第29話 倉庫利用方法

「助けてくれて感謝するご主人様」

「なに?」


 感謝の他に聞き捨てならない言葉を発したのは、女達を庇って先頭に立っていた女で、近くで見ると全身まばらに古傷がある。

 白い肌に癖の強い金の長髪に金の瞳。

 そして猫耳猫尻尾。

 でも語尾ニャンじゃないから、猫じゃなくてネコ科なんだろう。


「知らなかったのか? 奴隷の所有者が悪人だった場合、所有者が殺されると奴隷の所有権が殺した側に移るのだよ。だから君は我等のご主人様で生殺与奪の権利を持っている」

「そうか」


 人垣を戻りながら倉庫から出した槍で一本の線を引いていく。


「1度全員こちら側に集まれ、そっちの連中もだ」


 左手を挙げて彼等が東側に集まるのを待つ間に、俺は線より西へ移動する。


「俺の奴隷のままで居たい奴等は線からこっちに歩いて来い。線より向こうに残った奴等は奴隷商人の能力で奴隷から解放して自由にしてやる」


 かつてエルネシアは、奴隷は主人と奴隷双方の同意がないとと言っていた。しかしさっきの女は主人が悪人なら殺せばと言っていた。

 エルネシアは所有権の移り変わる条件を知らなかったのか、女が嘘を言っているのか。


 ゼロだと思っていた奴隷希望者は、以外にも男女共に半数ずつくらいになった。

 理由は不明だが解放希望者を手前から順に一般人へと戻していく。

 全員の解放が終わり西に戻ると、以外にも奴隷を希望していた傷女がやって来た。


「ご主人様、一般人になった彼等彼女等に別れの言葉を伝えてもよいか?」

「好きにしろ、あと敬語も丁寧語もいらん」

「ありがとう、では、そうさせてもらおうか」


 傷女が先の前に立つと話し始めた。


「これまで辛い生活を共にしてきた者達よ、これでさよならだ。これからは一般人として自由に自己責任で自分達の力だけで生き抜いてくれ。我等奴隷達はご主人様に生殺与奪の権利を握られながら、奴等を一蹴したそのお力の庇護の下に生きていく」


 やられた、全員解放にすれば良かった。

 下手に日本人的感覚で選択権を与えたのが裏目に出た。

 傷女は俺に彼等奴隷を道具として使う権利を与える代わりに、俺の責任で養うか殺すかを選ぶ状況になるように誘導している。


 話しを聞いた一般人達も俺がここに住むと思い込んでいたのだろうか、自分達の力だけで生きていけと言われて動揺している。

 それにしてもこの傷女、俺が南に歩いただけで村に留まる気はないと見抜いたようで、道具扱いされ死の危険性を孕んでいようと奴隷になる事を選んだ。

 おそらく俺の戦闘力を目的にしていて一緒に行動するために必要だからと、躊躇なく選択したのだろう。

 もの凄くやり難い相手だ、ガキで凡人の頭しか持ってない俺では勝てる気がしない、元々天才秀才タイプの人間なんだろう、遺伝子に差を感じて仕方がない。

 まだ不撓不屈があるから嫉妬に捕らわれないだけマシか。


 説得のていを取った傷女の演説で諦めたのか、三々五々と一般人達は村へと散っていく。

 奴隷達を連れ村から離れるために移動する。


「おい傷女、こっちに来い」

「ん、なるほど傷女か、確かに。仰せのままにご主人様」


 体を見て自分の呼ばれ方に納得した傷女は仰々しく返事をすると先頭まで来た。


「名前は」

「レオーナでございます」

「レオーナ、お前を奴隷から解放して一般人にした。奴隷達の管理を任せる、やり方は自由にしてもいいが今は4列で歩かせ、健康な者は列の後ろに並ばせろ。副官を選んだら教えろ、そいつも解放する」

「ありがとうございます、ご主人様」

「いちいち仰々しい、普通に話せ。俺の事はシバと呼べ」

「承った」


 いきなり立場ある者の話し方になったな。

 後ろに指示を飛ばしてテキパキと列を並び替えているレオーナを見ながら、材料見つけて服を着せないとな、と思うのだった。


 △△▽▽◁▷◁▷


 村から離れたので奴隷の並びはそのままで前後の間隔を少し広げさせた。

 最前列から順に肩に手を置いて回復と状態回復をかけていく。

 最初は怪訝にしていた彼等だが健康になる者が増えるにつれ、後ろまで回復された者達の声がとどき始めたようで騒がしくなってきた。


「静まれ! 我等がご主人様が手ずから回復なされているのだ、騒いで邪魔をするな!」


 うるさいと思う前にレオーナから激が飛び歓声が静まる。

 静にはなったがそれでも彼等の期待と興奮はおさまらず、静かな熱気が周囲を満たしていった。


 最後にレオーナを健康にしたら道中作った石の柄杓ひしゃくを渡す。

 次の列からは端の者に4本渡して隣に回すように言う。

 3本余ったから97人か。


 列の横に居岩で長く深い器を作る。

 深さ1メートル、幅50センチ、長さ50メートル。

 器の端から端までウォーターピラーを隙間なく使用して器を水で満たす。


「好きなだけ飲んでいいぞ」

『うおおおおおおおおお!』


 奴隷達が器に向かって走り我先にと、柄杓を使わずに両手で、または水面に直接口をつけて水を飲んでいく。

 あー……


「シバ、すまない。皆、水も食料にも飢えていてな」

「謝罪はいいからお前も飲んでこい」

「ああ、そうさせてもらおう」


 いちいち格好いいんだよなあ、いい体付きしてる全裸なんだけど。

 ていうか、全員全裸に慣れすぎてて隠さない以前に恥ずかしがってねえ。

 男も女もフルオープン過ぎて、ヌーディストビーチみたいになんも感じなくなってきたんだろう、多分。


 真水の飲み過ぎは体に悪いのでそこそこで魔法を解除。

 一斉に振り向く奴隷達、こっち見んな。

 彼等を無視して南へ歩くと慌てて走る音がするので振り返ってみると、4列に整列して追従してくる。

 こいつ等気味が悪いくらいに適応力が高いな、さっきと同じ並びなのか違うのかは不明たが、全員無言で走ったのに揉めずに並んだぞ。


「シバ、副官を選んだので私のついでに紹介しよう。竜人のアマルディア、エルフのゼオラ、並人のヴェルカだ」


 レオーナはライオン獣人だったらしい。

 胸は映像の仲でしか見た事がないサイズでFとかGとかあるんじゃないだろうか。


 竜人のアマルディア。

 空色の髪に薄い緑の瞳、エルネシアより僅かに小振りでBくらいのスレンダーなプロポーションをしている。

 角、鱗、尻尾はないので、髪を染めてカラコンした白人にしか見えない。


 エルフのゼオラ。

 ゼオラよりもちっパイで多分A。

 金のショートカットにアマルディアより濃い緑の瞳。

 当然の如く耳が横に細長い。


 日本人っぽい並人のヴェルカ。

 黒髪ロングに金の瞳。

 レオーナよりもさらにデカパイで、レオーナがGだったとすればヴェルカはHになるんだが?

 実サイズはネネに軍配が上がるが、体格で比較すると僅差で負けるくらいにしか差がない。


「彼女達3人は、この短い人生の中で最も私が信頼できると思った者達だ」

「アマルディア、よろしく」

「ゼオラだ、よろしく頼む」

「ヴェルカです」


 アマルディアはつぶやくように、ゼオラはレオーナと違うタイプの優雅さで、ヴェルカは緊張して勢いよく頭を下げてバルルンと揺らせて、それぞれ挨拶してきた。


「私は戦闘力がそこそこあるが、今は武装がないので並の男共よりかはマシ程度だと思ってくれ。アマルディアは努力の竜人で歴戦の勇士だ、裸のままでも私の倍以上には強く底を見せた事がない。ゼオラはエルフ特有の精霊術師といい、扱いが難しい代わりに様々な応用ができる術を使う。ヴェルカは見ず知らずの他人のためにその身を犠牲にできる自己犠牲と優しさを持っているので、私達とは別の視点が期待できる」


 3人も奴隷解放して一般人にしておく。


「色々あって近くまでモンスターを退治に来たが迷っているシバだ。南の海に出てから西か東のどちらに向かうか考える。目的地は白亜の円塔型のダンジョンと近くに構えた我が家だ、全員に通達しておいてくれ」


「任されよう」

「わかった」

「了解した」

「はいっ!」


 その夜、レオーナ達97人は居岩の中で眠りにつき、全員倉庫に収納された。

 次に目覚めるのは我が家を見つけた後になるだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る