第11話 ある二人のお話


――それはいつだったか。

丁度自分がDREAMドリームのリーダーという立場になったときだったかもしれない。

新人マネージャーが交渉の末ようやく持ってきてくれたテレビ番組は、帝都で有名なバラエティー番組らしい。


「ようやくとれたんだ。なんでも様々な若手を呼ぶ企画らしくてね」


私たちDREAMは元々地下アイドルだった。

たまたま観客席にいた今の社長が声をかけてくれたお陰で今がある。


「新人アイドル枠として出てもらうけど、他にも同世代の若手もいるらしいから失礼のないようにね」


初めてのテレビ出演に私も皆も緊張した。だって有名な番組だから粗相の無いようにしなくちゃならないし、他の出演者との交流だって気が抜けない。


(頑張るぞ!)



♂♀



――そう、思っていた時期がありました。


「ぶっちゃけアイドルって大変じゃない?」

「色んな闇があるってほんと?」


控室はすし詰め状態の人数とパイプ椅子と広めの机が一つ。

自分達以外の出演者がいる中、隅っこで集まる自分達に見知らぬ男性陣が質問ばかりし続けた。


(うぅ……つらい)


所詮しょせんは元地下アイドル。やはり根も葉もないことばかりの噂ばかり。

分かりきっているのに、どうしても言い返しづらい。下手に言い返せば面白がるだろうと皆言い返せないからだ。


「――なんね?可愛い子いるからってからかうのは良くないよ」


にっこり。

男たちの後ろで言った一人の女性。その笑みに怖気づいたのか男たちはその場を離れる。


「ごめんねすぐに助けられなくて」


見た感じ女性は自分達より年上に見える。

助けてもらったこともあり、皆で一緒に話すと彼女は最近の文豪受賞者らしく、また女性というだけあって珍しいのだとか。


「女だからって珍しいのかね?確かに今まで男の受賞者ばかりだけどさ」

「そんなことは無いです!だって受賞できたってことは誇れるくらい凄いことなんですよ?」


思わず大きな声で言ってしまったことに、私は恥ずかしかった。

でも、やっぱり受賞できるなんて凄いことだし、なにより目の前の彼女はその才能があるからこそ多くの人に本を読んでもらえるんだって思ったから。


「胸を張ってもいいんですよ?」

「……ほんと、面白い子だね。西八尋にしやひろさんって」


あ、私の名前……。しかも苗字で覚えてくれるなんて。


「ルカでいいですよ。えっと、確かお名前は……」

菊羽田きくはたサナ。そのままの名で作家しているんだ」


差し出された手に私は思わず両手でしっかり握り返した。


「その声で皆を元気にしておくれ。それと、私はその声が好きかな」

「あ、有難うございます!」


その後は時間が速くに感じた。

私たちDREAMはグループなだけあって大勢いるからゲスト席の半数を占める。そのため先に前半枠として紹介された。

菊羽田さんは後半の新人紹介の枠に行ってしまったため一緒に共演できなかったけど、打ち上げは一緒に着いて来てくれるそうだ。


「一緒にいていいの?」

「はい。ウチのメンバーで菊羽田さんの小説が好きな子がいるので是非!」


マネージャーに頼んで一番いいお店を探してくれた。未成年のメンバーもいるからお酒は飲めないけど、気楽で楽しく話し込んでいたら結構時間が経った。


「もう遅いか」


そう言った菊羽田さん。すると私たちにこういった。


「可愛い子にはお呪いってね」


そう言ってマネージャー含むメンバー全員に【守】と書かれたお札を貰った。


「ここ最近痴漢や変質者が出るらしいから気を付けてね」



♂♀



「――ふぅ、今日は楽しかったなぁ」


メンバーと菊羽田さんと別れ一人で薄暗い路地を歩いていた。

夜の10時を回るこの道は非常に暗く、また変質者が出没しているらしい。


「そこのお嬢さん」

「!」


背後から息遣いの荒い男がこっちを見ている。

背丈は至って中年のおじさんで、この暑い時期にも関わらずトレンチコートを着ている。


「おじさんといいことしようよぉ」

「い、いや……!」


案の定変質者だった。しかもコートの帯をゆっくりと紐解くなんて完全な露出狂だ。

逃げようにも足がすくんで動けない。


(助けて)


そこでふと、菊羽田さんから貰ったお札を思い出した。気休め程度かもしれないが、それでも何かに縋りたかったかもしれない。お札を握り締めると突然光が。


「そこで何をしている!」

「く、くそ!」


運よく町を巡回していた二人の警察が変質者を逮捕してくれた。


「大丈夫?怖かったね」


女性の警察官は私を優しく抱きしめてくれた。男性の警察官が変質者を現行犯逮捕してくれたお陰で私は事なきを得た。


(本当に守ってくれたんだ)


握り締めたお札はしわくちゃになったけど、それでも助かったんだ。


「有難う……!」



♂♀



「――本当に変質者に襲われるなんて、あの人は厄介な体質持ちなのかね?」


逮捕の現場を影から見つめるのは、札を渡した張本人である菊羽田サナ。

危ないからとこっそり後を付けたら案の定変質者に出くわしてしまった彼女に同情する。


「助けようと思ったけど、まさか巡回警察がいたとは。こりゃ偶然か必然か」


あの時渡した札は護符の力なんてなく、所詮気休め程度の品物だ。

なのに、あの札を握り締めたとたん偶然警察に助けられた。


「能力持ちか?」


なんて、ありもしない根拠に踊らされるつもりはないが。


「もし、不可能を可能に変えてくれるなら……を探してもらえるかもしれない」


それまでは―――


「頑張ってくれよ。ルカさん」


これは、とあるアイドルと小説家の出会いの話。

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