エピローグ ~『聖女の弟子は村人でした』~


 ドラゴンダンジョンを攻略したアルクは王国の英雄となった。彼を見下していた者は頭を下げ、聖女の隣が相応しいと賞賛した。


「アルクくん、おはようございます♪」

「おはよう……」

「随分と釣れないですね。私たちは夫婦になったのですよ♪」

「そうだったな……」


 周囲からお似合いだと認められた二人は婚約者から夫婦になった。同じ家で暮らし、同じ食卓を囲む。毎朝、寝ているアルクを起こしに来るのも、クリスの役目になっていた。


「ささ、ご飯できていますから。起きてくださいな♪」


 クリスが寝起きのアルクの腕を引っ張り、食卓に案内する。そこには彼の好物である目玉焼きや小麦のパン、ジャガイモのスープが並んでいた。


「いただきます」


 椅子に腰かけたアルクは朝食に舌鼓を打つ。幸せを感じられる瞬間だった。


「そういえば、勇者は王国を追放されたそうですよ」

「俺に手柄を横取りされたからな」

「それだけではありません。ドラゴンダンジョンのボスが放った魔力を封印する波動を覚えていますか?」

「俺があいつを盾にして身を守ったからな。当然覚えているよ」

「実は……封印がいまだに解けないみたいで、魔法が使えないそうなのです。それが追放の最大の理由だとも言われています」

「利用価値がなくなればポイか。あいつも可哀そうな奴だな」


 勇者は強者であるが故に重宝されるのだ。態度がでかいだけの無能では追放されるのも無理はない。


「だがあいつのことだから性格は変わらないだろうなぁ」

「小さくまとまった勇者は勇者ではありませんからね」

「やっぱりあいつにはあのままでいて欲しいよな」


 勇者に追放されたことを恨んでいないと言えば嘘になる。しかし同じくらい尊敬もしていたのだ。


「ふふふ、実はアルクくんが勇者に憧れていたって知っていました♪」

「そうなのか?」

「そうですとも。なにせ私があんなに剣を否定しても、止めようとしませんでしたし、それに何より戦闘スタイルが勇者に瓜二つでしたから」

「……認めたくないが、尊敬していたさ。けど仕方ないだろ。だって勇者なんだぜ。男で憧れない奴はいないだろ」


 性格が最低でも勇者という職業は羨望の的になる。特に力を持たなかったアルクは憧れが人一倍強かった。


「ふふふ、ですが今度はあなたが憧れの対象となる番ですよ♪」

「俺が?」

「付いてきてください」


 アルクの手を引き、クリスは玄関の扉を開ける。開けた先の世界には広大な農地を埋め尽くすほどの人で溢れていた。


「この人たちは……」

「あなたの弟子志願者たちです」


 人々は頬を紅潮させながら、アルクにキラキラとした目を向ける。


「アルクさん、俺を弟子にしてくれ!」

「俺も頼む!」

「待て待て、ここはアルクさんと同じ村人の俺が一番弟子として……」

「アルクさんはドラゴンダンジョンを攻略した英雄なんだ。お前のような凡庸な村人とは違うんだから引っ込んでろ!」


 民衆たちは誰がアルクの一番弟子になるかで言い争う。誰もが奪い合うように彼を師に求めた。


「アルクくんは人気者ですね。なんだか嫉妬しちゃいます」

「心配しなくても俺はクリス一筋だ。なにせ俺が辛いときに傍を離れないでいてくれたのは、お前だけだからな」

「ふふふ、まるで私がイジメられているときに助けてくれたアルクくんみたいですね♪」


 アルクは隣に立つクリスの白い腕に手を伸ばし、ギュッと握りしめる。


 実力が釣り合わないからと聖女との婚約を破棄したが、いまのアルクならそれが間違いだったと分かる。最強の力も、皆からの尊敬も、彼が手にしていたものと比べれば些末でしかなかったのだ。


 聖女の弟子になった村人は最強へと至った。そして最後には夫婦となり、幸せな人生をこれからも過ごしていくのだと、胸に誓うのだった。


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ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

本作についてですが、本編はこれにて完結です!!


最後になりますが、本作に今までお付き合い頂き、誠にありがとうございました

もし面白ければ今後の作品作りの参考にしたいので、

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聖女の弟子は村人でした!! ~実力が釣り合わないからと聖女様との婚約を破棄したら、追放者たちを見返すために最強を目指すことになりました~ 上下左右 @zyougesayuu

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