第11話 勉強は隠れてするもの

 幼稚園を卒園する前に、隣県に引っ越した。

 それから私は幼稚園にも、保育園にも行かず(行かせてもらえず)

 そのまま半年ほどの時を家で過ごして小学生になった。


 そのせいなのか、幼稚園児の頃までは痩せていたのに、小学校に入学する時にはかなり太っていた。

 そしてそのまま、私はいまだに太ったままである。


 幼稚園に行けなかったからか、母の友人であるAくんのお母さんから就学前の子用のワークブックをもらって、それをかなり気に入ってやっていた。


 それから私は「勉強は楽しい物」となった。

 この頃は、おとなしく(と言っても普段もおとなしいのだが)ワークブックをやっているので母は何も言わず私の好きにさせてくれた。


 けれど小学校中学年ぐらいになってくると、家で宿題をやっていると母は嫌そうにしたり

「勉強やってるからと偉そうにするな」

 と怒るようになった。


 もちろん、私が勉強しているからと偉そうにしていたわけではない。


 狭い借家なので自分の部屋というものが無かったので、母がテレビを見ている時でも勉強することになる。


 私は構わない、というか慣れた。

 けれど母は嫌がるのだ、うっとおしいと。


 こっちはテレビを楽しんでいるのに、これみよがしに勉強して偉そうにして、と。

 前に書いたように、母は私の勉強面というか学力については褒めてくれていた。

 なのに勉強しているところは、嫌がられたのだ。


 黙って勉強しているだけなのにうっとおしがられるので、この頃から私は宿題は家でやらなくなった。


 宿題は帰る前にやるか、朝学校に行ってからやるものとなった。


 母はパチンコ星人なので、夜に家を空けていることもある。

 そういう時は勉強できるが、それがいつかは分からない。


 家で勉強しない習慣はその後、中学生、高校生になってからも続いた。

 なので私は家で机に30分以上座って勉強していた事がない。


 その反動か、今私は勉強をしたくてたまらなくなる事がある。

 いや、Aくんのお母さんからワークブックをもらったあの時から本当は私は勉強が好きだったのだ。


 けれど思い存分出来なかった。


 私は読書好きだった事もあり、図書館にはよく行った。

 けれど私に図書館で勉強するという選択肢は無かった。


 何故なら、図書館と関係ない勉強で図書館の机や椅子占領している人たちのせいで、図書館で座って本をゆっくり読めない事を何度も経験したからだ。


 勉強するなら、始業前か放課後の教室だけだった。


 でも、それが先生に知れたら母に怒られると思っていたので目立たない程度にしか出来なかった。


 勉強は母に隠れてコソコソやるものだったのだ。


 好きなだけ勉強できるとか、勉強しても怒られないどころか褒められるなんてテレビやマンガの中のファンタジーだと思っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る