第13話 こいつが一番黒いな



時間は午後5時30分過ぎ。

この地区では大きな総合病院だ。

救命会病院。

その名称は立派だ。

だが、ここにいる岡本って医師はクズなんだろう。

俺はそんなことを思いながら、病院へと入って行く。

時間外の受付らしく、正面の入口は閉鎖されていた。

時間外入口から入って行く。

受付があるので、そこで岡本医師の所在を聞いてみた。


「こんにちは。 えっと、岡本先生はどこにおられるのでしょうか?」

受付は、緊急患者の手続きやら入院患者の紹介やらでかなり忙しそうだった。

俺の質問にすぐには答えられそうにない。

俺も邪魔をしたくないので、

「あ、中のナースステーションで聞いてみます」

そう言って入り口受付を後にした。

少し歩いて行くと、1階はどうやら外来診療がメインらしい。

少し辺りを見渡すと、2階にナースステーションの文字が見える。

この病院は、正面入り口から3階付近まで吹き抜けになっているようだ。

2階に上がって行くと、ナースステーションがあった。

その反対側には食堂やカフェが並んでいる。

今の時間は閉店みたいだ。

俺はマスクと伊達メガネをつけたまま、ナースステーションへ向かった。


ナースステーションに来て、カウンター越しにPCに入力している人と目が合った。

「こんにちは。 少し伺いたいのですが、いいですか?」

看護師さんはニコッと微笑んで、PCの入力をキリのいいところまで済ませたのだろう。

俺の方を向き、返事をくれた。

「はい、どのようなご用件でしょうか?」

「はい、私佐藤といいますが、田中さんから岡本先生へ手渡しする荷物をお預かりしてきたのです。 何でも大事なものらしくて・・中身は私もわからないのです。 それで来てみたはいいのですが、岡本先生がどこにいるのか聞いてこなくて・・」

俺はそう言ってはにかんでみせた。

看護師さんは少し笑って、

「今、電話で呼び出してみますから、少々お待ちいただけますか?」

そう言って、内線電話をしてくれているようだった。


1分もかかってないだろう。

看護師さんが言ってくれる。

「佐藤さん、岡本先生がこちらに向かわれているので、少しお待ちいただけますか?」

「ありがとうございます」

俺はそう言って、壁際の長椅子に腰かけて待っていた。

すぐに岡本医師がやってきた。

スニーカーを履いているらしく、昔の先生のようなパタパタという音はない。


岡本医師は看護師に軽く挨拶すると、少し辺りを見渡して俺の方へ来た。

「お待たせしました、岡本です。 何でも田中君から荷物をお預かりしてきたとか・・」

俺は岡本を見た瞬間に感じた。

とてもいい感じじゃないか。

こんな人が本当に人を傷つけるようなことをするのか?

全く信じられない。

「岡本先生ですか、私佐藤といいます。 田中さんの同僚で、荷物を預かってきたのですが・・」

そう言って、ナースステーションには見えないように携帯の文字を見せる。

『女子高生を犯したのは、村井以下あなた方5人でしょ?』

夙川に見せたのと同じ文だ。


岡本は息を一瞬止めたようだった。

少しして、ふぅ・・と吐き出し、

「さ、佐藤さん。 こちらへどうぞ」

そういって俺を先導して歩いて行く。


岡本は自分用の宿直部屋を持っていた。

この病院ではどうやらかなりの待遇のようだ。

その部屋に俺を案内してくれた。

部屋に入ると、岡本が俺に背中を向けたまま話してくる。

「佐藤さん、警察の方ですか? もしそうなら任意同行ですべて申し上げてあります」

俺は岡本の背中を見ながら言う。

「違います」

「そうですか・・では、その件で何を聞きたいのでしょうか?」

岡本が背中越しに言う。

「岡本さん、私は真実を知りたいのですよ。 女の子が自殺まで考えたのです。 普通のことじゃない」

俺がそこまで言うと、岡本が聞いてきた。

「それで、その女の子は亡くなったのでしょうか?」

「いえ、何とか軽症で済みました」

「そうですか。 それは何より・・」

岡本は動かない。


パチン、パチンという小さな音が聞こえる。


「それで佐藤さん。 どこまでご存知なんですか、その女の子のことを・・」

岡本が聞いてきた。

「岡本さん、単刀直入にいいます。 女の子からは何の物証も得られなかったそうです。 そして、村井が言ってましたよ。 全員ゴムを使って、自分たちの痕跡を残さなかったのだと・・」

俺がそういうと、岡本の肩が少し動いたような気がした。

「佐藤さん、この宿直室は電子ロックでしてね・・それに防音も施しているのですよ」

岡本がそう言いながらゆっくりと俺の方を振り向く。

俺は何言っているんだこいつ、と思ったが、岡本の手を見て驚いた。


岡本の手は手術用のゴム手袋がしてあった。

それに右手にはサイレンサー付きの銃を持っていた。

その銃をゆっくりと俺に向けてくる。

「佐藤さんでしたっけ? そんなことまでご存知でしたか。 僕はね、静かに楽しく過ごしたいんですよ。 まぁどうでもいいことですが、運がなかったですね、佐藤さん」

岡本はそういうと、迷わず銃の引き金を引いた。

プシュ、プシュ、プシュ!


俺は岡本が銃を俺に向けてきたときに既に準備はできていた。

ふぅ・・。

集中している。

岡本の発射した弾丸が3発、きれいに整列していた。

等間隔で3つ並んでいる。

その軌道上から外れて移動。

岡本の右側の方へ移動した。

集中を緩める。


ガガガン!!

銃弾が入り口のドアに当たったようだ。

弾痕が付いていた。

!!

「い、いない? どこだ・・な、バ、バカな・・避けた? ありえない・・そんな」

岡本が驚いていた。

そして、また俺に銃を構えて撃ってくる。

プシュ、プシュ!


無論、俺に当たるはずもない。

俺はもう面倒なので、弾丸の軌道を避け岡本から銃を取り上げた。

俺も皮の手袋ははめている。

そのまま銃を俺の下に置き、集中力を緩める。

バシュ、バシュ!

今度はソファに弾丸が命中したようだ。


岡本はさらに驚いていた。

「っく! いったいどうやったか知らないが、当たるまで・・?」

岡本が俺に向かって引き金を引こうとすると、手に銃がないのに気づいた。

「バ、バカな! いったい何が・・」

岡本がそういうと俺が言葉を被せる。

「岡本さん、もう話し合う必要もないですね」

俺はそう言ってゆっくりと岡本に近づいていく。

岡本の前まで来ると、俺はそのまま岡本の心臓付近に掌打を思いっきり放った。

ドン!!


岡本が少しだけ後ろに移動。

そのままヨロヨロと下がっていき、ガクンと崩れ落ちて口から血を吐き出していた。

少しの間ピクピクと震えていたが、静かになった。

俺はそれを下に見て、死んだのを確認すると岡本の宿直室を出て行く。

中からは自然に開くようだ。

ドアを開けて閉じると、カチャッという音が聞こえる。

オートロックになっているようだ。

俺はそのままナースステーションに見つからないように、集中して移動。

病院を後にした。


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