第15話 双子は見た目は同じだが中身も同じとは限らない
「まるでわけが分からん」
俺は問題をほっぽり出すかのように言った。
「いやほんとなんだよ!モランって女のせいで俺はこんな化け物みたいに身体にされたんだ!」
砂の身体をした化け物は困ったように言う。
なぜ俺は幽霊だけでなく怪人とも会話しているのだろうか。ここは異世界であり、アメコミのようなワクワクする設定はない。
「それで、お前はモランの何を知ってるんだ?」
「なんだ聞いてくれるのか!?今まで俺の姿を見ると逃げ出す奴が多くて困ってたんだ!あぁ生きた心地がしなかったよ!まぁ俺もうーー」
「オーケーまずは落ち着いてから話してくれサンドマン」
人と話せることがうれしかったのか砂の男は意気揚々と話し始めた。
「俺はサンドマンなんてダサい名前じゃない。サードマンだ」
「大して変わらないな」
「あれは、俺がまだ人間で二枚目なイケメンだった時の話だ。俺は野心に溢れてて…ここの頂上に宝箱があるって噂を信じて山を登っていたんだ」
「宝?」
「そう、宝。んで、俺は見事頂上まで辿り着くと待っていたのは、宝じゃなかった」
明るい顔から一転させながらもサンドマンは続けた。
「待ってたのはモランだった。どういうわけかアイツは俺を不意打ちで気絶させて自分の実験のために俺を利用した」
それを聞いて俺はゾッとした。まさか…コイツは元は人間で、モランによって非人道的な実験をされて砂人間にされたってのか……?
「あの女は噂を流したのは自分だって言って何故か名前まで自分で暴露したんだ」
「名前を言ったのか?わざと?なんでわざわざ……?」
「俺は拘束されて謎の儀式をされた。下に魔法陣があって呪文みたいな言葉をブツブツ呟いた後砂が俺の身体に纏わりついてきたんだ。身体の中に一粒ずつ入ってくるのを感じながら俺は必死に命乞いした。…そしたらアイツどんな顔してたと思う?」
サードマンは全身を震わせた。
「俺の苦しむ姿を見て笑ってたんだよ……!俺が砂に変えられる最後の瞬間までアイツは笑いながら見てた」
「酷いな……」
俺はサードマンの恐ろしい体験を引きつった顔のままで聞いていると、メアリープルプルと震えているのがチラリと見えた。
「ちょっと……ちょっと!貴方いい加減にしなさいよ!モランがそんな残虐なマッドサイエンティストなわけないじゃない!」
メアリーがそう反論するが、今の話を聞いてマッドサイエンティストではないと答えるのは無理というものだ。映画の中だけの存在かと思ってたのにこんな身近に居たなんて信じられん。
「俺はこんな身体にされて半年経つが、あの女の容姿だけははっきりと覚えてるぜ。でっけぇおっぱいに派手な金髪に眼鏡を掛けた女だよ」
「なによ全然違うじゃない。さっさとソウルクレイを採取して帰りましょ」
メアリーはあっさりと言い捨てるとサンドマンの前から背を向けて離れようとした。たしかに俺達が見たモランは金髪ではなく茶髪だ。それに唯一の共通点が巨乳という時点で人違いだなと考え始めたが、
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はこのままかよ!?」
「悪いけどわたし達はソウルクレイを探しに来たの。厄介事に巻き込まれるつもりはないわ」
メアリーは冷たく突き放した。
「おい、このままでいいのかメアリーよ。この男は今はこんな見た目だが元は人間で戻りたがっているのだろう?何もしないというのは酷い仕打ちじゃないのか?」
ダンゲルは両腕を胸に組んで言った。やはり元は人間で何十年も剣の中に居た身からすると同情してしまったのだろうか。
「彼女は私の友達よ。私は少しやんちゃだった頃もあったけど、彼女は普通の人間。後ろから気絶させて惨い実験をする子じゃないわ」
「少し……?」
そんな元不良だけど今は更生しましたみたいなツラ下げられてもコイツの今までの所業を見るとなぁ……と俺は彼女の言葉に疑問を抱いたが、メアリーは毅然とした態度で言い放った。俺は初めて会った人だからモランの事は詳しくないが、あの大人しそうな女性がこんな事をするとは思えない。
「頼む!俺、もうこれ以上人の目に怯えて森に住み続けたくないんだよ……!」
「うーん……」
彼はいきなり訳の分からない実験に巻き込まれて異形に変えられ、半年も森の中で彷徨い続けていたのだろう。もしサードマンが俺だったなら、1週間も耐えられないかもしれない。
「なぁメアリー、もし自分がサードマンと同じ目にあったらどうする?」
「犯人を捕まえて四肢をバラしたあとにダークマタードラゴンの餌にするわ」
「なんて?」
俺が聞きたかったのはそういうことじゃない。いや、まぁあながち間違いでもないんだが。
「いや、俺が聞きたいのはもし自分が同じ状況に陥ったら?もし訳も分からず実験に利用されて放置されたら?嫌だろ?同じ人間として助けてやらないと」
俺は柄にもなくそんなことを言った。するとダンゲルがうんうんと頷いた。
「流石だ、素晴らしい精神だ!カナデよ!人助けは立派な行い、キスをしてやりたいところだ!」
「お前が今幽体で心の底から安心したよ」
むさいおっさんのキスなんて絶対に御免だし、ただこの可哀想な男を見てみぬふりをしたら安心して眠れなくなる。だがどうしたものかな…直接聞くのはなんか憚られるなぁ……
「なら話は簡単よ。モランに直接聞けばいいわ」
メアリーが俺の考えていた事をハッキリと言った。
「おい、いいのか?さっきはあんなに嫌がってたのに」
「私の親友が疑われてるのよ?だったらちゃんと聞いて違うって言ってもらえればいいのよ」
なんか短絡的にも思えるが、たしかにこれが一番シンプルで簡単な方法かもしれないな。
「どうする?一旦店に戻って聞くのか?」
「そうね、面と向かって聞いた方がいいかしら……」
本当なら携帯で話をしてくれると楽なんだがなぁ……とこんな暗い雰囲気の中で言える訳もなく、俺が心の中でため息を吐こうとした時、
「私ならここにいるわ」
と、女の声が森の中から聞こえた。あまり聞き馴染みは無いが、つい最近まで覚えがある声だった。木の影から出てきたのはモラン本人だった。
「モラン!?貴方なんでここに……」
メアリーは突然現れたモランに驚いたが、
「テメェどの面下げてのこのこ出てきてんだオラァ!!」
怨敵を見つけたサードマンは怒りで我を忘れ、地面が砕ける勢いで走り出した。
「まずい!このままだとモランが襲われる!」
ダンゲルは迷わず俺の元に近づき、俺の体に入り込んだ。
突然身体に入られたことにより目眩と吐き気に若干襲われたが、半ば強制的に憑依をさせられた。
「止まれ!今は落ち着くんだ!」
憑依により身体が巨大化した俺達は間一髪でサードマンの猛攻を食い止めた。
「テメェだけはぜってぇぶっ殺してやる!!俺をこんな姿にしやがって……!」
サードマンの目は血走り、完全に冷静じゃない。だが何故このタイミングでモランは現れたんだ…?
「貴方をそんな姿に変えたのは私じゃない」
「じゃあ誰だってんだ!あぁ!?」
クッ……!怒りで力がさらに増した気がする。しかも砂を地面から取り込みさっきよりも3倍の大きさになった気がする。このままだといくら俺とダンゲルの力でもいずれ限界が……
「どうするの!?一時の感情で違う人間を殺すか、このまま大人しく私の話を聞いて真犯人を探すか、好きな方を選びなさい!」
モランは声を張り上げてサードマンに怒鳴るように聞いた。
「…………クソが!!」
サードマンはしばし固まって逡巡した後、身体から余分な砂を吐き出して体を縮めた。
「…ふぅ」
モランは一呼吸置いた。
「ね、ねぇ……モラン?一体どういうことなの?」
メアリーは突然の親友の登場、そして複雑な事情があると感じ取り、先程の自信を無くしてしまったがモランに声を掛けた。
「ごめんなさい、メアリー。私、あなたに言ってなかった事があるの」
モランはメアリーにそう言った後、サードマンの方に向かい合った。
「貴方を砂の姿に変えたのは私であって私じゃない」
「なんだ?まさか二重人格だから私は悪くありません許してくださいなんて言うつもりじゃねぇだろうな?」
サードマンは睨みながら言った。ふと彼の手を見ると右手をハンマーに形作っていた。
「彼女の名前は……フラン。彼女は……」
モランはそう言って自分の手を胸に当てながらそう呟いた。
「彼女は…私の心の中にいた私の妹なの」
モランは悲しげな瞳で俯きながら俺達に真実を打ち明けた。
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