第12話 デデンデンデデン

俺こと御影奏はサンゼーユの街を一人で歩いていた。

そろそろここに来て1週間くらいは経つし、最初は家に帰りたいと思っていたが割と近代的なところがあったり感じの良い人達がいるからそう悪いものではない。


「おい、来たぞ!」


ある青年が、こそこそと聞こえないように喋った。


「全裸マンだ…全裸マンが来た……!」


俺の考えは開始数秒で打ち砕かれた。


「あれ、今日は服を着てるのか……」


人生で初めてだよ、服を着ていないのが珍しいと思われるのは。


こそこそと、街の人達は失礼極まりない視線と言葉を俺へ向けていた。

誰が全裸マンだ、好きでやったわけないだろ。

最初に呼んだ奴は取り返しのつかなくなる社会的制裁が必要なようだな。


「おい全裸マン!」


そんな中、一人の少年が不名誉なあだ名で俺の元へと駆け寄ってきた。


「おい全裸マン!」

「お兄ちゃんはキン肉マンに出てくるような名前じゃないよ~」


俺はあと一歩でシバキ倒したくなりそうになったが相手は子供、流石に冷静さを取り戻した俺はこめかみを引くつかせながらもなんとか紳士的に対応した。


「えっとね、あの時一生懸命僕達のために戦ってくれたでしょ?あの時の全裸マンかっこよかった!」


と、少年は屈託のない笑顔で言ってきた。

なんだ、ただ俺にお礼を言いたかっただけか。

変に警戒したのがアホらしいな。


「全裸マンにやってほしいことがあるんだ!」


少年は目を輝かせながらそんな事を言ってきた。


「なんだ?俺にできることがあれば言ってみろ」


俺はそんな少年に紳士的に、できる限りの大人の対応した。

そうだ、俺は一応この街を救い、魔王の幹部の部下を倒したのだ。

少しくらいチヤホヤされたって、報われたっていいじゃーー


「じゃああのターミ●ーターの登場シーンやれよ変態の全裸マーン!」


少年は「ギャハハハ」と笑いながら嘲った。


「…………………」


俺は、クソガ…少年の言葉を聞いて俺は白目を向きながら痙攣していた。


俺の中の最後の一線が、砂に消えるように無くなっていくような気がした。


「て……」

「て?なんだよ?」


俺は激しく痙攣させながらただ一言、こう言った。


「テメェらの血は何色だァ~~~~~〜~~!?!?!?!??!?」


俺は拳を握りしめて涙を流しながら走り去って行った。




********************************




「…ということがあって、カナデは出てこないんです。電話を200回くらいしてるのに出ないし、メールも400回くらい送ってるのに見てすらくれないし、どうすれば……」

「メアリーよ。まずはそのストーカー行為からやめた方がいいと思うぞ」


メアリーはハアハアと顔を青白くさせながら心配そうにダンゲルに話していた。


現在、彼等は街の一角のレストランで軽食を取りながら話していた。

メアリーはオムライスとボンゴレパスタ、ステーキとコーヒーというよく分からない組み合わせで食べていた。

彼女曰く、これが彼女の"軽食"らしい。


ダンゲルはそんな彼女からボンゴレパスタを貰っていた。

ダンゲルはパスタを啜りながら彼女の話を聞いていた。


「意外ですねぇ。霊でもご飯が食べれるなんて……」

「あぁ、転生者とか転移者とかいるだろ、アイツらの中に墓に食べ物を置くという文化があってな。そうすると俺達幽霊でも飯を食えるって近所の幽霊に聞いたのさ!」


ダンゲルは美味しそうに食べていた。

実際にはパスタは減っていないのだがメアリーがパスタを試しに食べてみると顔を少し顰めた。


「あら、さっき食べた時と味が落ちたような……」


ボンゴレパスタの特徴である塩味が薄いとメアリーは感じていた。

別に味覚が変わったわけでも実際に薄いわけでもない。

なんとなく、五感ではなくそれ以外のどこか特別な感覚で薄いとメアリーは思った。


「俺が食べるとそんなことが起きるのか!世の中は不思議なことだらけだな…」

「本当ですわね!」


ウフフ、ハハハと笑う二人。

だが周りの客はそんな二人をドン引きしながら見ていた。

顔を引きつらせて苦笑いしながら見ている者も居れば目を合わせないように黙々と食べる者もいた。


「…すまない。俺のせいで奇異な目で見られてしまったな」


ダンゲルは顔を俯かせてメアリーに申し訳なさそうに言った。

誰もいない1人きりのテーブルでただひたすら喋る少女。

そんな彼等のやりとりは普通の人間からしたら異常な光景だった。


「仕方ありませんよ。不思議に思うのも、疎ましく思うのも、不気味に思うのも結構、わたし達はわたし達。それでいいじゃありませんか?」


メアリーはコーヒーを飲みながら何の気なく言った。


「君…誰もいないのに話しているけど大丈夫かい?」


客の1人がメアリーに話しかけてきた。

年は50代の初老で、温和な笑みでメアリーへと語りかける。それが嫌味でも皮肉でもなく、純粋な心配と配慮であるということはメアリーもダンゲルもなんとなく察してきた。


「あら、心配ご無用ですわ。あなた、わたしが何歳に見えます?」

「そういう質問をするってことは30代から40代かな?」

「なんで余計な勘繰りをするの!?どう見てもピチピチの10代でしょうが!」

「いやピチピチとか言ってるじゃないか。そういうこと言うと余計思われるよ?」


初老の男は冷静にメアリーのツッコミをいなす。


「あなたイマジナリーフレンドという言葉は知っているかしら?」

「あぁ、転生者が言ってたな。たしか『皆には見えないあたしだけのお友達!』とか言って娘が友達を作らなくて困ってるって聞いたことが……」


男が思い出しながらうぅむと唸った。


「そ、そうなの…?まぁわたしもそういうわけで、一見見えないけど実はそこにいるわたしの友達と食事をしていたのよ!」


メアリーはその娘の父親に同情しながらも言った。


「そうそう、ソイツの娘も人形を連れながら言ってたよ。『この子には魂が宿っているの!』って言って聞いてくれないって……」

「そうなの?子育ては大変………」


メアリーはそこまで言って急に固まった。

何か、とても画期的な考えを思い付いたかのように思考を巡らせながら石のように動かない。


「あのお嬢ちゃん……?大丈夫?」

「幽霊、ター●ネーター、魂、イマジナリーフレンド、人形…………」

「呪文みたいなこと言ってるけど本当に大丈夫?」

「あばばばばばばばばばば」


初めは謎の単語を呟くだけだったが次第に悪魔に身体を乗っ取られたかのように身体をピクピクと小刻みに震わせた。


「これよ……」


そしてメアリーの震えは突然ピタリと止まり、周りの客は一瞬の静寂に包まれた。


「お嬢ちゃん?これよってどういうーー」

「これよォォォォォォォォォォォォォォオーホッホッホッホッホッホッホ!!!!」


メアリーは急に高笑いしながら天井に顔を向けて狂喜乱舞した。


「お母さん……」


1人の子供が自分の母親の裾を掴む。


「あのお姉ちゃんヤバイよ」


無表情で子供は母親にそう言った。

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