第16話 私の生まれた時の話

 小学校の中学年ぐらいになると、学校で自分が生まれた時の事を聞いてきて発表したりまとめたりする授業があった。


 そのために母に私が生まれた時の事を尋ねると、待ってましたとばかりに語ってくれた。


 妊娠中毒症になった事。

 足のむくみが酷かった事。

 そのためにスイカをたくさん食べた事。

 私が生まれた後に、生死をさまよった事。

 もう子どもは生めないと宣告された事。

 私を生んでから、頭痛持ちになった事。

 母乳なんて一度もあげた事がない事。


 を聞いた。


 私の話は?

 私は1400グラム台の超未熟児で生まれた。


 さぞやドラマチックな展開があるのだろうと期待していたが


「しばらく保育器に入っていた。そういえば、保育器に入ってた子は後から何かあるって言うし、あんたが太ってるのってそのせいなんじゃない?」


 ※母の個人の意見です。医学的な根拠はありません。


 と言われた。


「じゃあ赤ちゃんの頃はどうだったの?」


 と尋ねると


「歩くのも喋り出すのも早かった」

 どうやら夜泣きとかもほとんど無かったようだ。


 多分、おむつが取れるのも早かったはず。

 おねしょもほとんど無かったのは、私とは正反対のAくんの粗相のたびに聞いていた。


「じゃあ手のかからない子だったの?」

 と聞くと

「うーん、愛想のない子だった」

 と言い、今も愛想が無いとその説教へと続きそうな勢いだった。


 私は絵本をほとんど持っていなかったので、読み聞かせをしてもらった事が無いし、愚痴じゃない話を母から話しかけられてないから愛想を良くしようが無かったんじゃないかと子ども心に思ったものだった。


 更に私が赤ちゃんの頃の事を聞こうとしたら


「それより、あんたのお姉ちゃんの時が大変だったのよ」


 と言い出した。


 はい?お姉ちゃん?

 私ひとりっ子ですけど、と思い


 話を聞くと、私には四つ上の姉がいたらしい。

 生まれて一日で亡くなったとのこと。


 お墓はパパの実家の方にあり、だから母はずっと行っていないらしい。


 お姉ちゃんか……生きてたら良かったのに。

 そうしたら私一人で、母を背負わなくて良かったのに。


 私の生まれた時の話を聞くはずが、最後にはそういう事を思ったのだった。

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