#36:エピローグ/モノローグ


「……だが、その『実験』か? の動機の方はやはりいまいち分からねえ。そこが最大にして唯一の解せんところなわけだが」


 その言葉とは裏腹に、アオナギの様子はだいぶリラックスというか、意識が弛緩している感じですな……やれやれ私を追い詰めたと、


 ……そう思っているのでしょうな。追い詰めたのは、果たしてどの「意思」によるものか、そこには至っていないと思いますが。


 いやいや、油断上等。その方がありがたいですな。では私の方からもカマしておきますかね。


「目的は……『他者の意識』をですな……『把握』そして『再生』するところにあったのですぞ……」


 極めての不本意さを滲ませつつ、かといって過剰な演出にならぬよう感情は抑えつつ、私はそうのたまうのですぞ。真実を。もはや「嘘」を並べ立てたところで、全てが筒抜け。ならば……真実の撃ち放つ「順番」を考えて、何とかこの御仁を揺さぶるまでですから。


 幸いにも、おそらく私の部屋ルームにいるでありましょうアオナギの「お仲間」には私の崇高なる「思考」はだだ洩れであろうと、その情報が御仁アオナギに伝わるまでには少しの時間差タイムラグがある。それは余裕で掴めますぞ。なぜなら私がそうだったから。


「……ほうほう、『再生』……そんなことが出来るのかよぉ」


 案の定、アオナギは先ほどから腰の辺りで構えるようにして保持しているスマホの画面を……あくまで私からは視線をなるべく切らないようにしながらも注視しているのですな。


「『再生』……『リプレイ』と訳した方が伝わりやすいかもですな……いやそれよりも『トランスレート』……『翻訳』とした方がいいですかね……」


 なるべく時間を稼ぎたい私は、そんな思考を弄ぶかのような言葉遊びに持ち込むのですが。しかしてこれは「嘘」では無い、ゆえに警戒はされないと見ますぞ。


「もちろんAI任せにするところは任せますが……そう、『是』となる意識の抽出。何万の『ウソ/ホント』から選ばれし、『その時の感情/意識』を……私が把握し、それを『文字』に起こす……」


 そう、私がここまで書き連ねてきたことは全てが真実。多少の主観/脚色は入ったでしょうが……「ザイツ ソウジ」「オセル レノマン」……そして「アオナギ ヨリヨシ」、貴方の思考もですぞ……!!


「……そのデータは見当たらなかったようだがな。だが、それを聞いても疑問は残るよなあ……『文字に起こす』ことの意味が一体? 何だっつうんだ?」


 アオナギの表情が少し変わりましたな。そう、傍から見たらまさにの意味不明。そう。もう頃合いかも知れませんなあ……時間稼ぎもここまででしょうか。この世界の綻びは……既に、「皆々様」に徐々に感づかれているわけですしね。ここらが潮時。であれば。


「私も単なる傀儡に過ぎなかったとしたら……どうでしょうかね? いや、私だけでなく、全員が」


 そういうことなのですよ。思わず漏れ出てしまった笑い声に、相対するアオナギが初めてほんのわずかの狼狽を見せましたぞ。


「私が書き記した『記録』は、『小説』の体を為して、リアルタイムで発信されていましたのですぞ……不特定多数の、『読者』に読んでいただくために」


 そう、そしてそれを引き継ぎつつ、いまこの瞬間も、書き記されているはず……この、今のやり取りをも、高次より俯瞰している存在……gaction9969の手によって。いや、その筆名ペンネームで呼ぶことはもう意味を為さないですな……


 その、真なる、真なるところの首謀者の手によって。


「……我々という登場人物そんざいをも、凌駕する存在……そんなものが信じられますかな? 創造主。そう、私は単なる狂言回し。真なる目的から『読者様』の視点を反らすためだけに生み出された、虚なる者……」


 正にの頃合いですな。思ったより「真実」はアオナギを貫いたようですなあ……この「世界」すら、ひとりの人間の「意識」内で作られたものであること。それを「小説」の体で、「虚構フィクション」の体で、読者様の意識に刷り込むこと。それこそが。


 ……「意識」の共有。


 私の身体はその瞬間、崩壊するのでありますな。あとに残るのは、真なる「意識」。


 ……そう、「」の意識。


 そろそろかも知れません。意識の収束を感じます。締めくくりを、始めましょうか。


 画面の向こうの皆々様、はじめまして。gaction9969こと、財津ざいつ 宗示そうじと申します。


 「物語」中盤まで頑張ってくれていた財津くんではございません。この小説を通して、自分の「意識」を探ろうとした作者でございます。


 ひとまず、ここまでお読みいただいたことに感謝申し上げます。メタ的に収束するであろう、これより先は、実はまだ私にも分かっておりません。


 サイコロを振る勝負の行方は、未完で終わりますゆえ、結末をお望みでした方は、申し訳ございませんでした。しかして舞台装置として、この上なく効果的に働いてくれたと、私自身は思っております。


 これより先は……これより先はバラバラに拡散してしまうかも知れませんが。


 それでもお付き合いくださる方は、引き続きよろしくお願いします。


 では。


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