第一話 不思議な主
その『空想博物館』と名がついた洋館は、一見するとただの『家』だった。開けっ放しの玄関から中に入ると、まず目に入ったのは大きなエントランス。大きな曲線を描いて二階に行くための、二本の階段。エントランスは二階まで開いていて、高い天井が見えた。天井には大きなシャンデリアがあり、陽の光を浴びてキラキラと鮮やかに光っている。慶太が知っている『博物館』とは、だいぶ違うように思えた。
ボケーッとしばらくシャンデリアを見上げていたが、慶太だったが、視線をエントランスに戻すと、『順路』と書かれた看板が目に入る。なるほど。『博物館』と言うだけあって、キチンと見て回る順番があるのか。矢印の向くままに左に曲がると、そこは両方の壁がガラス張りになっていた。博物館と言うより、水族館に近いな、とふと思う。じゃっかん薄暗いのが気味が悪かったが、ここまで来てしまったのだから行ってみようと足を向ける。
一番目のガラスに目をやると、そこには羽の生えた小さな少女が、驚いた様子でこちらを見ていた。驚いたのは慶太も同じだ。なにせ、少女の大きさは慶太の手のひらに収まる程度のものだったからだ。
お互い、ビックリした顔で見つめ合う。
すると、
「これは驚いた。ここに来る人がいるなんて」
男性にしては高い、女性にしては低い声が聞こえた。声のする方を見ると、腰までくる白髪を横で緩く結び、丸メガネをかけた着物の人が立っていた。性別は……分からない。目は光によって緑にも青にも変わる不思議な色をしている。
「いやいや、本当に驚いた。ここに人が来るのは、いつぶりかな」
そう言って穏やかに微笑む。
「キミは、どうやって来たのかな?」
「……いえ、看板が見えて……」
「なんともはや! 正面から来た子とは珍しい!」
そう言って声高らかに、大袈裟に両腕を広げてくる様子はハグの予兆な気がして、慶太は一歩下がる。しかしながら、その人は予想とは裏腹に、そのまま手をストンと落とした。
「やあ、少年。ようこそ『空想博物館』へ。
キミは、何が見えるのかな?」
ニコニコと笑うこの博物館の主であるらしいその人に、慶太は目の前にあるガラスケースを指した。
「この中に、羽の生えた人が……」
「素晴らしい! その子が見える人間はとても希少なのだよ!」
再び両腕を広げるところを見ると、この主は感動すると両腕を広げるクセがあるのかもしれない。慶太はそう思いながら、いつでも逃げられるように足にちからを込めた。いかんせん、知らない人だ。『知らない人にはついて行くな』なんて、小学生でも知っている。
そんな慶太の様子を気にすることも無く、主はつま先を廊下の方に向けた。
「せっかくのお客様だ。解説するよ」
そう言って笑われてしまえば断る上手い言葉が出てこず、慶太は小さく頷いて主から数歩後ろまで行った。
「さぁ、最後まで見て行ってくれたまえ」
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