荒廃領地でSSSRスルタン人生——神を調教した男――

ベルバール

ep0:俊介と血糊の夢

「俊介、おい俊介、頭から血ぃ出とるぞ」

 それが今、俺の聞いた最後の叫びだった。自宅近くの家に荷物を届けようと角を曲がった時のことだった。大型トラックが狭すぎてバランスを崩し、右へ転倒した。そして俺は脳天にガラスがぶっ刺さり、いてぇと呻きながら誰かの声を聞いた。

 声はなんとなく、幼馴染の直太に似ていた。じっと上をのぞくと、彩っぽい女がハコ越しに覗いていた。片方の口を押えてこちらを揺さぶっている。

「伊里川君、しっかり! 救急車呼ぶから待っててね、ねえ、ねえ!」

「やめろ彩菜、俊介の頭から血が抜けるだろ。下にガラス片あるかもしれねぇ」

「あ、わかった、まってて、包帯と消毒液持ってくるからね、ね!」

 ふぉん、ふぉん、とゆっくりとコンクリートに吸い込まれていくようだ。彩菜は走って行った。スマホで119番通報してからでもいいのに。

 そこで何とか俺をラクにさせようとしてくれる若夫婦は俺の幼馴染。そうだ。直太と彩菜、婚約してたってのは本当なんだな。しばらく連絡をとっていなかったがそれでも俺は安堵し、口元は血糊に溺れながらも目を閉じた。

 誰のケータイかわからないが、俺はすぐに市内の総合病院に運び込まれたらしい。包帯で下手にぐるぐる巻きにされた箇所がいくつかあった。死んだと思ってたら意識を失っていたその間にも頭から血が流れ、腕や腹からは黄色いねちょっとした物体が覗く。

「伊里川俊介、脂肪」

 中年太りだ、うるせぇと軽口を言おうとした。洟をすすると血の味がした。生きてると言おうとしたその瞬間、俺はきらきらした虹のような夢の入口に立ち、命を落とした。心音計がぴーとまっすぐになるその瞬間の音を聞いた俺は、目を見開いたまま――――――――。



うン、もっと、もっとぉ~————。

「伊里川俊介さんですね。ようやく起きてくださいましたか」

 死んだら意識がないはずじゃないのか? と思った。女性の声で起こされたようだ。自分には縁のない匂いが、ただよう。

 何だと思ったら次は嗅ぎ覚えのあるスルメ臭が鼻を覆う。不快感が自分の比じゃない。まだ意識が混濁しているのかと腹を探ったが、きれいに治っている。

「え、ここ」

 医師や看護師は? 直太と彩菜は? 

 姿の見えない気持ちよさそうな声の人とは別に、紺色のアラブの踊り子のような服を着た美人さんが声をかけてくる。おそろしく整った顔だったので、俺は一瞬ひるんだ。

「すいません、ここはどこですか? 俺、死んだはずなんですが……」

 女性は、申し訳なさそうにため息をついた。

「なるほど。ごめんなさいね、うちの女帝(エンプレス)、このぶんだと最低でもあと3回絶頂しないと執務が上手くいかないのよ」

 え? どういうことですか。

「執務?」

「あなたを天国に連れていくか、地獄に連れていくかなのだけれど」

 ますますわからないです。

「それじゃ、後から来た人とか大変そうっすね。どうしたら天国や地獄にいけるんですか?」

 嬌声とスルメ臭に耐えながら適当に話をあわせてみた。もう少し適当な情報がほしい。

「ああ、普通は知らない事ですから無理ありませんね。あの方は、扇の一振りで八万人を裁けます。それも、同時に八万人の事情をすべて考慮したうえで。しかし、セックスしないとその精度が上がらず、それゆえに野太く下賤なオークに輪姦されているのですよ」

 わかるような……わからないような。シャーマニズムみたいに巫女に神託が乗り移る感じ? すごく怪しいし……。

「でも、なんで俺一人なんですか? ほかの八万人はどこに消えたんです?」

「それが……私にも分からないんですよ。あなた一人になった理由をを調べるためにも、子宮口ガン突きになっているわけでして」

……お姉さん意外と口悪いな。どんな状況だろう。何となく察した状態と似ているのだろうか。

「その人に会うことはできますか?」

「中断することのないように、とお約束できますならば。しかし、それがなかなか難しいので、終わったら呼びますけど」

「いや、大丈夫です」

 そういえば暇ですね、もう少しだけお話に付き合ってくれませんか。さもなくばさりげなく天気の話。自分はその一言が踏み出せなかった。

 俺は彩菜のことが好きだった。けど告白する前から二人は付き合っていた。高校時代から中年体系で老け顔、チキンな俺の欲求不満のはけ口になろう小説を読んでいた。特に誇り高い騎士のくっ殺は大好物で、……いわゆる駄女神も好きだった。欲望全開で、敷居が低いからこそ俺でも安心できたのだ。けど、これは現実ありきの部分もあり、ある最初から意味ここまで堕ちた人もいなかった。

 本当に、女帝とか言われる人と面会して、俺は大丈夫なのだろうか。声だけは今でもけたたましく響いている。

 お姉さんと一緒にドアの近くまで来た。ここにきて、まだ迷う。ヒュッと風を切るような音と、ポゴポゴと何かが沸く音が聞こえた。女性は、あついと言いながら浅い呼吸で黄色い声を出している。

「お姉さん、色々ありがとう。お願いがあるんですが……」

「どうしたのですか?」

「お姉さんだと少しアレなんで、名前とか教えてほしいんです」

 ああ、とこの人は麦茶の氷のような声を出した。

「最近は名刺交換とかが主流ですよね。私はエルザ―ナ。これでも高官の娘なのよ」

「そうなんだ……侍女とかかなと思ってた」

「それもおっしゃる通りで。さ、待たせて機嫌を損ねては大変です」

 柄に泣く、袖を引っ張って引き留めてしまった。

「あの、エルザ―ナさん」

「何ですか」

「俺は天国に行くのかな、地獄に行くのかな」

「俊介さんはきっといい人です。軽く量ったのですが、そこまで悪い数値ではありませんでした」

 彼女はほっとした顔で俺の気持ちを迎えてくれた。ほぼマンツーマンだからか、自分だけの心配をしてくれるのはありがたかったし、終わった人生最後のチートなのだと、これで悔いはないのだと心からそう思う。うん、思う。

「参りましょう」

 俺は手を引かれた。リードせねばという小さな義務感を捨てきれず、それさえ醜く感じた。


「女帝、客人が面会をしたいと申しております。このままでも女帝の煌々とした姿態は変わりないから時間短縮を望む、とあります。お受けになりますか」

 アーヤーンという女官が頭を下げ、手を前について言う。この姿勢は本当に都合がいい。嫌なことから目を背けられる。

 中の口を舐められる喜びに震え、女帝は身体をくねらせて長い舌の吸いつきをねだる。

「よかろう、気に、入った。この、自然体、、こそ、、ま、さに高、貴だとわか、

、ってく、れる、者が、お、るとは、まさに僥、倖」

「はぁ」

「して、その者は、どの、よう、、な人物かえっ、あぁん!」

 オークが喋るのを遮るかのように呼吸をずらして突いてくる。

 エルザ―ナと脳波交換した情報をもとに、という前提付きだが、正直に言えば、見た目はともかく中身は女帝の好みとは真逆の臆病な青年である。そう言ったその間にも、彼女は二穴を刺し貫かれながらうわごとで何かを呟いていた。

「エルザ―ナによれば、見た感じはオークに近いそうですが、人間である側面がつよいです。ただ、内面があまりわからないです。しかし、現代日本で死んだ人物ですから、少なからずロリコンの可能性はあると思われます」

「ロリコンっ、て、あの?」

 何年も何年も人を裁いているが、見た目だけはまさに中学生だ。それも、顔立ちが子供っぽいと言われる日本の。

「俺のチンポ知って…おマンコでしか喋れねぇじゃねぇんか」

 あー、極力耳を塞ぐ姿勢が欲しい、とアーヤーンは思った。腕で耳をギュッと押さえ込む。

「…おっきい亀頭で一杯…掻き混ぜられて…拡げられてっ…奥の子宮のコリコリ一杯…突かれたの…ナカ…オークの形にされたの子宮のナカまで変なのがヌプヌプって来ちゃったの痺れちゃうのぉ幸せなのぉんほぉ~‼」

「俺らの…肉棒の味…知っちゃったらもう死んだばかりの人間のじゃ満足できないよね? ホント神がかったバカだから恐れ入る」

「…ん?はぁ満足出来ないぃけど…やめられ…ないのぉ……」

 ふひゅー、と下から支えられているアナルに黄成色の糊状のものが吹き上げられた。ぶちゅぶちゅっと締まる音までわかるほど、淫乱なヴァギナだった。

 そうだ。この女帝というか駄女神 、セックスに協力してくれる死人には少しだけ優しいのだ。もちろん、裁きの範囲はきちんと守っているので文句はつけないのだが、アーヤーンは複雑だった。

「では、どうぞ、開門」

 扉が開く。恥じらいもなく悶えていた女帝がちろりとこちらを覗く。

「おまえが、伊里川俊介かえ」

「はい。一人で来てしまった僕のことをお調べになっているとかで」

 エルザ―ナとの予行演習で言わされた言葉だ。

 俊介は、イメージしていた人物と引き比べた。豊満な肉体をゆすり、褐色の肌とアーモンドのような豊かな目で、なめらかに動いているのだと思った。しかし、はっきり言えば小学校高学年と言われても信じるレベルで小さく、細い切れ長のきれいな目つきの中学生ぐらいが妥当。長い髪を編み、開発された断崖上の小さな粒を鋭い爪で押されながら、潮をふいていた。

「ああ、今、調べ、ておる。こ、れでも真、面目に」

「えっと、未だに信じるには夢のようで……話を伺う限りですが、屈辱感による絶頂で、俺のことがわかるんですよね」

 うわ、バカっとエルザ―ナは俊介の口を抑えた。でも俊介はやめない。人生最後の女神が駄女神なのはいいしむしろ歓迎だ。しかし、自分の美学として、やはり捨て置けないのだ。時に人は臆病より好奇心が勝る。

「でしたら、一計を案じさせてください」

「ほう、では、私、、、を達させ、てみよ」

 オークの野太いモノに押されながら、女帝は身もだえた。



(なんてことを! 勝負という形に持っていくとは……)

「どしたの、エルザ―ナ」

「あのね、アーヤーン、これにはワケが」

 エルザ―ナは目を伏せ、他を寄せ付けない顔をして考え込んでいた。アーヤーンは泣きそうになりながら訴える。

「お願い‼今すぐ止めさせて! もうすでに下剤の飲みすぎみたいになっているのに」

「でも」

「ダメダメダメダメ! 女帝の健康管理大変なんだから、これ以上苦労増やされるとこっちが困るわよ!」

 ですよねぇ。とこの時ばかりはエルザ―ナも安易な反応に奔りたかった。でも神様候補は他にはいない。首を縦にふれないのだ。

 伊里川の方法は、いわば一種の賭け。それでもゆだねてしまったのは、内心女帝のことを哀れんでいる故でもある。

 候補は無理やり作ればいい、と父は言う。エルザ―ナは思う。しかし、このままでよいのだろうか。誰が、あの方の代わりを果たせようか。

「どうすればいいのでしょう」

「こっちが知りたいわよ」

 ほかに、方法はない。とりあえず、たった一人でここに流されてきたこの男を信じることにした。


 この冥界に時刻はない。しかし、人の時間利用法に倣って時計を用いている。

 現在、裁きが終わったとされる深夜12時から早くて三時まで。その間にたっぷりねぶるのが俊介の仕事となった。

「ほら、何がほしいかいってごらん」等と最初はAVを参考にしたのだが、気恥ずかしい上に自分の性にはあわず、また薄ら寒いと感じる。だから、極力喋らない方針を取ることにした。

 そこにある便器の使用を求めて何人ものオークが狭い個室の中で性欲を溢れさせている。正座になりそうでならないギリギリの高さで釣られ、後手で目隠ししたロリ女帝は、膝を前に突き出すように座り、視姦のひくつきを楽しんでいた。フェラをねだるように、ぬめる舌のツッという小さな音を何回か出した。

 彼女にはあらかじめ、ディルドを二穴に仕掛ける、と言ってある。しかし実際には大きな玻璃のコップを接着し、押し込んでいるため、疲れて脚を前に出せばバカなオマンコがオークどもの視覚に焼き付いてしまう。

 自然体どころか、完璧な淫乱になってしまう。縛られてからそのことを知らされたロリ女帝は、めずらしくグッと堪える。

 オークたちは、接着コップの件を知っている。それに入りきらないぐらいの大きなモノを持っているのを優先的に選んだ。

「くっ、もうそろそろ限界だ…、出すぞ‼」

 一体が、上を向いて彼女に腰を押し付ける。入り口に亀頭が引っかかり、入らない。空焚きのナカは乾き、ぐい、ぐい、と動いた。

 かわいさのある声が、ひゃぁ、とくすぐったさを我慢するが、たまりきってしまうと不意に大きな声になる。

「ぐるぢぃ、イがせてよぉ……」

  俊介は思わせぶり人こんこん、と内側をはじいてからかうことはあっても、絶対に「いいよ」よは言わない。それが功を奏したのか、悶えが昂り、舌を出して呻く。既に噛んで抵抗する力すら入らない口内は、これまでに吐き出された何十人分ものドロドロとした白濁液がたまっていたはずだった。しかし、そこは時々、耐えたご褒美に片栗粉の疑似精液を押し込んでごまかす。

 禁断症状が出なくなるまで。無理な実験の用にも思えたが、俊介は私情を捨てる。どうせ、俺は生前と同じように楽しさのほとんどない、何もない場所に行く。だからこそ、このことに全力でいようと思えた。

 しかし、少しずつ品性が戻ってきた気がする。執務の時とか。気のせいかな。

 そのことを、官僚らは皆知っているというのが、何となく真面目に考えちゃいけないことなんだろうけど。

「…はぁ…ぁ…んぅ…」

 前に見た時には、床にはロリ女帝の下半身を中心に既に愛液、潮、尿で水溜まりとすら言えるほどの大きな染みができていた。しかし今は、飲み込みもできない白濁汁に膝をつき、それに耐えている。

「硬い容器にぐじゅぐじゅのおちんぽほしぃ、ねぇ、ぁぁあ‼」

 これでもまだ、症状が少ないほうだ。俊介たちが補助しているとはいえ、今まで1度も子宮口の奥を見せないのは凄まじかった。

「い…やぁ…、も…ゆる…じでぇ…、助け…でよぉ……」

 いつからだろうか。ロリ女帝の体の内から、とてつもない絶頂感が突き抜けた。



 このプログラムを続けてしばらくのことだった。俺も奇異の目で見られることがあったが、女帝はほとんど輪姦に頼らなくても執務を適当にこなすことができるようになったらしい。ある日、俺は解雇された。ようやく次の人生が決まったらしい。

「わかったぞ、おまえの次の人生」

 最後にいろいろやらせてもらった。そのことには感謝している。

 それだけで十分だから人でなくって、植物か貝のように穏やかに暮らしたい。

「おまえは、次も人に生まれ変わる。全体で考えれば侯爵相当の豊かさを持ちながらささやかに暮らし、嫁も娘も元気だ。しかし」

「しかし?」

「矢上彩菜に未練があるのだろう?」

 旧姓で、呼びかける。

 次にだって俺は、まともな恋なんざできやしねぇだろうさ。

 こんなことをした俺自体、幸せになれるはずがないとは正直今でも思っている。

「…………聞こえましたか?」

 彼女本人から無理やり奪い取るのではなく、真っ当に。これは、俺自身の願いだ。ロリ女帝を調教している間のむなしさのなかで、ずっと考えていた。人として生きるなら第二の、そして一生に一度のまっとうな人生を生きたい。

「つまらなくなるのぉ」

「のじゃロリさんに言われても比較対象が……」

「まったく、最近のものは平素でも罪深い」

 女帝さんに言われると説得力が段違いだ。そこから俺の記憶は途切れた。

 

 また、人の声がした。あたたかな風、チューリップの匂い。人肌のおふとん。

「友の通夜に通うことは、しばらくなかったのにな」

「ホント、惜しい人を失くしてしまった。優柔不断でしたけれど、冶金に優れて、本当に優しくて……」

 父母と思しき声は、どこか聞き覚えがあって耳に心地いい。

「ところで、子供の名前は決めたのか? 男ならおまえが、女ならばわしがつける予定じゃっただろう」

「ええ。スクナェル(迅速の加護)・ハルフェン。この子の名はスクナェルよ」

「いいじゃないか。でかした。今宵は砂漠にあまねく水がまかれる。それも急速に! いやめでたい!」

 ほぎゃー、おぎゃー、と猫のような声で俺は泣いた。

「はいはい、つよいつよいぼっちゃま、ごはんのお時間ですよ‼」

 癖の強い女だ。

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