第二章 リオフス

第31話 代償

「なあサクト、やめにしないか?」


 クリスは俺に向かって真剣な眼差しで言う。


「えー、けどこの噂厄介だぞ」


 クリスはリオフスに入ることを躊躇しているようだ。というより拒絶している。


「だって……リオフスだよ?」

「って言われても、俺リオフスの悪い噂とか聞いたことないんだよ。あと、入ってもあれだったらすぐ抜ければ良いんじゃないか?」

「まあそうだけど……」


 俺は立ち上がる。


「よし、俺、入る」

「ねえ! サクト! やめてよ!」


 なぜこんな決断したのかは分からない。けど、リオフスに入れば何かが分かる気がした。きっと……。



「お、おめえら、決まったか? クソが」


 俺は宿から出るとウッパーが出迎えてくれた。

 クリスは用事があるからと先に帰るとのことらしい。


「おう、入るぜ。リオフス」

「よっしゃ。決まり、じゃあ直ぐに行くぞ!」


 俺はコクリと頷き、ウッパーについていく。


 あー。またあの緊張感を味合わないといけないのかぁ……


「シキブさーん。こいつ、入ることにしたらしいっす!」


 ウッパーがシキブの家のドアの前で大きめの声で話す。


 すると直ぐにシキブは出てきた。


「分かった」


 そういうと直ぐにシキブはドアを閉める。


「これで仲間入りだな! サクト」

「え……これで、良いのか?」

「ああ。これで完了だ」


 随分味気ないなぁ。

 これで俺の噂が無くなればいいんだけど……。


 待てよ……。


「もしかして、俺、ここに住むことになる?」

「もちろん」

「まじか……」


 別に今の部屋に思い入れがあるわけでもないが、なんか嫌だ……。


 まあいっか。


 取り合えず今はそれで片付けることにした。


 俺はその後荷物をリオフス街に移動し、指定された部屋に持っていく。

 前の部屋と比べると劣るものの、案外綺麗だ。



 そして事がひと段落着いた時、俺はふと噂が本当に消えたのか気になってきた。


 という事で俺はランク戦に出ることにした。

 クリスも呼んでみたが、返事がない。まあよくある事でもあるので、俺は一人でランク戦に向かう。


「久しぶりのランク戦……何か緊張するなぁ」


 そう期待と緊張を胸に、ランク43112位の人に声を掛ける。

 今の俺のランクは43261位だから妥当なランクなのは間違えない。


「いいぜ。ほら」

「良いのか?」

「当たり前じゃねえか。6500で良いぞ」


 案外すんなりランク戦の承諾を得ることに成功。

 良かった……。


 だが安心している場合ではない。

 随分と戦っていなかったため鈍っている可能性だっていある。

 油断は禁物……。


 俺たちはパスカードを交わした後、いつものようにEクラスである事に驚かれ、剣を構えて勝負開始。

 相手も剣である。



「――んぬあ! 負けだ負け……」


 男はそう言って去っていく。


 俺は久しぶりのランク戦に勝利。

 新たにランク43112位の称号を飾る。


 本当に……噂が消えたんだよな……。


 俺はその事実にホッとする。

 何があったのかは知らないが消えたことに変わりはない。

 流石甕。



 俺はリオフスの村に戻る。


「お、帰ったかサクト」


 リオフス村に入ると直ぐにウッパーが俺を迎える。


「ああ、マジで直ぐに噂消えたな」



 俺がそう言うとウッパーは誇らしげに腰に手をやる。

 別にウッパーが凄いわけでは無いのに自分の事のように喜ぶ。


 初めて会った時のウッパーと本当に違いすぎてまるでこれじゃ二重人格だ。


 俺は噂が消えたことをクリスに報告するべく部屋に戻る。


「あれ……クリスまだ帰ってないのか……って、クリスは別にリオフスに入っているわけじゃないか」


 俺は一人でそう呟くと再びリオフス村から出る。


 まあクリスがリオフスに入るかどうかは良いとして、早く噂が消えたという事実をクリスに伝えたい。


 ……。


 そういえば俺って、クリスの家知らないな。


 案外どこに住んでいるか聞いたことも気にしたこともなかったこともあって俺はクリスの家を知らなかった。


 じゃあクリスに連絡しないと……。


 あれ……。


 俺、クリスの連絡先知らないな。


 そういえばと思い出すと、俺たちはメールや電話で何か伝えたりすることは一度も無かった。

 外に出るとクリスが待っている。そんな感じだ。


「……クリス?」


 俺は人混みを眺めて嫌な気分が体に走る。


 いや、確かにクリスを数日見ない日もあった。けれど、何か違う。おかしい。

 どこかクリスが遠くに行ってしまったような……。


 しかし、まあいつか帰ってくるだろうという気持ちと絡み合い、行動することを躊躇させる。


 俺は結局気にすることなく日々を過ごした。




 そして一週間たった。


 だが――クリスと会う事は一度も無かった。












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