第4話 城崎という男

「ちょっと大丈夫?」

たった1週間会わなかっただけで痩せていった恭介

休みの日に会った恋人である幸は顔を覗き込んだ


「頬がこけてる。今何キロ?」

「59kg」

「えっ!?8kgも痩せてるじゃん、175cmあるのにヒョロヒョロ、ヒョロ介じゃん!」


「それでもやっと飯が食えるようになってきた。最初の3日は何も食えなかったし、今は食っても食っても体重が落ちる、っていうかヒョロ介って」


「それならとりあえずご飯だね、肉でも食べよう肉でも、盛り盛り肉介」


「それじゃ共食いみたいになるじゃん」


肉体的な疲労だけならそこまで一気に痩せはしない


慣れない環境や仕事


気がかりなのは城崎という男

仕事上は愛想よくしているが、少し離れると敵視しているように感じる


恭介はその理由も探れないほど疲弊していた


幸の存在は支えではあったが、待ち合わせに間に合うかギリギリで無理やり目を覚ました。


遅番の生活は夕方から

朝起きて大学に通っている幸とは、そもそも時間軸もズレてきていたが、それ以上に仕事以外の時間の9割を睡眠に使っていた


翌日もゾンビの様に職場に向かう


けたたましく、ずっと喫煙所の中にいるようなホールで常に7kgの箱との格闘


玉を流す際には、多ければ30箱位を上げたり下げたりしながら、聞こえないインカムを聞こうとしていた


その日もバタバタとしているうちに1日が終わり、閉店の作業をしていると


「冴島さん、ちょっといいですか?」

教えてくれていた山本が声をかけてきた


山本は恭介を城崎の元に連れて行った

「城崎君、冴島さんどう?」


パチンコ台のメンテナンスをしながら話を聞く城崎

「どうって、テンパってるなとは思うよ。だけど研修受けてるんだよね?ホールでの業務とか、だからこっちとしても何を教えていいのか解らないし」


「業務的な事は…何も」


「何も!!??」

城崎と山本の声がユニゾンした


「え、じゃあ研修ってなにしたの?」


「よく解らない事を叫ばされてただけです」


「…解らない事は、教えるので、聞いて下さい」


ありのままを話しただけ

それだけに目が覚めた気がした


そりゃああれを研修って呼ぶのはどうかしてる


翌日も恭介は聞こえないインカムと格闘し、アルバイトの中で1番使えない人間という状況で、バタバタしながら1日が終わろうとしていた


なんなんだこれ


その思いは日に日に確かなものになっていった


「冴島さん」


閉店作業を進めていると、城崎が声をかけてきた


「ちょっといいですか?」

「…はい」


怒られる理由しか思い浮かばない


「この会社は、駄目だと思う。冴島さんにはまだ解らないかもですが、本当に酷い。なにも教えず社員放り込むとかもない。」


恭介は聞きながら、何故か無性に恥ずかしくなった

疑問すら浮かばなかった、こんなもんだと思っていたから


「けど、冴島さんが頑張ってるのは見てれば解るんで、僕がガッツリ教えます」


「…えっ?」

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