第5話 文化レベルの違いに気付いた日中
目覚めると雨音は止んで、股間は刺激されていた。
「へぇー、男の人ってこうなるんだー、不思議ー」
顔を持ち上げてみると俺に抱きついたままのエルネシアが、人差し指でツンツンとかグルグルとかして、興味深く観察してらっしゃったからだ。
腹筋に力を入れてちょっと動かしてイタズラしてみる。
「きゃっ、わぁー動いた……気持ちよかったのかな?」
大変よろしゅうございます。
とはいえエルネシアも、自分がこんな事をしていると当人に知られたら気まずいだろう。
寝起きの微睡みもあって、早々に2度寝できた。
△△▽▽◁▷◁▷
「じ……ま、起きてください、……ん、ま、起きてください、そろそろ出発しましょう」
2度寝から数時間どころか多分数分。
寝るというよりは授業中に意識が飛んでたレベルの時間で起こされた。
「おはようございます、ご主人様」
ハートマークが付いていそうなほど甘く語尾を持ち上げられた。
一瞬、そうほんの一瞬だけだが、理性が消滅させられた。
ただそれを、失敗して嫌われたくない心がどこかに残っていて、俺の暴走を寸前で停止させた。
「あの、エルネシアさぁん? いかが致しましたのでしょうか? そう呼ばれるのもやぶさかではないのですが、お互いもう主人でも奴隷でもないのだし、昨日みたいに名前で呼ばないのかな、かな?」
脳のどこかで冷静な一部が、我ながら酷い混乱具合だなと客観的に自覚しているが、どうしようもない。
こんな好みの美少女にご主人様なんて呼ばれたら、からかわれていると理解していてもパニクってしまう。
「あのですね、実は冗談なんがじゃなくて、昨日みたいな少しからかい混じりじゃなくて、今日は本気で私を奴隷にしてもらいたいんですよ。あっ、もちろん理由はお話しします」
突然の奇行に走ったように見えたエルネシアだったが、その行動は理性と心の傷に起因するものだと思われた。
主人持ちの奴隷になると、主人と奴隷両方の同意がない限り2人の関係は解除できない。
それは奴隷商人でも不可能なので、変に一般人で居るよりも俺が主人の奴隷になった方が、もう2度と奴隷に落とされ、誰とも知れぬ相手を主人にされる恐怖に怯える事もないから、らしいのだが……どうしたものか。
地球では人種差別の禁止やや奴隷禁止なんてされていても、本人次第で人種差別は続いているし、奴隷は禁止されていても社畜なんて言葉ができるくらい、サラリーマンは会社に酷使されて過労死するか、死なないギリギリを常に働かせ続けるなんて未だに続いている。
そう考えれば奴隷なんて名ばかりの、連れ去り防止の保護機能として、俺の奴隷にして欲しいっていうのか?
日本人的倫理観からすればノーなのだが……
「こんな世界になったんだから、たまには欲望のまま美少女を奴隷にしたっていいじゃないか!!」
そうだ、求められない限り手を出さなきゃいいだけなんだ。
そうだ、そうに違いない。
そうと決まれば。
「エルネシア、まだ出会って2日目で丸1日も経ってませんけど、俺の恋人奴隷になって他の男から守らせてください! よかったらこの手を取ってください」
直立から直角に頭を下げて握手の形に手を伸ばす。
1秒も待たずにそっと手が別の温もりに包まれた。
「はい、よろこんで」
俺は喜びの声を上げるよりも先に頭を上げると、初めてできた彼女……恋人を抱きしめて優しく……したつもりのキスをした。
味なんてないはずなのに、凄く甘い気がした。
△△▽▽◁▷◁▷
息が苦しくなっているのに気付いて、ようやく唇を離す。
ただ唇を触れさせるだけのキスに30秒、下手をしたらもっと長い時間キスを続けていた。
荒くなった呼吸を落ち着け、エルネシアに聞いておきたい事を聞いた。
なんで俺なのか、俺で良かったのか等だ。
非モテ街道15年の男子としては不安になっても仕方あるまい。
「命の恩人ですし、不本意な奴隷から解放してくれましたし、寝てても襲われなかったですし、黒い髪と目が綺麗ですし、あと……オ、いえ以上です」
「えっ? 最後のなんだって? お兄さん、大きな声でハッキリ聞きたいなー?」
最後視線が下に下がったのを俺は見逃さなかったぞ、エルネシアー!!
「もうっ、知りません!」
セクハラしてもプリプリ怒るだけのエルネシアたん、激カワ〜。
その後、ちょっとスネた彼女の機嫌を取るためにたっぷりとキスをした。
俺へのご褒美にもなりました、あざーっす。
△△▽▽◁▷◁▷
1夜の宿だったロックドーム等は念じると消えていった。
立つ鳥跡を濁さず。
モンスターに利用されないように、使った魔法は綺麗にしてから行くのが異世界の流儀らしい。
食料を求めながら宛なく森を彷徨う。
彷徨いながらエルネシアから魔法の属性と種類について聞いていた。
「魔法は8属性ありまして、火のファイア、水のウォーター、風のエア、地のロック、光のライト、闇のダーク、氷のアイス、雷のサンダー」
ふむふむ、ハンターしてたって言うし、この辺は戦闘するのに常識なんだろう
「攻撃は速さが特徴のショット、貫通力に秀でたランス、接触すると弾けて周囲をまとめて攻撃できるボムの3種類」
攻撃は3つ。
ショット、ランス、ボムと。
「防御は宙に浮かぶ盾のシールド、昨日使っていたウォールとドーム、四角い柱のピラー、出入口や窓、階段がある塔のタワーです。ですが、ロックタワー以外のタワーは名ばかりで登れないので、滅多に使われませんけどね」
まあ火や雷でできた塔に入ったら、そりゃ死ぬわな。
「あと水、地、氷については使用者が消さない限り世界に残り続けます。氷は水になりますけど、水も岩もずっと残ってしまいます。特に岩については消し忘れが揉め事の原因になりやすいので、注意してくださいね」
前後左右を視認して索敵しながら、エルネシアの話しを聞いて覚えて、鑑定して食料を探す。
「じゃあさ、飲んだ水を狙って消すとかどうなるの?」
「それはできません、1度飲まれた水は飲んだ本人の物になるので、使用した魔法使いでも消すのは不可能です」
「なるほどねー……おっ、これは食えるな、ほら食べて、あーん」
「あ、あーん」
恥ずかしがって顔を赤く染めてるエルネシアたんカワユス。
こうでもしないと食べようとしないから、あーんするしかない。
昨日から役立ったのは石武器をオーガの背中に当てた1回だけだから、食べる資格がないだとか。
だから美少女の口に無理矢理にでも突っ込む。
いかん、落ち着け落ち着くんだ、グッドモーニングするんじゃない。
ロックランスで樹皮を傷付け力任せに剥ぎ取って、職人系の能力で魔力を使って形を変化させていく。
繊維の隙間を広くして柔軟性を出してから、これまで集めた他の樹皮と結合させて、大きくし成形していく。
目算でサイズを決めて膝丈長袖のワンピースに仕上げていく。
これは目測だから覗きじゃないんだからね!
なので誰とも憚る事なくガン見していく。
「あの、シバさん。恥ずかしいから、そんなに見ないでくださいよぉ」
「見ての通り君に合わせたワンピースをつくっているんだからね、手で測ったりしない代わりにしっかりジックリ見てたの……んんっ! 目測しないとね」
「ううー、わかりました。早く終わらせてくださいね」
観念して両手を左右に下ろしたエルネシアだが、当然羞恥心は高まって肌を赤く染めていった。
「あぅぅぅー、シバさーん、まだですかー」
「協力ありがとうエルネシア、完成したから着てみてくれないか? 目の前で!」
「シバさんの、エッチ」
残念、エルネシアは恥ずかしがってワンピースを木の裏へと持ち逃げしてしまった。
それもほんの数秒の話し。
体に巻いた樹皮と蔓を外して頭から被るだけのシンプルな行為。
エルネシアはあっさり着替え終えると木陰からぴょんと出てきた。
「どうです? 似合いますか?」
「それはもう、このままお持ち帰りしたいくらいだよ」
「えへへっ、ありがとうございます、そう言っていただけて嬉しいです」
ここでお互いの常識の違いに気付いてしまった。
エルネシアの居た元の世界がファンタジー作品の定番、中世ヨーロッパ風だとしたら?
女子の服に疎かった俺のデザインしたワンピースでも、目茶苦茶オシャレだったりするんじゃないか?
それにハンターギルド? の職員の娘だって言ってたから平民なんだろうし、素材そのものの色の服があたり前だった可能性は?
つまりここは下降評価せずに平時よりちょっと上気味に褒めるのがベストかベターだったのだろう。
「ナイスだ、俺ぇ〜」
「ん? そうですよ、凄い素敵な服をありがとうございます」
やっぱり正解でしたー。
あとエルネシアは勘違いしてるけど、都合がいいから正しません!!
この後作った俺用のスラックス風パンツとワイネックシャツは大絶賛された。
かつての地球のデザイナーの皆様、貴方達の努力は変わってしまった地球か転移先の異世界でも、素人作りのかなり劣化したデザインなのに大絶賛されてますよ。
次はリュックサックかワンショルダーバッグを作って、ここここここここ恋人のエルネシアに選んでもらおう。
大絶賛され過ぎて照れが抜けきってないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。