Zer0終―21―結Nin9


 いつの間にやら、「作者」たる私と、この「作品」とが、融合するように融解していましたな……それはある意味、意図したところであったり無かったり……いややっぱり予想はつきませんでしたな。


 意識。私の意識がずっと連綿と続いている、続いていくことに、得も言われぬ不安と不安定さを感じたことから、この作品は生まれました。自分が消えたらこの意識はどこに行くのか? この今、知覚している「世界」はどこへ行ってしまうのか、認識している者が消え去った場合、世界もまた喪失してしまうのではないか?


 それとも私が消え去った瞬間に、「別の視点」へと移り変わるのか? 私が生きている限り、その「シフト」は起こり得ないのは何故か? ……確認しようもないことに、私はずっと苛まれて来たのです。


 他の皆さんも同じように自我を持ち、生命活動をし、生活をし、日々を送っているとは思います。でも、ではなぜ「私」の生涯に意識はフォーカスされている?


 意識の数だけ、人やその他生命体の数だけ、「自我視点」は存在するのでしょうか。だとしたらそれがシフトしないのは何故か。


 ある朝起きたら、違う人物の意識になっていた。


 そんなことは起こらないのは当然のこととして受け止めている自分がいるのは確かです。だがならばなぜ私なのか。


 考えてもどうとも答えは出そうにないので、この「小説」を書き紡ぎました。途中からはもうわやくちゃになって自分でも制御できなくなりましたが。


 結局は答えは出なかった。意識の移行、それは作品世界では容易に起こせるものの、そのひとつ上の次元世界では、起こせなかった。ただのそれだけの、うつろな結果だけが残ったと、そういうわけですな。


「まあ、そうはそうだったかも知れねえが、お前さんはひとつの何かを、掴んだっつうことを忘れちゃなんねえぜ?」


 ……私の頭の中の情景は、いまだあの「エレベータホール」ですな。私の眼前にはしゃくれた汚い長髪男がぐでりと壁に身を預けながら、こちらをひん曲がった笑みで見据えていますが。あれおかしいですな、作者の私の脳内が、まだ作品内世界と繋がっているのでしょうか。


 確かに物語を書き紡いでいる時は、その物語が形作る世界に没入することがままありますが。自分の意識と作品が直結しているといったような、そんな不思議な感覚に陥ることもありますが。というかこの文を書いている今もまた、意識は繋がっているかのように感じていますが。


「僕らが皆、あなたの意識の『移行体』だと考えたら? それはそれで意識の『拡散』、そういったことにならないでしょうか?」


 客室へと連なる廊下の先から音もなく歩き近づいて来たのは、嗚呼、財津ザイツくん……君にはいやな役を押し付けてしまった……作者の投影と見せかけての、私の意識をただずらそうと画策して配置した駒のような……


「……さらに世界を構築することで、意識はそこにも生まれる。そしてそれを読まれることで『共有』されていき……」


 財津くん……君は今、誰の言葉を借りて喋っているのかな……これは私の意識が書かせているものだよね……それともそうでは無いのかな……分からなくなってきたよ……


「各々の『世界』ガ、『意識』の末節が、繋がるのダトしたラ? ソレはモウ『意識の共有』、ソウイッタコトにはナリマせんか……?」


 背後から響くのは、そんな落ち着いた低音の片言。レノマン氏……あなたもまた、私が作り出した存在のはずでは……? しかし、作品の中の「対局」で勝ち残って、財津くんと当たり、勝利したのは、


 まさにの賽の目次第。


「……」


 私の意思だけではどうともならなかった「世界」。私が傍観者でいられた「世界」が確かにここには在ったと。そう言いたいのですかな?


「お前さんの意識をよぉ、煮詰めるだけ煮詰めたのならば、拡散しちまえよ、世界に」


 何かシメたくてしょうがないみたいな様子のアオナギは、そんな悟ったかのような事を言ってきますが、まあ、それもまた真理ですかねえ。ともかく、私はこれからも、「思考」を「意識」を。


 文字に起こすことで、皆様と……私以外の別の意識の方々と。


 「世界」として共有していきたいと存じますぞ!!


 お付き合いいただけましたら幸いです。皆様の世界も、私の中に取り込んだのならば、双方向の、意識の架け橋となりますな!!


 思考を文字に「翻訳」して、意識を共有する。


 そうして世界を。意識で繋がる世界を広げて。私は私のままでこれからも。


「てなわけで、おおぃ、行くぞぉ、お前さんも一緒にどうでえ」


 そんな、シメに入ろうと意識をぶわと広げかけた私に、アオナギのしゃがれ声が。ううん、しまらないところもまた私としての一興。しかして財津くんもレノマン氏もいい笑顔でこちらを振り向いて促してくれていますな……そして私は何と言うか表現に困りますが、救い上げられた気がしているのも確か。清々しい風を空気を、火照った肺の奥に思い切り吸い込んだ感じで非常に爽快ですぞ……


 そして「行く」と言ったらあそこですな?


「駅前の『ボイヤス』で一杯やっていくとしようぜ」


 ですな!!



<終>


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

≪天零玖地≫ Zer0×Nin9→21 gaction9969 @gaction9969

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ