第4話

世間では目に見える死者の存在を確かめながら、それを拒絶する様に働きかけるようになっていた。


そして、目に見えなくなった存在たちがかつてこの世で生活を共にしていた事実すらなかったこととして平然と過ぎていく。


行方不明になったという名目での扱いはあっても、その消えた人が元にと戻ることなどなく、簡単な葬儀を催して亡くなったこととして過ぎ去る。


または必要なかった人がいなくなったということで世界は回っていた。


徐々に身体が消えていくことを体験する人もいる。


患者として医師の元で調べてもなにもわからない。


次第に人と人との距離は歪な形を取るようになった。


目の前の人が消えることもある。そんな人との思い出や触れ合いに意味をおくことの無意味さによって人付き合いは希薄になっていった。


しかし、目に見える死者の存在が目に見えず、聞こえもしない人がいた。


そんなことは世の常識から逸脱しすぎているため、隠して生きている。


私を目撃した彼女もまたそんな人の一部なのだろう。


彼女の存在に強く惹かれながらも、私が個人的に彼女に近づいて私の存在を取り戻すなんていうことは利己主義的で残酷な関係性を生んでしまう。


私は電車内での彼女との些細な出会いの一部始終を思い出に残して、再び誰にも見つからずに生きていくしかないんだ。


それはあまりにも辛すぎるが、自害することもできないでいるため、私はただ己の存在の不確かさを呪いながら再び彷徨いを続ける。


それでいい。


そんなことを考えながらも気分は高揚しているのを感じたいた。


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