉、何年閉めたままなんだ?びくともしないぞ、」


「貴様がいつまでも内股だからだろう。」


「手を添えていただけの貴様に言われる筋合いは無い!」








そんなやり取りをする三人の間をすり抜けて行ったロゼッタは、扉に付けられている取っ手を持ち不意に引っ張ると、意図も簡単に片側の扉が開いた。


「「「、、、」」」








唖然とする三人に振り返ったロゼッタは気まずそうに三人に語りかけた。


「、、、えっと、この扉押すんじゃなくて、引くみたい。何かごめんね。」


まるで感情を無くしたかの様に三人は暫くそのままだった。








何故か疲れ切っていた三人とロゼッタは、扉の中に足を踏み入れていたが、そこには後ろの無限回廊以上に豪華な作りのまるで童話に出てくるお姫様のお部屋のような空間があった。壁画を見つけた頃は、薄暗い地下牢のような場所をイメージしていた一ノ瀬は、無限回廊を目にした時の様な気持ちを心の中で呟いた。


(、、俺、もうここに住もうかな?)








現実逃避をしていた一ノ瀬は、ある事に気がついた。


「そう言えば、壁画に記されてた人が見当たらないけど、もしかしてもう亡くなってしまったのかな?」


「あの壁面もかなり古かったから、そうなのかもしれないわね。」








一ノ瀬の問いかけにロゼッタが答えたとき、奥から扉の開く音がした。四人は音のした方向を向き身構えていると、奥から白いモヤと共に一人の人影が見えてきた。その影は白いモヤを纏い部屋を照らす光の元に現れた時、クラインの眼鏡が〈パリンッ〉と音をたてながら独りでに割れ、四人は目の前の人物を見て吹き出していた。


「「「「ブッフォ!!!!!!!??????」」」」






「おや?もうここまで来ていたのだな?」


一同の前には、先程まで湯浴みをしていたであろう少し濡れ腰まである白銀の髪に、初雪の様な真っ白の肌にたわわな胸が強調され、美しく伸びた脚は美麗に舞う白鳥を彷彿とさせ湯気を纏うように漂わせる青い瞳の女性は、首にタオルをかけたまま脚を少し交差させて一同を見ながら立っていた。








ロゼッタは顔を真っ赤に染め上げ、アワアワとしていたが、他の三人は立ったまま姿勢を正して、目の前のグラマラスな体を全面に出した女性に静かにお辞儀をした。


「「「ありがとうございました!!」」」








出会って初めてと言っていいほどに、三人の心が繋がった瞬間であった。


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