第2.5章 幕間

第15話 Special Week



 オレとしてはオレが作った飯を美味そうに食う奴は大好きだ。

 なんせ人間の三大欲求、【食欲】・睡眠欲・性欲。

 最初に来るのが【食欲】なんだからな。

 

 食べることは生きることだ。


 誰だって何かを食らって生きている。



 我は飯屋メシヤなり。



 ◆  ◆  ◆



「マスター、おかわり」

「あいよー……ははっ、相変わらずよく食うな、クリスちゃん」

「マスターの料理は美味いから、いくらでも行ける」


 新入り四人が来て一週間が経った。

 アイツの紹介で来た二人とその二人が連れてきた二人。

 で、そのうちの一人、クリスちゃんをオレは特に気に入っている。

 いやだって、ほら、ここまでなんでも旨そうに食う奴は初めて見たからな。

 

「にしても、今日は休みでいいって言ったんだがな」

「アタシは休みだからこそ、ここに来た。

 あの家でまともに飯を作れる奴は……ギリギリでカナロさんくらいだから」

「なるほどな、なんとなくわかるが、オルフェちゃんがまともに作れないって何か意外だ」

「あの子、卵料理とおにぎりは上手いが、それ以外がね……」


 人を見かけで判断しちゃいかんな。

 いや、ずっと水しか飲まない奴と戦うことしか知らなかった奴はまあ出来ないとは思う。


「お前さんは?」

「アタシか? 食べられる草と食べられない草の見分けがつくくらいの料理スキルだよ」

「おう、それはサバイバル特化だな」


 まあ、毒とかの危険性を知ってるに越したことはない。

 毒はマジで危険だからな、うんうん。

 それで命を落とした奴を何人も見てきたからな。


「ビスタはともかく他の三人は何してる?」

「カナロさんとオルフェちゃんは街に買い出しに、アインは寝てたけどもそろそろ起きたんじゃないかな」

「ああ、何となく想像がつく」

「でしょ……アイツ8時間寝ないと16時間動けないってキッチリした生活リズムしてるから」


 睡眠欲が強いタイプじゃないのか。

 性欲は……ないだろうな、一つ屋根の下で可愛い子三人と住んでるのにそういう話を聴かない。

 いや……まさかあっちの気か?


「アイツ、人として欲がなさすぎねぇか?」

「そうね、人として大事なものをどっかで落っことしたんじゃない」


 なるほどな。

 人のカタチをした何かだな。

 うん、そういうことにしておこう。


「そういえばさ」

「どした?」

「マスターの本名って?」

「オレの名前? そういや言ってなかったか?」

「聞いてない」


 ああ、そういえば皆『マスター』と呼ぶ。

 先代の爺さんも皆から『マスター』と呼ばれていたな。

 ま、店主マスターではなく支配者マスターとしての意味合いが強かったがな。


「で、本名は?」

「『ディー・インセント』」

「ふぅん……案外普通の……いや、マスターのイニシャルはSSじゃないの!?」

「いや、自分の名前をギルドの名前に使うほど自惚れはねぇよ!?」


 SSって一体、何の略称なのか。

 そういや、先代も忘れたって言ってたが……。

 ギルドマスターなのにちゃんと説明出来ねぇってどうなんだろうか?

 まあ、それもオレらしいか!


「マスター、デザート作れる?」

「おう、作れるぜ!」

「さっすがー何かください、あとコーヒーも」

「あいよー」


 コーヒーに合うデザートか……。

 餡子系は除外だ、あれはお茶の方が合う。

 となれば、ケーキ系か……パンケーキくらいならパパっと出来るだろう。


 問題は量だ。


 クリスちゃんは朝から結構な量を……いや、いつも通りの量を食った。

 それでいて今日はデザートまで要求してきた。

 そして『甘いものは別腹』という格言がある。

 

 ま、いっちょやったりますか。



 ……


 …………


 …………………



「おあがりよ」

「パンケーキとコーヒーのセット……悪くはない」

「食えるか?」

「余裕」


 がっつり一食分作ったが……あ、やっぱ旨そうに食ってる。

 この量で正解だったか、少し大きめに作ったが問題なかったかな。

 

「ごちそうさまでした!」

「おう、どうだった?」

「美味オブ美味」

「そりゃあよかった」


 笑みを浮かべている。 

 うむ、オレとしても非常に嬉しい。

 さて、洗い物して、昼の仕込みをすっかな。




「――――こちらがギルドSS会の本拠地でしょうか!!!」 




 聞きなれぬ声が響いた。

 声のする方には見慣れrぬ金髪碧眼の少女。

 ここでオレの飯を食いに来た客のようには見えない。

 となると……


「お嬢ちゃん、依頼かい?」

「ええ、わたくし【ノーザ・ブラックヒル】と申します。

 ここのギルドに所属しているカナロ様というお方にわたくしの護衛を依頼したくて参りました」


 ああ、そういう依頼か。

 しかし、カナロか…………。


「ダメだな、そいつにはまだ人様の依頼に単独で出すわけにはないんでな」

「!? 貴方、たかがコックの分際でそんなことを……このギルドの代表者を出してくださいまし!!」

「いや、オレはここのギルドマスターだが?」

「なんとーっ!?」


 やっぱ、そういう風に見えねぇのか。

 オーラがないのか、それとも威厳がないのか。


「とりあえず、そのコックの格好のせいでは?」

「あ、そっか……ちょい待ってろ、着替えてくる。クリスちゃん接客よろー」

「は? アタシ、そういうのしたこと……」

「よろ~~」


 任せた。

 ……と、言いつつクリスちゃんの接客態度がちょいと気になるぜ。

 スズカちゃんとかルーラとかノレヴァンなら確実に出来る。

 ドゥラは論外。ビスタも論外。カイトのおっさんはまあ若い嫁さんと娘さんいるけどどうだろうか?

 

 さて、まあ着替えるか。



 ……


 …………


 …………………



「またせたな」


 オレとしての正装。

 ああ、やっぱ落ち着かねぇわ。

 普段からこんなん着て仕事してる奴の気が知れねぇわ。


「馬子にも衣装って感じだろ?」

「マイナスの意味ですよ、それ」

「わざとそう使ってる……で、だ。

 ブラックヒル家のご令嬢さんがウチの新入りを単独指名ってことはなんかしたのか、アイツ?」

「ああ、この間、ノレヴァンさんとの魔法訓練の時にこの子が襲われてるところをカナロさんが単独で助けてですね」

「お前はそん時一緒じゃなかったのか? ノレヴァンも」

「アタシの反応が遅れたのとカナロさんがあまりにも早すぎて置いて行かれた。

 あれはあれで化け物……つか、同じ人間だとしてもどんな鍛え方してんだよって話」

「なるほど……アイツの弟子なら、それくらいできるだろうな」


 あの魔女が普通の奴を紹介するわけないもんな。

 ああ、あの特徴的な高笑いが幻聴してきたわ……。

 

「あのお方、カナロ様の鋭い目、人とは一線を画す存在感……。

 ミステリアスな雰囲気……まるで稲妻に撃たれたような衝撃でしたわ……

 このようなモヤモヤした気持ちが続いてなりませんわ……

 それでそこの貴女! カナロ様と一緒に住んでいるって何様のつもりなんですの!?」

「ただの居候で同僚。それ以上でそれ以下でもない。

 まあ強いて言うなら、アイツのお客様」

「なんですってーっ!??」


 あ、これはコミュニケーション取れてない奴だな。

 クリスちゃんに接客はやらせない方がいいな。

 でも、見てて面白いから、とにかくよし。

 

「まあ、お嬢ちゃんの依頼は受けられないってことを承知していただきたい。

 こっちも仕事なんでね、どんな仕事でも一つ一つ真剣に命張っている。

 だから、ここではまだまだ経験が少ない奴を一人で行かせるなんて真似は出来ない。

 そこは分かっていただきたい」

「それはどんなに大金を積んでも受けないということでしょうか?」

「そうだな、今はここでその仕事としては受けれないってことだ」

「そうですが……なら、せめてカナロ様を出してくださいまし!!」

「それは無理だな」

「!? なんででしょうか!?」

「アイツ、今日は休みだからな。どこいっかわかんねぇよ」


 休んでいる奴を無理に働かせてもいい成果は得られない。

 無理したってロクなことにはならねぇ……今までの経験則だ。

 

「あとお嬢ちゃん、学生だろ。次からは保護者同伴で来なさい」

「あ……それはその……」

「ああ、その子、今日家族や家の人にお忍びでここまで来たんだって」

「ほぉん……なるほどね」


 なるほど。

 理解した。

 オレは賢いので。

 随分とお転婆娘だな、この娘。


「んじゃあ、また日を改めてきな」 

「……だから、その……」

「『クリスちゃんは今日休みで街で迷子になってたその娘と偶々出会って保護した』

 そのくらいのノリでいいじゃねぇかな?」

「了解した。それが今日の飯代代わりでいい?」

「おう、いいぜ」


 やっぱ、クリスちゃんのそういうノリ結構好きだわ。

 うすうす気づいてたが、実はただの田舎者じゃねぇな。

 

「マスター、裏口から出るわね」

「何故?」

「強いて言うなら女の勘」

「なるほどね」


 女の勘ねぇ……。

 クリスちゃんの場合は野生の勘だろって超言ってあげたい。

 特に理由なく行動するような奴ではないと思うからな。

 

 ま、それはそれとしていってらー。


 二人を裏口まで案内したあと昼の仕込みに取り掛かった。

 さぁて、アイツらの昼飯は何にすっかな……。


 それから30分くらい経過した。

 仕込みは上々、流石オレやればできる男。

 

「マスター!! いるっすか!」

「おっ、アイン。どうした? 女を連れ込んでくるなんて結構やるじゃねぇか」

「いや、ナンパじゃなくてこの人捜してる女の子がいて、それで紆余曲折もあって相談しにきたんすよ」

「結構、説明省いたな、おい……ま、いいけども!」

「あ、いいんですね」


 アインと一緒にきたのメイドさんだった。

 うん、メイド服を着てないメイドなんていないもんな。

 あ、学生服着てるけど学生は世の中に結構いるけどな。


 ま。アインが美人のメイド同伴で来た。


「それでメイドさん、どんな人をお探しで?」

「はい、ノーザお嬢様が今朝から行方不明で……」

「ノーザ……? ノーザ・ブラックヒルさんって金髪碧眼で学生服の女の子か?」

「!? お嬢様をご存じで!??」

「ああ、さっきまでここにいたからな」

「なんですって!?」


 入れ違いになったか。

 面倒なことになったが、それはそれでよし。面白いから。

 

「それでお嬢様は今何処に!?」

「クリスちゃんに家まで送らせた」

「クリスさん、家知ってるんですかねぇ?」

「家主が一緒なんだから……ってなんだその不安そうな顔は?」

「お嬢様、空前絶後の方向音痴ですので……」

「なるほ……やべぇな、それ」


 なんか雲行きが怪しいか。


「ここ出てどれくらい、経ちましたか?」

「30分くらいだな」

「そのノーザさんは分かりませんが、クリスさんの空間把握能力は土地勘に適応出来ますし」

「ほう……随分クリスちゃんのこと買ってるな」

「付き合い長いっすからね、あの人意外に面倒見はいい方っすからね」


 なら、安心だ。

 と、言ってあげたいが、ここは言ってやらんよ。

 

「まだ、間に合いますかね?」

「クリスちゃんとノーザって子、超絶俊足の持ち主じゃなければ追いつけるかな」

「ノーザさんは分かりませんが、クリスさんは……そりゃね」

「オーケイ、察した」

「了解っす。では、カレンさん、まだ歩けますか?」

「ええ、私は大丈夫です」


 いや、大丈夫ではないことを見て分かった。

 どこか無理してる。

 少し休ませた方がいいだろう。

 ならば、だ。 


「と、その前にだ、何かの縁だ」

「? なんでしょうか?」

「何か食べていかないか?」

「……貴方、何様のつもりですの?」

「いや、このギルドのマスターだけど?」

「!? つまり、貴方がかの有名なメシア……?」

「メシア? 有名な飯屋の間違いでは?」

「おう、飯屋だぜ」


 メシアか……。

 そう謳われたのも前の大戦の最中だったか。

 

 そんな大したことはしてないんだがな。

 

 それに真の救世主メシアなら全部救ってる。


 ま、それはそれとして……



「ご注文は?」



 今のオレはここの店主マスターでギルドマスターなんだからな。


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