まま、じをおしえて!
夜橋拳
1話(完)
しんしんしんと、雪が降るある日のこと、今年で4歳の娘が紙に何かを書いているのを見た。娘は絵を描く時はカラフルな色をたくさん使うのでそれが絵ではないことはすぐわかった。
娘が描いているそれはおそらく字だろう。何か書いてあるかはよく分からないが文字的なものが規則的に並んでいるのを見てそうだろうと思った。そこで私は母親としていい機会だと思い、娘に字を教えることにした。
12月24日。
今日はクリスマスイブだ、そして娘の誕生日でもある。
だから今日くらいは仕事を休んで娘と一緒にいてもばちはあたらないだろう。
私の職業はパティシエでこの時期が1番忙しくなるのだが、店長に娘のことを話したら「一緒にいてあげなさい」と言ってくれた。
相変わらずいい人だ。
私の人生で出会う人はいい人ばかりだ。そしていい人とばかり仲良くなる。とてもいいことなのだが、いい人と別れる時はいつも辛いので少しくらい嫌な人がいてもいいんじゃないかと思っている。
もしくは、いいひと過ぎない人。
夜がやってきた。
いつもより豪華な晩御飯を食べ終わって娘が寝付いた。
誕生日プレゼントはクリスマスが近いからという理由であげなかった。......嘘、お金がなかっただけ。
その代わり、クリスマスプレゼントはとびっきりいいものをあげよう。
確か娘は「さんたさんにおてがみかく!」とか言っていた。
娘が字を書く練習をしていたのはサンタクロースに手紙を書くためだったらしい。
我が娘ながら賢い。感動で涙が出てくる。
この1年間娘はいい子にしていたし、クリスマスに欲しいものを貰う権利くらいはあるんじゃないだろうか。
少し高いものでも私の食費を削れば買えるだろう。
私はサンタクロースになり、良い子の元へ向かった。
やはり手紙が置いてあった。何回も何回も書き直して書いたであろう手紙がそこにあった。
どれどれ――
!!
『さんたさんへ、わたちはいちねんかんいいこにしていました。だからきょうもいいこにしていようとおもいます。
いいこなのでぷれぜんとはいりません。かわりにおねがいをきいてください。
いつもおしごとをがんばっているままのために、おそらにいってしまったぱぱにあわせてあげてください』
「う......ぅぅぅ......」
私は声を噛み殺して泣いた。
――そう、私の夫は二年前に心臓の病気で死んでしまったのだ。そこから私はひとりでこの子を育ててきた。
「......ぅぅぅあぁぁぁ」
涙が止まらない。
嬉しくて、情けなくて、でも嬉しくて。
私は別の部屋に行き、涙をふいてから落ち着いた後再び娘の所に行き、ほっぺたにそっとキスをした。
「私も、きみのパパも、きみのこと大好きだよ」
そう言うと、心なしか娘は少し微笑んだ。
♯
「ままおはよぉー!」
「おはよう」
娘が笑顔で挨拶してきた。まるで何があったかわかっているかのように。
「まま?」
「なあに?」
「ぱぱにあえた?」
「うん」
私がそう言うと娘はこれでもかというくらいの眩しい笑顔を見せた。
私はポケットからあるものを取り出した。 「ぱぱに会った時ね、優子ちゃんにプレゼントを渡すように言われたの」
ポケットから取り出した髪飾りを娘の頭に付けてあげた。
すると娘は「わああ!」と貰えると思っていなかったプレゼントが手に入ってとても嬉しそうにしていた。
19歳になった今でも娘はその髪飾りを付けており、「1番好きな人は誰?」と聞かれると、「この髪飾りをくれたお父さん!」と答える。
まま、じをおしえて! 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824
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