第2話 来たな





俺は理解し始めていた。

これは凄いことだ。

しかし、虫以外では試すことが出来ていない。

動物といっても、犬や猫などはかわいい。

無理だ。

あ、イノシシや猿なら大丈夫かもしれない。

人にとっては害獣だしな。

だが、人に見られたら確実にヤバいだろう。

それだけは警戒しなければいけない。


そう思ってからは、普段は虫を相変わらず倒し、たまに山に入った時に猿などに遭遇することがある。

その時に少し猿を狩ってみた。

初めは怖かった。

猿の集団がいる。

距離にして50メートルくらい。

おそらく20匹くらいの集団だろう。

キーキーという声が聞こえた。

俺の周りには誰もいない。

猿がゆっくりと移動しながら俺の方を見ている。

攻撃を仕掛けて来る気配はないようだが、わからない。


俺も呼吸を整える。

息をゆっくりと吐き、吐き切ってゆっくりと吸う。

そして、集中力を高めて行った。

「ふぅ・・・」

よし!

そう思って俺が飛び出す。

ダッ!


この身体の能力にかなり慣れてきていたので、猿まで一気に近寄った。

猿は気づいていないような感じだ。

まぁ、俺の身体能力が人間離れしているからな。

そう思っていた。

まずは1匹の猿を斬り捨てる。

スパン!


あまり手ごたえはない。

そのまま近くの猿をドンドンとリズムよく狩って行く。

スパン、スパン、スパン・・・。

どれくらいの数を狩っただろうか。

ほんの一呼吸くらいの間だろう。

ある程度距離を置いて、猿たちを振り返ってみる。

・・・

おかしい。

俺の動きが速いのはわかる。

だが、猿たちが何の反応もしていない。

まるで止まっているようだ。


俺は離れた位置で、息を吐く。

はぁ・・。

少し集中力が緩んだようだ。

猿たちが動き出す。

「キーキーキー!!!」

背中を伸ばして、辺りを見渡している。

俺は猿たちと一定の距離を保ちながら、ゆっくりと動いてみた。


猿たちが一斉にこちらを見る。

なるほど、見えているんだな。

見えていないのかと思った。

一匹の猿がキーキーッといって逃げようとする。

俺はその逃げようとする猿を追いかけて、背中から一気に斬りつけてみた。

猿は俺の方を見ながら逃れようとするが、簡単にデス・ソードがヒット。

猿はきれいに真っ二つに分かれた。


ふむ、見えているようだ。

さっきのはいったい何だったんだ?

俺は不思議に思うが、残りの猿は5匹。

一気に始末してしまおう。

そう思って、軽く息を吐く。

「ふぅ・・」

集中して、近くの猿にダッシュした。


猿まで一瞬で近づき、そのまま斬る。

猿は反応できていないようだ。

そして、周りにいる残り4匹の猿もそのまま駆け抜けて斬っていった。

はぁ、と息を吐き猿たちを振り返る。

ドサドサ・・と猿たちが倒れる音が聞こえた。


なるほど。

どういうわけかわからないが、集中すると俺の動きが相手に見えないくらい速く動けるようだ。

いや、もしかして時間が圧縮されているのかもしれない。

う~ん・・よくわからんが、とにかく相手に反応されないようだ。

これは一つ勉強になった。


そんなことを繰り返して半年くらいが経過。

そしてわかったことがある。

俺の身体。

凄まじく健康になっていた。

デス・ソードで斬れば相手の生命エネルギーを奪えるという。

まぁ、ゲームでいえば経験値みたいなものだろうと勝手に思っている。

その経験値を俺と死神で分けているのだろう。

あれから死神には会っていないが。

それに、思ったことがある。

共時性というものだ。

この現象が、俺だけに起こっていると考えるのは危険だろうと自分に言い聞かせていた。

だが、まだ俺以外に出会ったことはない。

それに、そんな変なニュースを聞いたこともない。

いや、未解決事件で妙なものはたまに聞くこともあるが、それは今までと変わりないレベルだ。

もし、妙なニュースが増えていたら、確実に俺みたいな奴がいるのは間違いない。


俺はそんなことを考えながら過ごしていた。

そして、ついに来た瞬間があった。

初めて人を斬ったときには、かなり度胸が必要だった。

殺人だからな。

だが、人と思ってはいけない。

そう思えるような人間を選んだつもりだ。

俺は幼稚な正義感で自分の心を塗りつぶした。

3件目くらいからは、あまり何も感じなくなってきた。

とはいえ、それほど多く事件を起こしているわけではない。

スーパーの駐車場の事件も含めて5件だ。


俺は、明らかに日本の法律では殺人者だ。

だが、この国は凶悪な殺人犯を放置している国だ。

誰がそれを制御できるというのか。

日々、本当に罪もない人や子供が被害にあっている。

どう考えても、人として許せないだろう。

俺は単純にそういった気持ちだけで動いていた。


大人になってから、いつも思っていたことだ。

事件を処理するには、事後法案というか常識法案というか、現代生きていての常識で判断する法律が必要だろう。

人の集団で生きていくには、これくらいのことをすればいけないだろうという常識。

例えば子供をバラバラにするような事件を起こすやつ。

これはえん罪でなければ、即死刑でいいだろうと思っていた。

何でもかんでも精神鑑定。

精神鑑定して、それが事件抑制に役に立ったのかな?

全然凶悪事件が減ることはないぞ。

そもそも、犯罪者の精神状態がわかれば、わかったやつが犯罪者になるんじゃないのか?

そんなことを考えたりしていた。


◇◇


さて、スーパーでのワンボックスカーについて、そろそろ俺のところへ警察関係者が来るだろうと俺は思っていた。

あのスーパーの駐車場での出来事から3日が経過。

監視カメラからの映像で割り出された頃だろう。

あのアホな奴等を始末した次の日にはニュースで流れていたからな。

半グレ集団の一員だったようだ。

世間ではそんな連中の抗争だろうということで話が始まっていた。

ただ9人全員死亡ということに引いたようだが、その情報もすぐに消えていくのが日本だ。


俺はそんなことを考えて日常を過ごしていた。

仕事といってもカフェを経営しているだけだ。

両親の遺産で、俺一人くらいなら死ぬまで働かなくても何とか生きて行けそうだ。

時間は午前9時。

カフェの入口が開く。


カラン、カラン・・とドアに付けた鈴が知らせてくれる。

「いらっしゃいませ~」

俺が声をかけると、2人の男が入って来た。

俺には瞬間的に警察関係だとわかった。

だが、そんな素振りも見せずに対応する。

「カウンターしかありませんが、こちらへどうぞ」

俺がそう言って2人に案内した。

男たちはゆっくりと近寄って来て、席につき俺の方をジロッと見る。

少しして、声を出す。

「山本さんだね」

「え・・あ、はい。 山本ですけど、どなたかの知り合いですか?」

俺はそう答えた。

男たちは黙って警察手帳を提示。


男はゆっくりとうなずいてポケットから写真を取り出す。

そして、そっとカウンターに置いた。

スーパーの駐車場で黒いワンボックスカーが写っている写真だ。

俺はそれを見て、すぐに反応した。

「あ、この車・・俺の車に傷をつけた奴が乗っていた車ですよ」

俺は少し驚くふりをして言う。

「山本さん、この車ですがね。 運転手は亡くなったんですよ」

刑事は俺の反応を見るようにして話している。

当たり前だろう。

俺も容疑者の一人だろうからな。

「え? 死んだのですか?」

俺は目を大きくして答える。

「山本さん、駐車場でこの運転手と話をしていましたね」

刑事は丁寧に話してくる。


俺にはわかっていた。

警察がこうやって来るということは、ほとんどすべて調べ終わってきているはずだ。

矛盾を感じさせてはいけない。

そんなことは常識だ。

それに正直に答えるのがいい。

「はい、私の車に傷をつけたんじゃないのかと聞いていたのですよ」

刑事はうなずいている。

「山本さん、その後どうしましたか?」

「はい、こんな駐車場で目立つのも嫌なので、近くに海岸があるからついて来いといって誘いだしました」

「ふむ・・それで?」

刑事はジロッと俺を見ている。

「はい、それで素直についてくるので、海岸に近づいて行ったところで自分の車で振り切って巻いたはずですが・・」

「車で逃げたんですか?」

刑事は驚いていたようだ。

「えぇ、この辺りの道は細い抜け道がたくさんあって、軽自動車くらいしか通れないところが結構ありますからね」

俺がそう答えると、刑事はお互いに顔を見合わせてうなずいている。

「山本さん、お邪魔しましたね」

刑事はそう言って席を立ちあがる。

「あの刑事さん」

俺がそう言うと二人が振り返る。

「その・・なんていうのか、そのドライバーの人、亡くなったのですよね。 事故・・なんですか?」

俺は恐る恐る聞いてみた。

刑事はうなずいて答える。

「えぇ、事故でね。 それでは失礼します」

刑事はそう言うと、外へ出て行った。


◇◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る