#35:


 まさか。まさかまさか。まさかまさかまさか。


 「嘘発見機」……そこまでの単語ワードが出てしまうなんてなんてですな……知っている。把握している。この男は。何故に。な、


 ……まずいですぞ。


「……」


 いや落ち着かねば。私は極めて自然に、そしてさりげなく「何のことですかな」感を自分の顔面に浮かばせつつ、非常に余裕の笑みをも形成させるのですな。が。


「……いやそのツラが全部語ってくれてはいるけどよぉ。ま、敢えて聞かずとも、お前さんの『思考』『意識』は掴んでんだなぁこれが」


 アオナギの少し呆れたかのような声が、私の強張りに強張った顔筋を、さらに震わせてくるのでありまするが。


「……つまりはお前さんらが、俺らに対して行ってきたことをそのままやり返しているわけだ。ここまでうまくハマってくれるとは思わなかったがな。いや、お前さんが『それ』でなければ、そもそもが成り立たねえだろうから、そこは必然だったのかも知れねえが」


 つらつらと。実につらつらと。この男は、私の崇高なる実験計画を嘲笑うかのように余裕ぶった言葉を吐き連ねてきやがりますが。ぬふぅ。


「……いつ」

「相棒がついには『昏倒』から復活しなくなったあの時、だなぁ。何か、『リミット』を超えちまった……そんな感じを受け取ったわけだ」


 乾坤一擲で放とうとした私の言葉をあっさり遮り、アオナギが、どすりと持ち重りのするような言葉を放ってきますのですぞぉ……おおお、なんとぉぉぉぉ……


「……」


 相変わらず後頭部を刺激してくる硬いものの存在は認識していましたものの、ついには私の両膝は何かの支えを失ったかのようにかくり折れ曲がり、無様にばばあ座りの尻もち状態になってしまうのでありました……嗚呼。指先が触れた踏み固められたカーペットの質感がやけにざらついていて、私の心情までをも逆立たせてくるかのようなのですな……


「……『嘘発見機』って名称なまえでのたまうと、あのフラフラ揺れて波形を描くポリグラフ的なものが思い浮かんじまうがよぉ……もっと。もっとの『能力』を搭載した奴なんだよな? 今やAIだのクラウドだので莫大な情報データが行き来できるそうじゃあねえか。なあ?」


 アオナギはこちらを見下ろしつつ、余裕げな顔つきと口調なのですぞ……ぐくぅ、私の、私の崇高計画がぁッ……!!


「……『あなたは人間ですか?』『あなたは犬よりも猫が好きですか?』『あなたの出身地は京都ですか?』……そういう他愛もない『質問』しか、『嘘発見機』での時っつーのは出来ないよな? それに対して被験者は『NO』とだけ答え、その時の脈拍やら手汗の多寡なんかで『ウソ』『ホント』を推し測るって感じだろ? 極めて限定的だ。だが、お前さんらがやってることも、根本はそこと変わらねえ」


 悦に入った語りに入りましたぞな……そしてこれはこの男の見せたる唯一の「隙」と思われますな……このまま気持ちよく喋らせて、その綻びを……狙う……ッ。


「ただその質問の『量』が尋常じゃあねえってだけだ。1秒間に、それこそ何千何万の質問が為されていたわけだ。この、それに耐えうるだけの『神経』を携えた、『174名』の『参加者』に対してな」


 少し、アオナギのその薄ら長い顔が歪んだように感じましたぞ。しかして、言っていることは……正に、なのですな。


 私はただただ力無く座り込んだままの振りで、何とかこの場を脱する策はないかと頭を捻らせるのですが。むう。


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