呟く葦

とある嵐が通り過ぎた瓦礫跡

身体の中を何かが埋め尽くした


濃くドロドロとしたそいつを溜めこんで

口を真一文字に結び


暗がりに手を伸ばし

床に転がった筆を手に取ると


画用紙の様な壁に

突き刺した


じわりインクは歪み滲み

じめじめ壁を黒く染めてゆく


インクは部屋を覆い尽くすと

やがて筆を伝い再び僕自身にまで染み込んだ


黒く染まった奔流は

内側から暴れ出し


席込むような頭痛と吐き気がしたから

家の跡を飛び出した


走れ 走れ ぬかるみを

ぬちゃぬちゃと汚れた水を蹴り上げる


やっと辿りついた葦の生える丘に立ち

穴を掘り黒い言葉を埋め込むんだ


翌日そこには葦が生え

ぺちゅあくちゅあと喋り出す


これだけ生えているならば 誰のものか

分かりっこないだろう


それでも誰かに見てほしい


この黒く汚れてなお

伸びようとし続ける葦の茎を


筆によって黒く汚れた紙屑は

誰に見られることなく燃やされ朽ち果てた


そして手に付いた黒墨が

再び内側へと染む


穴を掘って埋めてしまえば

そこにまた葦が生えるだろう


そして代わりに吐き出してくれるのだろう

この身体に詰まった言葉の残り滓を


呟かれることなく消えゆく筈の

黒く小さな叫びを


心から絞られたメーデーを

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