第12話 繁華街

 小学生になった頃から、母が通っていたパチンコ店は家から電車で十分、さらに路面電車で五分ほどの繁華街にあった。


 繁華街で、しかもそんな電車を乗り継がなければいけない場所に子どもだけで行く事は学校で禁じられていた。

 けれど私はたまに、家に帰ってからその繁華街に行くことがあった。


 時には一人で、時には友達と一緒に。


 その友達は、母のパチンコ店がある繁華街にお祖父さんがやっている歯医者があったので、そこに行くのが目的だった。


 もちろん、祖父の歯医者があるからと子どもだけで繁華街に行くことが許されるわけではない。

 しかも私たちが行っていたのは小学校低学年の頃だ。



 私はその繁華街に行くと、まずは母を探した。

 母に会いたかったわけではないが、会いに行くと母は機嫌が良かったからだ。


 この繁華街にはパチンコ店が何軒もあるので、探さないと見つからない。

 そして母に会い、お小遣いをもらってその後は一人の時にはデパートの屋上のゲームセンターに行き、歯医者の友達と来た時にはその歯医者に向かった。


 歯医者の受付事務さんたち用のロッカールームが私たちに遊び場だった。

 そこで遊んで私は母とではなく友達と、もしくは一人で夜は家に帰った。


 幼稚園児の頃からパチンコ店に連れ出されていた経験があるので、パチンコをしない子どもが隣に座って待っている行為が迷惑なのをすでに知っていた。

 なのでパチンコ店には長居はしなかったのだ。


 パパが車で迎えに来てくれる日だけは、母が私にデパートのゲームセンターで待っているように言い、一緒に帰った。


 パパは出張で何日も家をあけることがあったため、そういう迎えにきてくれる日はたまーにの事だった。


 私が家にいて、母から迎え依頼の電話があり、パパと迎えに行った事もあった。


 母はパパのいる日に、昼間から家にいることはほとんど無かった。

 それどころか、夜遅いこともあった。


 だから友達の家に遊びに行き、夕食時になって家に帰った時に私の家から美味しい匂いがしてくる事がとても少なかった。

 憧れだった。


 美味しい匂いがする、それが私の家だったらどんなに良いだろう。

 母の料理の下手さも無い事にして、そんな期待を何度もしたものだった。

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