第3話 西東京ディズニーランド
モグラのはったんは数ある捜査資料の中から、ニッキーねずみに関する情報を細大漏らさずピックアップし、精査した。
「やはり、あいつか」
はったんは資料をデスクに置きながらつぶやき、警察に協力要請を願おうと電話を取ったが、すぐに受話器を戻した。
ニッキーと市民の憧れである夢の国「西東京ディズニーランド」との関係は、警察も掴んでいるはずだ。しかしそれに加え「もっこ」との関連までは想像もしていないだろう。万が一、この事実が知られたら大変なことになる。西東京ディズニーランドが地球全体の敵とみなされることになる。はったんはそれを恐れた。
井の頭公園から北へ五キロほど行ったところに西東京ディズニーランドはある。
オープン当初は、多くの家族づれや学生仲間であろうか、若者達が連日、列をなし、入場するまで一時間、休日などは二時間待ちも当たり前というほどの盛況ぶりであった。それでもなお西は三鷹から東は吉祥寺まで、全国津々浦々から多くの人々が押し寄せた。
今でもその人気は衰えていない。連日、多くの人々で賑わっている。しかし数年前からランド内の雰囲気が徐々に変わってきた。何かが変だという評判が立つようになっていた。実際、入場料金に関しては開園当初の五倍になっている。それに関しては時の流れで仕方が無いと思われているようだが、やはりその内容の変化には、違和感を感じる市民が増えていたのだ。
以前は特に子ども向けのアトラクションが多数あり、パレードなども行なわれ、園内は人気キャラクターで満たされていた。だがいつの頃からか、大人料金より子ども料金が高くなり、子どもがキャラクターに近づこうものなら、眼を吊り上げたアヒルの着ぐるみが子どもをす巻にして池に放り込むというアトラクションが開催されるようになっていた。
それだけではない。以前は単なるアトラクションだったランド内の施設が、いつの間にかサウナに変わっていたり、突然大浴場ができたり、最新設備のジムも設置された。大型画面でリクライニングの椅子に座りビールが飲めるようにもなったし、パチンコ台も並んだ。入口は「番台」と呼ばれるようになった。
ランドの変化は利用客らの評判になった。実際に以前は子どもと手を繋いで入園していた人々の姿が、最近は手桶とタオルを持って行く姿に変わってきた。
もちろんこの事態を警察は黙ってみてはいなかった。詳しい聴き取り、潜入捜査の結果、西東京ディズニーランドは、ランドはランドでも、おそらく徐々に健康ランドに変えられていくのではないかという推測がなされたのである。
それがどういう意図で行なわれようとしているのか、改装するのなら、なぜはっきりと利用者に伝えないのか、様々な疑問が当然のごとく浮かび上がった。それと同時に、この変化の陰にねずみのような姿で、白と黒の服装に身を包んだニッキーねずみが暗躍していることを警察は突き止めたのであった。
(続く)
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