第28話 あの青年だ!



<中国中央指揮署>


事務室のような一室でテレビをつけていた。

「おい、いったい何をやっているんだ。 こんな映像を流すな!」

部屋の中で怒鳴っている男の人がいた。

「現場と連絡は取れないのか? サッサとやめさせろ!」

指示を飛ばす人もいるが、うまく機能していないようだ。

黒い直通電話が鳴る。

直通電話は停電時にも電話でき、盗聴の心配はない。


電話の前でいた人は、少し嫌な顔をしながらも電話に出る。

「はい、こちら中央指揮署で・・」

『いったいなんだあの映像は!! 世界が見ているんだぞ』

受話器の向こうの声でいきなり怒鳴られた。

電話に出た人は、受話器の前で平謝りだ。


しばらく話すと、電話を置く。

その様子を見ていた横の人物が声をかける。

「お疲れ様でした。 どうぞこれでも飲んで落ち着いてください」

そういってお茶を差し出していた。

「うむ。 全く中央幹部は現場のことなどわかっていないのだよ。 ただ、この映像はよろしくはないな」

男はそう言うとお茶を飲み、隊長を呼んで部隊の派遣を指示していた。


◇◇


装甲車が切断され、爆発。

兵士や警官がバタバタと倒れる。

まだ現場には一般市民もいる。

一般市民も初めは逃げていたが、公安部が面白いように倒れるので、そのうち応援するものもいた。

一人が声をあげて応援していた。

周りの人たちは驚いていたが、公安部は動くことはない。

自分達の周りを守るのに必死のようだ。

そのうち応援する数が増え、今までの抑圧されたエネルギーが爆発したかのような熱狂を帯びてきた。


バタバタと倒れる警察官や兵士。

その中では、あのイギリスの青年が動いていた。

自分の時間で動いている。

敵はいなかった。

自分の思うように状況を作っていく。


◇◇


<日本の杉田刑事>


杉田刑事は机の書類を整理していた。

「・・結局はお蔵入りか・・」

遠くを見るような目線で見ていた。

そこへ佐藤刑事が駆け込んでくる。

「杉田さん! テ、テレビを見てください」

そう言って佐藤は事務所にあるテレビをつける。

杉田はどうしたんだ? という顔で佐藤を見ていた。


テレビがつくと、どの番組も同じ映像だ。

中国でテロ発生というものだ。

杉田刑事は驚きはしたものの、この国ならあるかもしれないと思っていた。

だが、佐藤は違うことで慌てていた。

「杉田さん、このテロの映像ですが、装甲車や車がきれいに斬られているのです。 どうやったかわかりませんが、その犯行を行っている人物もよくわからないのです」

「佐藤、落ち着け。 どういうことだ?」

「あぁ・・えっとですね、つまりきれいな切断面・・斬り裂きジャックのこととつながらないかと思ったのです」

佐藤は顔を真っ赤にして力が入っているようだ。

「・・つまり、俺たちが操作している事件と関連性があるかもしれないということか」

杉田がそういうと、佐藤は大きくうなずいた。


杉田はテレビで配信されている映像を見る。

中国政府も、どうやら規制をかけるどころではないようだ。

現場では、戦車まで出てきているが、その戦車ですら突然パックリと割れたり爆発したりしている。

何故そうなるのかがわからない。

そしてその映像を見ていて杉田は思った。

どうやって斬ったかわからないが、確かにきれいな切断面だ。

それにしても、どうしてこのタイミングで中国なんだ?

わけがわからない。


しばらく佐藤と杉田はテレビ画面を凝視。

!!

驚いた!

突然、車道の真ん中で一人の若い青年が現れた。

赤く光る棒のような、剣のような感じのするものを右手で持っている。

メディアのカメラがその人物をアップにする。

その青年は左手で軽く髪をかきあげる。

美形だ。

カメラに気づいているのか、カメラ目線で会釈をする。

すると突然消える。

その後、その場所で爆発が起こる。

中国軍による攻撃だろう。

だが、攻撃をしかけた方の部隊だろう、連続して爆発していた。


◇◇


<山本の家>


何やらニュースが騒がしい。

どうやらテレビをつけたまま寝ていたようだ。

俺はゆっくりと身体を起こし、テレビを見る。

!!

一瞬で目が覚めた。


中国北京でテロ発生。

中国軍が鎮圧に出動。

テレビ画面の上部にその文字が固定されている。

画面では、戦車などの爆発が見えた。

よく見て行くと、戦車や装甲車などがスパッと切れる。

その後爆発したりしていた。

ただ、その切れる時には何も映っていない。


俺はすぐにわかった。

デス・ソードによるものだと。

ということはあのイギリスの青年か?

そんなことを思って見ていると、突然その青年の姿映った。

左手で髪をかき上げ、そして軽く会釈をしてまた消えた。


俺は画面を見ていて思う。

このままだと、いくら人数を派遣しようと武器弾薬をどれほど集中しようとも、全滅するだろう。

あの青年と流れている時間が違う。

あの青年にとってはすべてが止まって見えるくらいじゃないか?

まさか一人で全軍を全滅させるつもりか?

可能だろう。

だが、いったい何になる?

俺は何もできないまま、ただ画面を見ていた。


◇◇


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