6. 初対面の反応をされて少し傷ついたよ

 目の前には空になった容器。

 遠慮を捨て去った私の3度のおかわりにより、鍋はすっかり空になりました。


 目の前で「明日の朝食が……」とショックを受けているみたいです。

 ごめんなさい、美味しかったのでつい……。

 でも止めなかったほうも、ちょっとは悪いです。


 今の私は"遠慮" "慎み"なんて言葉を投げ捨てた、心に素直に生きるダメ令嬢です。

 遠慮しないで食べてね、と言われたら食べつくすまで止まりません。


「そういえば、さっきはパーティーから追放とか言ってたよね?

 なぜそんな誤解が生じたのかは分からないけど、最初に出てくる発想じゃない」


 突然、そんなことを聞かれました。

 それは少々答えづらい質問です。


 "真っ先に追放という発想が出てきたのは、実際に追放された直後だから"

 もちろん悪いのは、私ではなく、ヴォン殿下やイリア。

 そう思っていても、パーティー追放から追放されたということは率先して話したいものでもありません。


 返事をしない私をよそに、目の前の少年は言葉を続けます。


「演習中、1人で彷徨ってる人を見つけたら。

 普通は"パーティーからはぐれた"ことを疑うと思うんだ」


 ――それなのに、君は最初に"追放"と言った。


 なぜだい? 

 そう問われて、返す言葉もありませんでした。

 真っ先に「パーティーから追放」なんてことを言い出すのは、実際に追放されたことがある人ぐらい。


「ええ。あなたのご想像のとおりだと思います。

 殿下から直々に『居てもいなくても良い』と言われて追放されました。

 婚約破棄まで言い渡されましたよ。


 ……殿下の心をつなぎ止められなかった私を、無様だと笑いますか?」


 すでに目の前の少年には、自らの名前を名乗ってしまっています。

 ヴォン殿下と婚約しており、今回もパーティーメンバーとして同行していたのは周知の事実のはずです。

 自嘲するように言った私に


「あの野郎、何しでかしてくれちゃってるの!?」


 目の前の少年は、呆れた口調でヴォン殿下を"あいつ"呼ばわりしました。

 誰かに聞かれていたら、不敬罪と難癖付けられそうな発言です。


「あー、もう。滅茶苦茶だよ。

 いつまで経っても、面倒そうなことはことごとくマリアンヌ嬢に押しつけてさ。

 自分はイリア嬢といちゃいちゃいちゃいちゃ。


 ……いつか、愛想を付かされるかもしれない、と心配はしていたけれど」


 ――婚約破棄かあ


 鍋少年、なんか遠い目をしています。

 どうしたのでしょう?


「パーティーを追放だと。護衛すら付けずに。

 何てことを、やらかしやがるんだ……」


 怒涛の独り言に、私は口をはさめません。

  

「ヴァン殿下が王になれば、民思いの優しい賢王になる、とまた噂を流そう。

 合わせて、フラフラしてる能無しだと僕の悪評も付け足して。

 あ、そうだ。品種改良の手柄も、あいつの押し付けよう。


 それで、どうにか挽回できるかなあ……?」


 う~ん、と考え込むと。


「……うん。無理だな。

 聖女様に婚約破棄を叩きつけて、こうして命を危険に晒したこと。

 その罪をもみ消せるほどの功績なんて……あるわけがない。


 詰んだな、兄上。さよなら」


 いったい、この少年は何を言っているのだろう?

 頭にクエッションマークを浮かべていた私ですが――


 ん? さっきまで話していたのは、ヴォン殿下が私を追放したことについて……ですよね。

 それで、兄上ってことは……。


「あ!」


 思わず目の前の少年を指さしてしまいました。

 お行儀悪いことこの上ないですが、驚きが上回ります。


「まさかデューク殿下!?」


「あ、ようやく気が付いた?

 『どこかでお会いしましたかね?』なんて初対面の反応をされて、少し傷ついたよ」


 鍋少年、改めデューク殿下が私に困ったような笑顔を向けました。

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