第5話 駆逐の町

 大層引越しセンターは安全で迅速な働きの下、荷物をお運びさせていたただいております。


『ガ..ブピ...!』「ふぅ、ドコよ?」

 化け物を幾つも轢き大破し横転したトラックの隙間から、細い身体をするりと抜かし辺りを見渡す。

『ガブガブ!』

「邪魔、あんたじゃない。」

銃弾が額を貫く光景も見飽きたとノールックで撃ち殺す程になっているが今だにお眼鏡の人物は見つからない。


「あの男は支配が好きよね。今もこうして町を牛耳っているし、でも気が小さいから規模はどんどん小さくする。

..となると町より小さな場所か」

大きなところから崩していって小さいところを狙う。変わってるよね、普通逆なのに。


「取り敢えずまた乗り物探さないと。

..ん、何これ?」

足で何かを踏みつける。

硬く黒い、金属のようなもの。


「マイク?

どうしてこんなところに...」

『ガブガブ』「あぁ、成る程ね。」

これだけの騒ぎになってるのに報道の一つや二つ無いっておかしいと思ってたけどそういう事だったみたい。

「声を使う仕事の人が顎を奪われちゃ元も子もないわね。」

それだけじゃない、警備も同じ。


『ガブガブ..ガブ!』

「張り込みにしては随分な量ね。

私が犯人ってワケかしら?」

平和など最早崩壊済み、メディアも安全も市民の敵となり変わりました。


「一発で何枚抜きできるかしら?」

回転式マグナム銃に弾を込める、列をなす先頭の警官の額を撃ち抜き連鎖させ、幾つもの頭に貫通させる。


「八枚抜き..まぁまぁね。

それにしても不思議よね、顎に寄生してるのに頭を撃っても死ぬなんて。」

脳が養分って事かな?

顎はあくまで捕食道具であって働かせるのは脳みそだもんね。..って、人が死ぬ部分は別にいいのかよ。


「もう一発くらい撃ち込んで何人か」

『ガブガブ!』「ちょっと待て!」

「...何よ、アレ?」

 見慣れた様子の化け物だけど、流石に見たこと無いんだね。肘から牙を生やした中年は。


「どこにいくんだよ!?

..ってあれもしかしてユキノちゃん?

どうしたのその格好!」

「え、ユースケさん?

こっちのセリフです、いつからそんなものが肘に生えていたんですか。」

驚いたのはそれよりも、道中で警官の頭を次々と捕食したことだ。狙っていた一列分が全て肘のエサになった。


「それより町が大変なんだ!

母さんは無事だったが他の子は大丈夫だろうか、モモちゃんやカブくん!」

だから私わぃっ!

わざとやってんのそれ、ねぇ?

「とにかくここから離れないと、取り敢えず逃げましょう。」

『ガブガブ』「逃げるの、わかる?」

 寄生警官の迫る中安全圏を探して町を走る。トラックの名残か少し速度が遅くなったように感じるがそれは仕方無い。それよりも気になるのは、身近な壊れた肘の存在だ。周りの脅威とは一線を課し、異質であり特殊。


「その寄生体とは何処で?」

「地鎮祭の土地に行ったときだよ。襲ってきたから腕を構えたら肘に住み始めた。」

「知能が低いからか..肘を顎と勘違いしているのかも。」

そんな事ある?

キャベツとイチゴ間違えたみたいなもんだよそれ。父さんの肘イチゴ?


「この子は何者なんだ?」

「...宇宙ヒル、通常は顎に噛み付いて顔の一部に寄生する。言語能力を奪い多分脳を動力源に動いてる」

「詳しいな、で君は何者なんだ?

ユキノちゃんではないだろう。」

 珍しく賢いね父さん、ヒルが肘の血を吸っている事はどうでもいいの?

「私はエージェント・スノウ。

ある男の策略を阻止する為長い間この町に潜伏していた。」

名前がスノウでユキノさんか、これ一人ですごい考えたのかな?

ていうか毎日制服の上にライダースーツ着てたんだ、けなげ。


「ある男...僕か!

だからずっと不動産屋に!?」

「..違います。いちいち言わないとわかりませんか、山下ですよ山下。」

「山下ってあの土地の人か?」

「そうです。

隠れるのが前から上手くて、今はどんなところにどうやっているのか。」

刑事だったりして。

そしたらとっくに死んでるよね。


「まず車、脚がないと逃げ切れない」

「鍵はどうするんだ?」

「...あぁもう、問題だらけね。」

こういうとき的確な事急に言われると腹立つよね。そんなときは祈れ、手を合わせて拝むのです。


「教会?」「取り敢えず避難しよう」

 ほら奇跡が起きた。この町は思ったより結構広くて疲れるけど、建物の配置は単純。歩いていれば目立つところに絶対何かある、地の利だよね。


「ユースケさん、お願いします。

銃弾では建物に穴が開いてしまう」

「ん、あぁそういう事か。

喰べていいぞ、人だけにしろよ?」

『ガブ!』

教会の入り口にたむろするヒル人間達を旨そうにたべてる。勿論顎は残すけど、世界は既に異常ですよね。

「急いで入って下さい、侵入する恐れがありますから。」

「だってよ、静かにしてろよ?」

「あなたに言っているんですけど。」

複数プレイは手間のオンパレードだね特にエイム皆無のプレイヤーなら。


「中は無傷だな〜、神の加護だな!」

「宇宙ヒルは学習して、牙の硬さを噛む対象に合わせてる。普通より頑丈に作られているこの教会には、歯が通らなかったのでしょう。」

「...神の加護だな!」

「もう一度説明しましょうか?」

確かに教会ってなんか硬いイメージあるよね、あの大きな絵の描いたガラスどこで売ってんだろ。それにしてもヒルって型にハマるんだね、単純。


「貴方がた、警察の方ですか?」

「うおっ..なんだ神父さん。」

髭を蓄えた謂わゆる神父さん、何人か逃げて来た町の人をかくまって影に隠れていたらしい。神父さんのイメージって髭で合ってる?


「残念ながら違う、けどそれよりも役には立つかも。私結構強いし」

「なら良かった!

皆さんを保護してくれ、此処もいつまでもつかわからない。」

「あなた、それ本気で言ってるの?」

神に祈るインドア派には外の状況が余り分かっていないんだと思う。

町は既にイカれた人しか生き残れないっていうのに、偶々生きてるだけ。


「此処ではもう賄えない、外に出すべきだ。私は人々の事を思って言っている、さぁ力を貸してくれ。今すぐだ」

「なんか様子がヘン」

「よそよそしい神父だな。

...よそよそ神父!よそよそ神父だ!」

「ブン殴りますよ?」「ウソ!?」

遂にキレたねユキノさん。正しいよ、

すっごい耐えた方だよそれかなり。


「そいつは神父ではない!」

「誰かいるのか?

暗がりでよく分からんぞ。」

 日差しを取り込むと、規格外の光が差し込み外敵を刺激しかねないのでカーテンを締め切ってある。教会で声だけのやり取りって怖いね、それこそ神のお告げとか言われそう。


「目の前まで来てくれないか?

顔の判別がつかん。見ても判らんが」

「下がっていてくだされ!

まだ安全が保証された訳じゃ..」

「うるさい!」

顔の無い人物の声は銃に乗り、弾丸となって神父の頭を貫いた。


「嘘だろ、殺した..?」

「随分と気性が荒いのね。何者かしら場合によっては同じ目に遭わすけど」

 悲鳴を上げる市民達、それを気にも留めず光の下へと姿を晒す男。

「言っただろう。

そいつは神父ではない」

「...あれ、あなた何でここに?」

「漸く見つけた、こんなところに隠れていたのね。」

探し求めた黒幕がよもや教会に潜伏中とは、皮肉にも程がある。


「あなたを殺す..山下っ!」

「..それよりいいのか?」「何よ。」

「お、おいなんか動いてるよ?」

「言っただろう、奴は神父じゃない」

ヒルが口から溢れてる、外で見た寄生体は顎に付いてたけど今回は口そのものに張り付いて、寄生というより憑依

髭の神父を完全に支配している。


「何これ..寄生されてたの?」

「擬態だ、脳を支配し言語を内側から操っていた。人の海馬を借りて学習した結果だ、前より成長してる。」

「そんな事..」

「有り得ないか?

どうだかな、周りを見てみろ」

避難していた町人が、次々と擬態を解き正体を露わにしていく。白目を剥き自我は無い、完全な寄生生物。


「おい、具合悪そうだよ。

だから外に出した方がいいって言ってたのか〜。直ぐに病院に連れてこ!」

「病人じゃありませんよ!」

初めからここに安全なんかなかったし人なんていなかった。パンデミックは保護どころか拡散してたんだよ。


「喰うか喰われるか?」

「..決まってるでしょ、みんな纏めてブッ放す!」

右に回転式マグナム、左にハンドガン

弾の節約はしない。見えるもの総て撃ち崩す。原型を留めなくなるまで。


『ガブガブ!』「え、お前もか!」

「これは珍しい、交友的な寄生体か。余程宿主の人柄がいいとみた」

「いえいえ..そんな。」

「言われてる場合ですか!

山下、これが終われば次はあんたよ」

「やめておけ、私はオリジナルではない。粗悪なクローンだよ、本物はもっと他にいる。場所は知らんが」

 科学者って直ぐ自分のクローン作るよね、変わってるよ。まぁ目の前でドンパチしてる真横で平然と話してるからね、普通ではないよね。


「山下さん、あなたの目的は?」

「...知らん。そこまでインプットされていない、私は使い捨て同然のようなトレース体だからな。」

「あいつらしいわね、いつもそう。秘密主義で陰険、肝心な事は何も教えず多くの人を巻き込んで無視してる。」

 当の本人は雲隠れ、その上規模を除々に狭める訳だから足取りは遠のいていく。


「思い当たる居場所は無いのか?」

「..さぁな、彼は臆病な男だ。

可能性があるとすれば密閉された空間か、人や物の少ない部屋だろうか」

➖➖➖➖


「ご飯でも作ろうかしら。」

 妻は家庭を守る。旦那の仕事のようにも思えるが旦那は家族の味方、土台を支えるのは確実に妻だ。


「その前に、掃除をしなきゃね..」

包丁はときに武器になる。主婦にとって包丁は旅のお供、勇者の剣だ。


「そこっ!」

台所の角の柱、不自然に冷蔵庫をズラした形跡のある箇所に刃を投げると僅かだが冷蔵庫が揺れる。

「..何のつもり?」


「久し振りだなエージェントフラワー

今はルリと言ったかな?」

二度と会いたくは無かった。世界一忌み嫌う男、失うべき過去の遺物。


「町を荒らしたのもあなたね」

「荒らしたとはまた心外な物言いだな〝仕上げた〟と言ってほしいものだ」

昔と何も変わらない、恐らくこの男と再会した者が口を揃えて言う事だろう


「宇宙ヒル..当時組織で研究していたカテゴリの一つ。一度培養し、星を壊滅させた事から封印した危険分子」

「あの星は脆すぎた。

わざわざ無人の星を選んだにも関わらず、研究員を多く配置するからだ。」


「嘘を付かないで!

貴方は初めから研究員を実験台にするつもりだった、全員を寄生させて!」

「お前の恋人もか?

名前は確か..ケリーだったな。」

「..やめて。

その名を二度と口にしないで!」

ケリーの後ユースケか、恋多きだね。

あ、狂言回し変わりましたカナデっす


「次はお前が被験体になるか?」

『ガブガブ』「くっ..離れなさい!」

うわっ、素手で持ってる。

科学者って怖いものないのかな

「...冗談だ、サンプルは充分取れた。私はオリジナルと合流する」

「無理よ、貴方はここで死ぬ。」

着用していたエプロンのポケットからハンドガンを取り出して銃口を向ける

..いつから持ってたの、それ?


「何のつもりだ、使い走りの豆鉄砲が私を貫くとでも?」

「私は確かに唯の情報屋だった。組織の実験施設にも正式な職員で入る事は無かったしね。」

お父さん、母さん思ってたより穏やかじゃないよ。情報屋さんだって、広告会社とかにいたんだよきっと。


「でもだからこそ隙を突く事が出来た

強みはそれだけ、充分よね。」

「なっ..⁉︎」

着弾した銃弾が腹部に固定され、ぐるぐると回転する。回転は速さを徐々に増し、山下の身体を巻き込み高音の振動を拡げていく。

「回転式爆破弾、安心して。

被害を受けるのは貴方のと仲間だけ」

『ガブガブ!』

拾われたヒル公は災難だね、知らぬ間に肉片だよ。同情はしないけど。


「くそっ..フラワァァァー!!」

「私は情報の取捨選択が得意なの、要らない情報は即座に削除よ」

確かに、パソコンのタイピングが引く程上手かった。そういう事か


「....クローンね、他に本物がいる。でもいいわ、掃除始めましょ。」

ハンドガンをモップと掃除機に持ち替えて主婦に戻る。これから家族が改めて母の正体を探る事は無いだろう。

「今日はカレーでいいかしら?

..お肉買っておいて良かったわね。」

もう容易に台所の棚開けられないよね

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