第4話


「待てー!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


現在我達は、一人の男性を追っている。駅の混雑に乗じ泥棒をした犯人を。


そして、肩車されている我はまるでジェットコースターに乗ってるような感覚に陥っていた。


泥棒はスルスルと人の間をすり抜けどんどんと引き離している。あの動き、きっと常習犯に違いない。なんとなくそう思った。


「逃げ足だけは速いね」

「もう諦めよう、入学式遅れてしまうよ」


明音は「途中で追うの止めたら後悔する」と言って我の話を終わらせた。だったら、「我だけ降ろして」と言おうと思ったが明音の鬼のような物凄い顔を見て我はチキってしまった。


だが、そう言っている間にもどんどんと距離が離れていく。何しろ体重が他の人より軽いといっても明音は我を肩車をした状態で泥棒を追いかけているのだ。肩車をしていなかったら多分だが捕まえられる可能性は十分あっただろう。完全に我は足手纏いになっている。


「はぁ、はぁ、体力が……」


既に明音の体力は尽きかけている。これでも持った方だろう、何しろ肩車をした状態で1.5キロくらいの距離があるホームから駅の出口付近まで追いかけてきたのだから。泥棒も泥棒で我は感心していた。1.5キロを全力疾走してるのだから。陸上でもやっていたのかな?


おっと、そんな事思っている場合ではないな。

我は急いで使えるものがないかバックの中を漁るが、特に使えるものはなかった。なら、明音のバックの中には何かあるかと思い、明音に一言「バックの中見せて」とだけ言い中を見ると……


「縄跳び……これは使えるかも知れない」


何故縄跳びが入っているのかは知らないが今だけはこれを幸運と思っておこう。


我は縄跳びを構え、泥棒の足に向かって投げる。


「喰らえ、『バインド』」


投げられた縄跳びは一直線に泥棒の足元に飛んでいく。そして……外した。


「……」

「まだ、諦めるには早いよ」


地面に落ちた縄跳びを明音が拾い、我に渡してくる。


「今度は……外さないでよ」


息も上がり、これを外したら泥棒は逃げてしまうだろう。責任重大だ。


我は息を整え、投げるのに集中する。

明音も当たりやすいように最後の力を振り絞り泥棒な近づいてくれてる。そして……


「ぐわっ!!」


見事泥棒の足元に投げる事ができ、縄跳びが足に絡まり盛大に頭から転がった。


「や、やった!!」

「すごい!!やるね真央くん」


魔王時代の時は拘束魔法の『バインド』を一回も命中させた事がなかったのに、これは奇跡としか言いようがない。

ここで外していたらと思うと……想像もしたくない。


転けた泥棒はというと……


「くそっ、舐めやがって!!」


なんと、泥棒は懐から折りたたみ式のナイフを持ち出しこちらに向けて来た。

これは完全に警察沙汰になるな。てか今の状況かなり危ないんじゃ……


「真央くん……しっかり捕まっててね」

「え?まさか!!」


明音はナイフを持った泥棒に正面から向かい合い、そして……


「せ、お、い、投げ!!!」


ナイフを振り回す事なく泥棒は呆気なく地面に叩きつけられ気を失っていた。


そして、我も同様背負い投げをした時の衝撃で頭を打ち、気を失っていた。


のちに、この事件の一部始終がSNSに拡散され、トレンド入りまでする事になる。「肩車をした男女」という言葉で。

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元魔王の学校生活 黒滝イクヤ @yaritori63

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