第15話
ギュギュギュギュ!
タイヤが派手な音をたてた。迫るトラックの後部を回避すべく、栗山は絶妙のタイミングで後輪を滑らせて車体を回転させた。あわや運転席直撃の惨事を、車をスピンさせることでかわしたのである。
「柿沼さん、大丈夫ですか?」
目が回り、朦朧とする中を柿沼はかろうじて反応した。
「や、奴らは……?」
「チャンスです。奴らの車がエンストしてます!」
首を押さえた柿沼が三輪トラックを確認する。トラックは何度のエンジンをかけるが、空回りするセルの音だけが虚しく響いていた。
「よし、行こう。だが気をつけろ。どんな武器を持っているかわからんからな!」
「了解です。柿沼さん」
ふたりの刑事がトラックへと近づく。
しばらくエンジンをかけようと頑張っていたが、刑事が近づくのを知ってか突然の沈黙が訪れた。
銃を手にする柿沼と栗山。
「警察だ」
栗山が言った。
「この車両には違法危険物搭載の疑いがかけられています。すぐさま大人しくこちらへ投降しなさい」
ガチャ。
三輪トラックの扉を開けて男が姿を現した。
坊主頭の無精髭はすでに馴染みの顔だが、ほかのふたりは初見だった。
長髪痩身と小柄な年寄り。
この三人の誘拐犯は星人に乗っ取られた地球人なのだ。
「君たち、エジュラ星の者だな」
柿沼が訊く。
坊主頭の男が、笑顔のままで作業着の上着ポケットをまさぐった。
「おい、抵抗すれば撃つぞ!」
栗山が銃口を見せつけた。
だが男の手に握られたのは武器ではなかった。
黒い小型のステック。男の指がステックの上を撫でると、三輪トラックのタンク部分から異音が発しはじめる。
柿沼と栗山が慌てた。
タンク上部から水蒸気が立ち上ったのだ。
栗山が男に飛びかかった。しかしその笑顔とは裏腹に重く素早いパンチが栗山の顔面を襲ったのだ。
「がはっ!」
衝撃の強さに、栗山は頭から地面に叩きつけられる。
「栗山!」
柿沼が銃口をあげて威嚇するも、男は動じる様子もない。長髪痩身の男と小柄な年寄りも泰然として柿沼に対峙するのみである。彼らはなんの武器も持っていないのだ。
小柄な老人が前に出た。
「ここで、細菌兵器を使用する。細菌の効力は極めて限定的だ。我々の友好の表れとしてこの日本と呼ばれる狭い地域のみをターゲットとする。決して地球そのものを侵略する意図はないことを知ってほしい」
「なにが友好の表れだ! 多くの人を殺すことになんの違いがある!」
柿沼が引き金に指をかけたと見るや、長髪痩身の男が矢のように飛びかかってきた。
柿沼の銃を弾き飛ばし、柿沼の首を押さえつける。
「く、くそう!」
「お前はセ・ダォの敵だ」
痩身の男が言う。
「我らはセ・ダォのボディ・スナッチによって地球人の姿を手に入れた。その恩に報いるのが我らの使命だ」
「く……その律儀さは……船長ガ・バウに向けるべきだ」
「ガ・バウは腰抜け……だ」
柿沼は痩身の男の顎に手のひらを当てた。そこで渾身の力でもって手を押し込んだ。ギリギリと男の顎が軋む。
「うごごごごご!」
バキッ!
痩身の男の顎が砕けた。
圧迫から解放された柿沼は、銃を拾い上げると、コントローラーを持った男に銃口を突きつけた。
「それを渡せ。渡さないと撃つ!」
キエエエエエエエエ!
奇声をあげて老人が襲いかかってきた。
老人は柿沼の背中に張り付いて首根っこに噛みついたのだ。
「いてててて!」
その間に、坊主頭がコントローラーを操作して次の段階に入る。
トラックのタンクが、中央からふたつに開き始めた。その中から現れたのは、黄緑色の液体を満たした透明カプセルだった。
その黄緑色の液体こそ細菌兵器の正体である。
水蒸気で溢れるカプセルの周囲から異音が発する。制御装置が開放される音だった。
コントローラーを握る男の指が最終ポイントにかけられる。
「エジュラの民に栄光あれ」
透明カプセルないの黄緑色の液体が沸騰をしていく。その圧力が最高潮に達した時、カプセルは破壊され中身の細菌が周囲に拡散されるのである。
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