第13話 お前を生き人形にしてやろうか

「と、いうわけでダンゲルさんを生き人形にしちゃえばいいのよ!」

「どういうわけなのよ」


俺は頭が痛いと言いたい事態に遭遇した。

かなしいかな、俺はショックで一日中寝込もうと思っていたのになかなかどうして奴らは放っておいてくれない。

常日頃から危険思想を持つ女と思ってはいたが人形に魂入れるとか言い出してる時点でヤバイな。

もしかしたら心の奥底に塵ほどの良心があるかも、なんて期待していたがもうダメだ。

コイツには精神病院という名の高級ホテルに宿泊してもらうしかない。


「メアリー」

「なぁに旦那様♡」


……コイツなんかムカついてきたな。

藁人形を五寸釘で打ち付けている時に人に見られて死なないだろうか。


「メアリー、実は色々調べたんだけどデッドエンド精神病院っていう所に君を入院……もとい宿泊させようかと思ってパンフレットを貰ってきーー」

「いやあああああああああああああああああ!!!もういやなのぉ!精神病院に無理矢理入院させられて脱走するのはもう嫌なのォォォォォォォォォォォォォォ!!!」


そう言ってメアリーは俺の両肩を掴んでガクガクと揺さぶってきた。


「やめろ、悪かった、だからやめ……ん?お前今脱走したって言わなかったか?」


俺は彼女の不可解な発言に注目して問いただすと、メアリーはアヒル口で明後日の方向を見た。


「おいこっちを見ろ。俺の目を見ろ。今の言葉はどういう意味だよ?」


俺がグイッと彼女の顔に近づくとメアリーは何故か目をさらに逸らした。


「いや、ちょっと近っ……!」

「早く言わないとずっと見つめ続けるぞ」

「ずっ、ずっと!?待って近い…!」


何故かメアリーは目を泳がせながらあわあわと焦り始めた。

頬が赤い。

なんで恥ずかしがって……あっ。


「そうか近過ぎだったよな?悪い」

「えっ!?いや別に嫌だったわけじゃ……」


俺はメアリーから離れた。

するとメアリーは何故か残念そうな顔をしていた。

なんなんだ本当に…?


「まー聞いてやってくれ。この話はお前のためにもなるんだ」

「俺のため?」


ダンゲルは空中でクルクル回転しながら言った。

コイツを蝋人形にするのと俺のいわれなき罵倒とどう関係してくるのか、俺は話だけでも聞いてみることにした。


「つまりね、今あなたはダンゲルさんを憑依させてあのフリーカーを倒した結果ターミネーターの登場シーンって小馬鹿にされてるわけじゃない?」

「的確なあらすじをありがとう。お礼は俺のコブラツイストでいいか?」

「待って待って!全裸になって倒したのがダンゲルさんではなくカナデだと思われてるんでしょう?でももしダンゲルさんそっくりの人形を作ってあなたの汚名を彼が払ってくれるとしたらどうする?」

「…!」


俺は心の中で手をポンと叩いた。


そういうことか、合点がいった。

つまりダンゲルそっくりの人形を作ってそこにダンゲルを憑依させる。そしてダンゲルが『倒したのは御影奏ではなく俺だ』と街中に言いふらして噂を消す。


町の奴らは俺の顔ではなくダンゲルの影響で現れた筋肉のみを見ていたし、なんなら憑依の影響で顔もダンゲルそっくりになっていたから成功すれば俺の噂は無くなる。

なかなかいいアイデアじゃないか。


「それで、何か当てはあるのか?」

「よく聞いてくれたわね!この街にはとある玩具屋さんがあるの。わたしはその店主と友達だからその子に人形を作ってもらうよう頼むわ」

「俺の依代になる人形なんだ、カッコよく作ってもらうよう頼んでくれよ?」

「もちろんですわ!」


そうして俺達は活気を取り戻し、俺の名誉挽回、ひいてはダンゲルをパーティーメンバーとして生まれ変わらせる作戦は始まった。


「それじゃあさっそくその玩具屋さんのところに案内してくれ」

「ガッテン承知の助!」

「なんだそのキャラ」


変なテンションながらもメアリーは俺を宿から連れ出した。





******************************





空は既に暗くなって星々が一つ一つ自己主張するかのように眩しく光っていた。


目的地に着くと、玩具屋だというのにまだ灯りがついていた。

俺達は引き戸をガラガラと音を立てて開けた。

そこには沢山の玩具があった。

玩具屋なのだから当然だが入った瞬間、俺は懐かしい気持ちになっていた。

そういえば、お気に入りのヒーローの人形が欲しくて父さんに連れてきてもらったっけ。


「モラン?いるかしらー?」


メアリーが呼びかけた。

店主さんの名前だろうか?

呼び捨てにしていることからメアリーとモラン、とやらは仲がいいのだろう。


「は〜い……ってあら?メアリーじゃない。こんな夜中にどうしたの?」


モランと呼ばれた女性は物珍しそうにメアリーを見た。玩具屋の店主と言われると疑うほどの美しい女性だった。

健康的な意味での白い肌、金色と間違えそうな茶色のポニーテール。雑誌モデルのような美形なスタイルなどなど。

なぜこの店の店主をしているのか分からないほどのそれはそれは綺麗な人だった。


「紹介するわ!この子はモラン。わたしの数少ない友人であり腹心よ」

「たしかにわたしは友達だけど…腹心なんてたいそれたものじゃないんだけどなぁ……」


モランは笑顔でメアリーと話す。

一見彼女と同じようなクレイジーサイコガールかと思っていたがなんだ、ちゃんとした人じゃないか。


「こんな遅くにごめんね?実は折り入って頼み事があって……」


そう言ってメアリーはかくかくしかじかとここに至った経緯を話し始めた。


「なるほど、それはそれは……興味深いわね」


モランは手を顎にさすりながらふむふむと頷きながら聞いていた。


「どう?作れたりするかしら?」

「不可能ではないわ。ただ……」

「ただ?」


モランが意味深に言葉を濁す。

なんだろう、こういう時は大体厄介なことに巻き込まれそうな気がする。


「魂を入れて動かす人形となるとそれ相応の素材が必要になってくるのよね……」


ほら来た。


「素材?どんな物なの?」

「ソウルクレイっていう魂のエネルギーによって形を変える粘土が必要なんだけど、その粘土の元になる材料が足りないのよね。わたしが急いで採取しに行けば1週間で作れるんだけど……」


モランは申し訳なさそうに言う。


「そんな、急にお願いしたのはこちらなんですから大丈夫ですよ。ただ、一刻も早く汚名返上をしたいので俺達がその粘土を調達しても大丈夫ですか?」


俺がそう言うとモランは表情を明るくさせた。


「あらいいの?それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」


モランはそう言い残すと奥の部屋に入り、ガチャガチャと音を立てながら何かを探し始めた。


「たしかここに……あったわ!」


探し物を見つけたのか、こっちにも聞こえるような大きな声で言った。


「はいこれ。ソウルクレイが取れる場所を記した地図よ。これを頼りに探してね」


俺はモランから地図を貰った。

地図はとても古そうだった。

本来は真っ白だった紙は長い年月を引き出しの中で過ごしたことが分かるように、色褪せた黄土色へと変わっていた。


「分かりました。粘土ってことは……土か砂を探せばいいんですかね?」

「まぁ概ねそう。でも一つ気をつけてね」

「はい?」


モランが念を押すように俺と距離を縮めてくる。


「人の顔をした石には絶対に近づかないで」

「…?はい、分かりました」


モランに謎の忠告をされたが俺はなるべく早く人形を作って欲しかったので深くは聞かなかった。

そしてなぜ俺が出会う女はパーソナルスペースが小さすぎるのだろうと疑問に感じていた。


なんだかここに来て久しぶりにファンタジーな単語を聞いた気がするな。

いや、今までがおかしかったのか。

全裸の王様幽霊に身体を貸し、挙げ句の果てに不名誉なあだ名を付けられている現状こそが異常だったのだ。


「モラン……」


メアリーが不穏な雰囲気でモランの肩に手を置いた。


「えっ?どうかした?」

「次あんなことしたらアゴが外れやすくなる呪いをかけるからね」

「ほんとにどうしたの!?」


……なにやら向こうでは小競り合いが起こっていた。


こうして、ダンゲル人形化作戦及び、御影奏風評被害揉み消し作戦が決行された。

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