第14話 大外一閃


 前回のあらすじ。

 ウワァごきげんな朝食じゃねーかッ!


 

 考えるな、感じろ。


 どこかの誰かが言ったことらしいだが、確かにその通りだった。

 目の前から瞬時に消えたり現れたりする男を目で追うことはほぼ諦めた。

 いや、なんなんだろうか?


 本当に同じ種族なのかどうかも怪しい。


 まあ実戦形式でやるのがノレヴァンさんが一番と言い出したので賛同はしたが……。

 うん、相手がちょっとおかしい挙動動いている。


「…………」


 超高速で飛ぶように動いている。

 地面を蹴って移動しているのは、一瞬だけ聞こえる轟音で辛うじて分かる。

 巻き上げられた砂塵が時間差で飛んでいる。


 実戦経験あるのだろうか?

 いや、明らかに『ある』な。

 それも対人戦特化と読んだが……彼、記憶喪失ではないな。

 これは確実に言える、断言してもいい。


 カナロさん、実は人の皮を被った化け物だろ。


 まあ、アタシもアタシで何もない空間から槍を引き抜く。それで防ぐ。

 そして、また何もない空間に戻す。


 収納魔法の初歩の初歩は覚えられた。

 30分で一つだけ覚えられたんだから筋は良い方と言われた。

 アタシにとってはまあ一先ず、これだけ覚えられれば十分だ。


 反応速度をあげるために極限まで集中する。

 まだ気配を感じる分だけマシだろう。

 存在感は十分なほどにあるのだから。

 ……ああ、これは昼も爆食いコース待ったなしだわ。

 

 だが、記憶するにはこれくらいがちょうどいい。


 細胞レベルで魔法という未知のモノを記憶に刻み込む。

 良い言い方をすれば「マッスルメモリー」。

 悪い言い方をすれば「トラウマ」。


 筋肉は裏切らない。

 ……まあ、言葉にするとそれが一番だろう。

 

「はい、休憩!」

「………………ふぅ」


 ノレヴァンさんはひたすらにカナロさんにバフを掛け続けていた。

 杖を持った魔法使い……一般的な魔法使いだ。

 

「いやぁ、偶にはこういうことも楽しいね!」

「普段は何してるんですか?」

「うーん、人の護衛とか魔術関連のトラブルの解決……と言っておこうかな。

 人にモノを教えるのは昔はよくやってたけども、今はそんなにしてなかったからね。

 それにしても二人ともあれだけよく動けるね。僕はこういうのが得意で前線に出るような役目は出来ないからね」

「…………あの剣は相当なモノに見えたが?」

「いやいや、凄いのは剣であって、僕はほら……ただの魔法使いだよ」

「……そうか、ならそういうことにしておく」

「ふふっ、ありがとうね」


 まあ本人がそういうことにしたいならそういうことにしておこう。

 絶対、何かあるんだろうけども、深く詮索はしない。

 一つ役に立つ魔法のコツを教えて頂いたんだから、それくらいのことはする。

 それにしても……


「腹が空いた……」

「うん、僕も久々に彼の料理が食べたい気分になったよ」

「……あのマスターと付き合いは長いのか?」

「まあそれなりにね……彼が戦場にいたころは……おっとこれは秘匿事項だった」

「…………そうか」


 あの人、戦場にいたのか。

 実のところ想像ができない。 

 戦うような人には見えない。

 何よりもあれだけ料理スキルがあるんだから、コックの方が向いている。


「さて、彼が作ってくれた握り飯が……ここに20個ほどある」

「結構ありますね」

「僕ら3人で分けるとしても三等分できないね」

「……そうだな、なら俺は6個でいい」

「いやいや、若いんだからもっと食べないとダメだよ、僕が6個にするよ」

「じゃあ、アタシが8個食べればいい」

「君、謙遜はしないんだね」


 というわけで、アタシは8個おにぎりを食べた。

 一つ一つのおにぎりが結構な大きさだったが、美味しいから大丈夫だった。


 中身は鮭か、これ?

 多分鮭だと思う。

 この世界に鮭があるのかどうか知らんがな。


 しかし、美味い。

 今まで食ってきたおにぎりの中でも最上位の美味しさだ。

 あとアレだ、いい塩加減だ。疲れた体に丁度いい。


 美味い。

 あとはお茶か何かあれば飲みたい。

 偶にはこういう昼食もいいじゃあないか。


 


「…………なんの音だ」

「ん?」 


 

 おにぎりで夢中だったが、何か音がしたらしい。

 まずいな……あ、この不味いはおにぎりのことでなくこの今のアタシの状況だ。

 飯が旨くて反応出来なかったなんてアインが聞いたら爆笑するだろうね。


「これは……行けば面倒ごとに巻き込まれるね」

「分かるの?」

「経験上ね……で、どうす……」

「……アイツだったら、迷うことなくこう言う『助ける』だろう」


 ズドンという、轟音が目の前から響いた。

 カナロさん、実のところはかなりのお人好しなのかもしれない。

 ただ、アタシらも着いて行ってやらないといらん誤解を生むかもしれない。

 

 そういう類の奴にはストッパーがいないとな。


「で、君はどうする?」

「生憎、困ったことにこういう場面じゃすることは一つ。

 面倒ごとが増えるのを阻止する、だけ」

「オーケイ! うんうん、君らが同類だってのが良くわかったよ」 



 

 ◆  ◆  ◆




「貴方、わたくしのことをご存じなくて!?」

「…………知らんな」

「このわたくしを! 【ノーザ・ブラックヒル】を!」

「………………」

 

 完全に出遅れたわ。

 アタシらがこの場についた時には数人の屈強な男が倒れていた。

 

 で、無事そうだったのがカナロさんと金髪のお嬢様風の少女とメイドさん。

 うん、これはまあ……そういうことなんだろうな。

 『カナロさんが襲われている二人を助けて、男たちを一網打尽にした。』 


「助けていただいたことには感謝しておりますわ。

 ですが、その……貴方はなんなんですの……?」

「……ギルドSS会のカナロだ」

「ギルド!? ギルドといいますとあの秘密結社の!?」

「お嬢様、ギルドとは秘密結社のことではございませんよ」

「そうなのですか!?」


 世間知らずのお嬢様と常識人のメイドと言ったところか。


「SS会と言いますと……かの有名な壊し屋ドゥラとオセロのルーラ。

 それに風の魔術師ノレヴァンや………」

「おや、僕もそこまで有名になったようだね」

「!?」

「おや、驚かせて済まないね。

 うちのギルドの新人が何かしでかしたようなら僕がマスターに代わり謝罪させていただくが?」

「いえいえ、私とお嬢様はこの方にその野党に襲われてるところを助けていただきました。

 ありがとうございました」


 ノレヴァンさん、そこそこに有名な人だったのか。

 それにしても、ドゥラの壊し屋はともかくルーラの姉貴の【オセロ】とは一体?

 アレか、確かルーラの姉貴の刀身の色が白黒だったような、いや、そうでなかったような。

 

「さて、ここで話すのもなんだ……街まで……」

「送っていただけますのね!」

「飛ぶ」

「飛ぶ?」


 飛ぶ。


 そういうと、ノレヴァンさんは杖で地面を叩いた。

 すると、一瞬で街にワープした。

 しれっと何してんだろう、この人。


「いやぁ、あのままじゃあの場の後始末とか大変だからね」


 一理ある。

 いや、あるかな。

 まあ無くてもあるということしておこう。


「さて、お礼とか謝礼とかは別にいらないね。

 彼が勝手にしたことだから」

「……そうだな」

「まあ、僕から言えるのは護衛とか依頼があったら、是非うちのギルドをご贔屓に」


 なんという、売り込みの仕方だ……。

 が、インパクトは十分にあった。

 アタシの知る限りキワモノしかいないギルドだもんな……。


 こういうことで名前を売っておかないと……。

 いや、でもこんなんで客来るのか? 


「じゃあ、僕らはこれで……それでは……」


 また杖で地面を叩くとまたワープした。

 アンタのソレ、ちょっと便利すぎるだろ……。






 

「あのお方。カナロ様……」

「お嬢様、いかがなされましたか?」

「……いえ、なんでもございませんわ!」




 ◆  ◆  ◆




 そして、再び訓練に戻る。

 

 だんだん慣れてきたと思ったが、少しづつ速度を上げてきている。

 

 2人とも分かって、やっているな。


 だが、丁度いい。


 これくらいしてもらわないと困る。


 いや、困るか?


 まあいいか。



「でぃぃぃやッ!」

「…………ッ!」

「はい、そこまで!」



 振り抜いた槍がカナロさんを掠めた。

 クリーンヒットしなかったが、反撃できりゃ重畳だろ。

 午前中まで防御するので必死だったのだから、一日でここまで詰めれば十分。


 もう夕方。

 アフターファイブくらいだろ。

 夕飯が食べたい。


「丁度いい時間か……今から走って帰れば、いい感じの腹の減り具合になるね」

「あのワープ技は使わないんですか?」

「あれは一日三回までしか使えなくてね、今日は打ち止めなんだ、ごめんね」

「…………そうか」

「それなら仕方ない」


 空腹すぎて動けないわけではない。 

 ただ、ちょっと頭が回らない。

 脳内ツッコミが追いつかないだろう。


「じゃあ、彼の店まで競争だ!」


 しれっとフライングしやがった。

 まあ、見失いまでの距離を保てばいい。

 いや、レースなのに道を知らないというハンデを背負ってる時点で不利だよ。


「……………」


 カナロさんも無言で走ってるが、アタシと同じハンデだ。

 勝負はスパート勝負になることは確実だろう。

 それまでスタミナを温存していく。


 …………あ、よく見たら。ノレヴァンさんは走っていない。


 地面を滑っている。

 この人なんでもありだな。

 

 その後、しばらく走った。

 見覚えがある景色になってきた。

 ゴールは近い。



 そろそろスパートをかけるか。


「!」

「!」


 驚いたことにカナロさんと同時にスパートだった。

 流石に体格差もあるので一歩一歩のストライドの差は出る。

 なら、こっちは足の回転数を上げる。


 ここが最後の踏ん張りどころ。


 そして、先にゴールしたのは……




「ビスタの勝ち」




 大外から一気に捲られた。

 いや、なんでだよ。

 負けを認めたくないってのはこういうことだろう。

 うん、やっぱ納得いかねぇわ。


「マスター、ただいま」

「おう、お帰り! なんだお前ら4人だったのか?」

「ビスタさんが最後の最後に乱入してきた」

「…………ノーカウントだ」

「まあ、それよりもだ。ノレヴァンどうだった?」

「うん、二人とも中々見所があって楽しかったよ、僕としてはね」


 とりあえず、だ。

 いま、アタシは空腹なんだ。


「マスター、何か食べ物をください……」

「あいよー……好きなだけ食って明日に向けて精を付けな」


 晩飯はチーズらしきものとカツらしきものが入ったカレーらしきものだった。

 うーん、カロリーの爆弾だわ。

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