第17話 帝都病院④

――場所は変わって、アヤのグループがほぼ全ての検査を終えたときのことだ。

突然院内アナウンスが鳴り響き、なんでも行方が分からない数名の女性の名前が挙げられた。


≪ただいま3名の女性の行方が分からないため、もし年若い女性を見かけたら院内スタッフまでお声がけお願い致します≫


(3名?もしかして……)


アヤはその放送に友人たちの姿を思い浮かぶ。

アヤの様子に傍にいる協力者の川端かわばたチヅルと立花たちばなチホが不安そうに彼女を見つめる。

不気味なほどに笑顔が絶えないこの病院に自分達はいる。目の前を通り過ぎる看護師や事務員の職員たちが必死に年若い女性を探しているというのに、患者は至って笑顔だった。


「次が最後の検査ですが、一人ずつ入室してくださいね」


訪れたのは婦人科。本来なら検査には入っていないのに。


「――アヤさん」


順番に並んでいたら、後ろにいる二人がこう言った。


「今の内にご友人を探してみたらどうでしょうか」

「私達が何とかごまかすので、アヤさんだけでも…!」


二人ともアヤの為に協力してくれるそうだ。もしこのことがバレてしまえば彼女たちの処遇が不安だったが、友人のためならばとアヤは頷く。


「「早く!」」

「有難う…!」


看護師が自分達を見ていない間、アヤはすぐさま列から離れそのまま院内を走った。


「逃げたぞ!」


振り返る暇なんてなかった。

この病院にいるであろう三人の安否が気になって仕方がないのだ。追ってくる従業員から逃げ、何とかたどり着いたのは――


「ここ、は……」


我武者羅がむしゃらに走って辿り着いたのはとある手術室の前。

薄暗く、またアルコールの臭いが鼻に付く。能力でこれからの事を想定するにあたり、まだこの先誰も人は訪れないという【予想】が出来た。

――しかしながら、この薄暗い手術室前の廊下にはいくつか可笑しな点が残っていた。

とある一か所の扉が歪に壊れ、廊下には数滴の血痕と壁には数か所のひび割れ。

いくら時間の先を予測できても過去の時間を見ることが出来ないアヤにとって、この惨状はどういうことなのか分からない。


「血痕から何か予測できないかしら」


直接触れることはできないが、その血痕を見つめて目を閉じる。

既に時間が経過しているため血痕は酸化して黒く、先の予測がつかない。

やはり過去を見る能力がないと何も情報が得ることが出来ないのだろう。


「手術室には誰もいないみたね」


アヤはこっそり扉が壊れた手術室へと侵入する。

部屋も暴れた形跡があり、割れたガラス類や注射器。


「!」


そしてその手術台には――


「サナ!?」


気絶したサナが横たわっていたのだ。



♂♀



――入院病棟にて。


「ねぇカホさん」

「?」


サナはぎこちなく周囲を見渡しながらこう言った。


「可笑しいと思わない?何故私達がここで従業員に襲われるか」

「え…。向こうは一番健康的女性を狙っているんでしょう?現にアヤが……」

「そうだね。でもさ……なにも一人とは限らないでしょう?」


歪んだその笑みは狂気的で、そして愉快に。

カホは女の傍から離れるも寸の所で腕を掴まれる。


「別にいいのよ何人でも。

の夢が叶うなら一人や二人、アタシの為に犠牲になってくれてもいいじゃない!」


包帯が解かれ、その左目から血の涙が流れ落ちる。

殺される―――そう思った瞬間だった。


ザシュッ


「――グッ」


カホを掴んだ女の腕が突然切り落とされたのだ。咄嗟のことにカホは茫然するも背後からは。


「カホちゃん!」

「……る、か?」

「こっちだ!」


女から離されカホはルカに手を引かれそのまま走り出す。

女は切り落とされた腕を握り締めながら、走り去るカホ達を追いかけることなく見つめた。


「……いいわ、絶対に地獄をみせてあげる」


最早女はサナの顔ではなく、別の誰かの顔であった。



♂♀



――離れにある倉庫にて。


あのまま走り出すこと数分。カホはルカと見知らぬ男の三人で病院の離れにある倉庫へとたどり着いた。


「カホちゃん!」


涙を浮かべ抱きしめたルカをカホは不器用ながらに抱きしめ返した。


「あれは、サナじゃ…なかった……?」

「そうさ」


カホの呟きに男は言う。

男はルカの協力者である須賀すがという入院患者だ。先ほどサナの顔をした女の腕を切り落としたのは紛れもなく彼だった。


「安心してカホちゃん。彼は頼れる協力者なの!」


ルカは言う。

どうやら入院病棟で須賀すがは密かに武器や情報を集めていたらしく、またカホが襲われている光景に二人は助けようと行動したのだ。


「有難うございます」

「いいってことよ」


須賀の手には血濡れの鉈が握られている。例えサナの顔をした敵であっても、友人の顔をした相手の腕が切り落とされた光景は最早トラウマ物だろう。


「立てそうか?」

「はい」


須賀すがはこの後どうするかを二人に告げる。


「いいか。まずあの病院にはまだ嬢ちゃんたちの友人がいるから助けないといけない。

だが肝心の友人がどこにいるか全員分からないままだ」


そこで二人の能力が必要になる。

ルカは既に須賀に能力のことを説明したらしい。ルカの歌で周りの注意を引きつけるという。


「貴女、余程彼に信頼を寄せているのね」

「えへへ。だってこの人……」

「嬢ちゃん」

「?」


職種ゆえにルカは多くの人を見てきたというのに、会って間もない男にこうも信頼しているとは。なんて思っていたがどうやら理由があるらしいが――


「……兎に角残りの二人を助けるぞ」

「はぁい」

「わかったわ」


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