空想博物館
月野 白蝶
プロローグ 見知らぬ土地で
現実とは、クソゲーだ。
どこかで読んだのか、聞いたのか。よく覚えてはいないその言葉を、時々ふと思い出す。
例えば学校の放課後。
例えば誰もいない家の中。
例えば通学中の駅のホーム。
脈絡なく、唐突に、その言葉は慶太の頭をよぎる。
そのたび、慶太は何となく泣きたくなるのだ。
理由なんて分からない。知らない。知りたいとも思わない。それを直視してしまったら、きっと、自分は自分でなくなってしまう。漠然とした、そんな不安。
現実とは、クソゲーだ。
言いきれるほど生きているわけではない。たかだか十五年程度生きただけで何が分かるのかと笑われればその通りだと頷いてしまう。
でも、
だけど、
そんな自分にも分かることはある。
愛が無くても家庭は成立すること。
夢が無くても生きていけること。
周りに流されれば楽だと言うこと。
上っ面だけの日々が、どれだけ苦しいかと言うこと。
まるで溺れているみたいだ。
息が上手く出来ない。
本当は、自分だけ溺れているんじゃないか。そう思わせるほどの息苦しさ。
本当に、本当に、
どこかに逃げてしまいたい——
夏休みに訪れた祖父の近くにある森の中に、見慣れぬ『空想博物館』とくたびれた看板がかかっている洋館に入ったのは、そういう鬱憤を晴らしたかったからかもしれない。
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