第4話 ベッド……オン?
ポツ。
ポツポツ。
ポツポツポツポツ。
ザー……
「やばい雨だ、エルネシア!」
「はい、いけます」
呼び声に反応してエルネシアも同じ方向へ走り出した。
「山の天気は変わりやすいって言うけど、森も一瞬かよ」
「どうしますか、このままじゃ埒があきませんよ」
「エルネシア、魔法使いについて知ってる限り教えてくれ。俺は戦闘力も高いのに鑑定(物)まで持つ変わり者な職業をしているらしい、ひょっとしたら知らないだけで魔法も使えるかもしれない。この状況で使えそうな魔法があったら教えてくれ」
「でしたら手を前に伸ばして丸い岩を想像して強く言ってみてください」
『我が心の求めるまま岩よ敵を撃て、ロックショット!』
エルネシアの詠唱に合わせて魔法を使おうと言葉に力を、意思を込めて放つと、伸ばした右手から砲丸投げの玉より大きな岩の球体が、猛烈な勢いで木々を薙ぎ倒しながら、ピンボールさながら方向を変えつつ森の奥へと消えていった。
「うおっ、なんか出た!?」
「て言うか、大き過ぎですよ!普通あの半分もないサイズで、形ももっと歪ですからね!」
あっ、美少女に本気で大き過ぎとか形がとか言われたから、ちょっと興奮しかけちゃったぜ。
危ない危ない、今俺全裸。
興奮したらマッハでばれるマッパなんだなー。
「それよりあれのどこが状況打破になるのか、教えてくれ」
「止まってください……はい、私の近くでしゃがんでイメージしてください」
フムフム、次はそのまま岩のドームなのか。
岩。
半球。
2階建てサイズ。
中は空洞……よし!
「ロックドーム!!」
天に伸ばした腕の先からは、イメージした通りの大岩が降ってきた。
ズウゥゥゥン……
軽い地響きを鳴らしながら巨大な岩の天蓋は俺達を余裕で覆い隠してしまった。
「えっ……ええーーーっ!!」
魔法を使ったんだから魔力だろう。
魔力の切れて猛烈な体調不良に苛まれ動けなくなった俺と、驚き叫び固まったエルネシア。
俺達2人はしばらくそれぞれ別の理由で、動けずに、動かずにいたのだった。
△△▽▽◁▷◁▷
「なるほど勇者の効果で感情はマイナスにならなくても、魔力切れとか体調不良から来るものには効果がないと」
「えっ、シバさん、今勇者って言いましたか? 言いましたよね?」
「あっやっべ……僕は知りましぇん、僕は知りましぇーん!」
「へえー、そんな事言うんですね、でしたら私にも考えがあります。シバさんの事全部教えてくれたら、私のご主人様になってくれてもいいんですよ?」
「俺が目覚めた時は異世界に来てしまったと思ってたんだけど、俺の居た地球の創作物語では異世界と言えば地球にない不思議な能力や世界の法則だったんだ。だから天職とか現職も素直に受け入れたんだけど、俺の天職は総職系男子って言って複数の職業を同時に現職にできる能力を持っていて、最初に持ってた職業は勇者で、樹皮を剥いで腰に巻いただけで服飾職人を手に入れたりと、職業の入手もとても簡単になる非常に強力な高性能な天職だったんだよ」
奴隷商人
対象を奴隷にする
対象を奴隷から解放する
しかもやったぜ、奴隷階級に落とされた本人が条件を提示して満たしたからなのか、タイミングよく奴隷商人の職業をゲットしたぜ!!
てな訳で早速……
エルネシアの鎖骨の間に手を掲げて念じると、手から光が伸びて彼女の胸骨から体内へと侵入していった。
「エルネシア、これで今から君は奴隷じゃなくなった。昨日までと同じく物じゃなくて、1人の人間だ」
「えっ……?」
「君に全部話せばって言われて話したら、主人になる条件を満たしたみたいでね、奴隷の最初の主人は奴隷商人しか居ないからって感じだと思うけど奴隷商人の職業をゲットしたんだ。だから君を奴隷から解放したんだ」
「あっ、そんな、嘘……じゃないんですね。私、もう奴隷じゃなくなったんですね、うぁー!」
驚き喜び感極まってエルネシアは俺に飛んで抱きついてきた。
背中に泥の冷たさと正面の暖かさと柔らかさを感じながら、興奮しないように無の境地を求め瞑想した。
多分迷走しかしてなかったと思うけど支離滅裂だったせいか思い出せない。
ただ幸いな事に、スタンダップだけはしなかった。
△△▽▽◁▷◁▷
エルネシアが泣きつかれて眠ってしまったので、横抱きにしながら魔法使いについて探っている。
確定で使える属性は土とか地とかだろう岩の魔法。
けど今それを使うとせっかくの屋根に穴が空いてしまうかもしれない。
例えばロックキャノンとかロックカノンだとかが使えた場合な。
それにエルネシアの反応から察するに本人の魔力の強さ? それかイメージ次第で魔法は大きさは変えられるらしい。
なのでロックウォールが使えるのを確認してから、ドームの内側に横倒し状態で出てくるように使う。
ロックウォールは台形に奥行きのある形をしているので、水平になるように出てくる角度を調節するのに3回魔力切れになった。
そんな七転八倒しそうな精神的苦痛状態でも生命力と体力はマックスなので、エルネシアを抱えて立っている事は続けられ次第に慣れてきた。
辛いのは変わらないけど苦痛に馴染んできた?
多分そんな表現がぴったりだと思う。
そして現在ロックドームの中には、水滴が流れていかないツルツルの石床が2枚敷かれている。
更にはロックウォールの大きさと配置を微調整してできた、台だけベッドがある!!
俺の生命力、体力共にほぼマックスで、魔力も半分近く残っている。
そしてベッドがあって抱えている美少女は寝ている。
この後なにをするか、そう睡眠だ。
流石に生命力以下も脳の疲労には勝てないようで、さっきから足元がフラフラし始めた。
硬い床で寝ると辛いらしいが、それより今は起きてるのが辛い。
そんなベッドでエルネシアを寝かせるのも心苦しいが、無い物ねだりしても仕方がない。
せめてと腕枕だけして隣で眠った。
日本での夢は見なかった。
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