第9話 洞窟探検

 敵を追いかけていった先には不思議な物があった。何か岩で出来た山? みたいなのが学校の敷地のど真ん中に立っていた。こんなのがあったら邪魔だと思うんだけど……

 ゴブリンはそれの正面に開いた洞窟のような穴の中へと姿を消していった。

 あたし達は誰も不用意にその中に足を踏み入れたりしない。飛んで火にいる夏の虫は御免なのだ。

 しばらく様子を伺ってみるが、何かが出てくる気配は無かった。

 あたしはこの学校の関係者でここの事を知っていそうな美月に訊ねた。


「これって何? こんなところに山があったら通行の邪魔になると思うんだけど」

「知らないわ。前に来た時はこんな物はなかったもの。いったいどこから現れたのかしら、ミステリーね」

「これも怪異による物か。だが、こんな物は見た事が無いな」


 あたし達は誰もそれの正体を知らなかった。だが、知っている者がやってきた。空中からセラが蝶の羽をはばたかせて追いついてきた。


「これはダンジョンですね。まさかモンスターのみならず、こんな物まで現れようとは」

「ダンジョン?」


 あたし達はみんなでセラを見上げて話の続きを待った。注目されてセラは少し慌てたようだが、気を取り直したように話を続けた。

 向こうの世界の事は秘密にしたいが、彩夏の友達なら話をしてもいいと判断したようだ。


「ダンジョンには自然に出来た物と人為的に作られた物があるんですが、これは作られた方ですね。この手のダンジョンは支配するマスターを倒さなければ消滅しません」

「妖の造り上げた城というわけか」

「妖の城~?」


 天馬の言葉にセラがそんな物は知らないとばかりの素っ頓狂な声を上げる。あたしは気にするなと目配せを送っておいた。


「要はこの中にいるボスを倒せばこれは消えるってわけね」

「そういうことです」

「お前の式神はなかなか利口だな」

「式神?」


 首を傾げるセラの目が点になっているが、もう聞く事は聞いたのであたしは放っておいた。

 目的が決まったのなら後は実行するだけだ。


「話は決まったわね。じゃあ、中へ踏み込むか」

「事件の首謀者をつるし上げにかかるよ」

「お前ら、素人が先に進むなよ」


 そして、あたし達は未知のダンジョンの中へと踏み込んでいった。




 その頃、校門では危なそうなゴブリンがいなくなったので、人の往来が行われるようになっていた。

 みんな授業が始まる前に教室に向かっていく。


「どうしよう」


 戦いについていけなかった京は自分が彩夏達の去っていった方へ行くべきか、みんなの流れに乗って教室に行くか迷っていたが、


「綾辻さんならきっとすぐに片付けて戻ってくるよね」


 戦いで自分に出来る事は無いと判断し、教室で迎えられるように待っていようと結論づけるのだった。




 もう学校を気にしている余裕はない。あたし達はダンジョンを進んでいく。 

 中は暗い洞窟のようだった。先が見えにくいが何かが狙っているような視線は感じない。

 向こうから来てくれれば探す手間が省けるのだが、その期待は叶えられそうに無かった。

 懐中電灯を持って来れば良かったなとあたしが思った時、


「灯りを」

「灯りを付けるよ」


 天馬の言いかけた言葉に重ねるように美月がそう言って、腕時計を立ててそこに灯りを付けた。

 白くて意外と明るい光が洞窟の先を照らし出す。


「じゃーん、探偵の七つ道具~」

「あんた、便利な物持ってるじゃん」

「灯りを見て魔物が狙ってくるかもしれん。気を付けろよ」

「分かってる」

「その時は相手が身の程を知る時よ」

「フン、くれぐれも軽はずみな事をするなよ」


 あたし達はいつでも迎撃する体制を整えながら先を進んでいく。

 その横では紙で灯りを付けようとしていた天馬がその紙をそっとしまっていた。美月が先にやったので必要が無くなったのだった。

 余計な力を使わず自分が戦いに専念できた方が対処がしやすいので美月に灯りを消させる理由も無かった。

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