2-4 天使と混浴で煩悩なくす修行って、マジかよ

「お風呂、一緒に入るの!?」

「仕方ないだろ」


 驚くティラに、俺は肩をすくめてみせた。


「この部屋には男湯、女湯なんてないし、一緒に入るしか」

「じ、順番に入るとか……」

「ガス代がもったいない。貧乏だし」

「そんな」

「それにさ、これも煩悩離脱訓練になるじゃないか。コーフンしない訓練。見道ってんだろ、これ」


 コーフンする訓練だけどな、実際は逆にw


「そ、そうかなあ……」

「そうそう。さっ入ろ。ちょうど俺も入りたかったし」

「……なんか急に元気になった」


 疑り深そうに、ティラが目を細めた。


 コマネズミのように飛び跳ねると、俺は風呂に湯を張った。ユニットバス戦闘マシン「HOHO H―FULL」は、住人の煩悩を察知すると、通常の倍の速度でお湯を供給できるのだっ! ――ということはないが、とにかく風呂が沸いた。


「さて、では入ろうか」

「は……はい」

「なにか問題?」

「い、いえ……裸が恥ずかしい」

「昨日見せっこしたじゃないか」


 俺が見ただけだけど。ああ、俺うまい棒も、今朝見せちゃったか。


「それはそうだけど」

「先に入ってるから、後で来いよ。ワンルームだから、ここでしか脱げないし」


 反論の隙を与えず秒速で全裸になると、風呂に飛び込んだ。さっと流してから、湯船に体を沈める。考えた。


 無事混浴には持ち込んだが、問題は、触れないってことだ。またひと晩あの地獄を見せられるだけに決まってる。だから視覚で勝負だな。


 あとは触るんじゃなくて、「仕方なく肌が触れ合う」状況を創り出せばいい。よし俺様天才w


 エッチな行為に及べないのは残念だが、考えてみればそれって「自制」「禁欲」なわけで、実際に成仏の条件を整えることになる。ぐずぐず偽空間に留まると地獄に落ちちゃうんだから、それはそれでいいし。


 ことエッチな展開に関しては、頭がくるくる回る俺であった。


「は、入っていい……です……か」


 外から声がした。


「おう。もちろんだ」


 ドアが空き、ティラがおずおずと入ってきた。大きめのスポーツタオルをうまいこと見つけて、それで体を隠している。小さなバスルームだが、女子の存在感はハンパない。


 自分の部屋にこうして女の子が遊びに来るなんて――実際は殺しに来たも同然なわけだが――とにかく謎感激だ。


「俺はもう済んだからさ、そこで洗いなよ」

「うん。……あの」

「なに」

「目をつぶっててもらえる?」

「……それが楽しいのに」

「なにか言った? 私、上がろうかな」

「今つぶるから」


 俺はまぶたを固くつぶってみせた。もちろん薄目を開けているわけだがw


 当然だが信用してはいないようで、ティラは後ろを向いて体を洗い始めた。タオルに石鹸を塗ってこれでもかと泡立て、それでそっと首を洗い、続いて胸や腹へと移る。


 くそっ。後ろ姿しか見えないじゃんか。


 体を洗うためという口実で鏡を設置しようと、心に決めた。ティラは脚を洗い終わった。背中は手を後ろに回して洗っている。


「背中流してやろうか」

「……なんで背中洗ってるってわかるのかなあ」


 さすがに口調が刺々しい。


「いえ想像です」


 体を隅々まで洗い終わると、ティラはもじもじした。


「あの……湯船に浸かりたいんだけど」

「いいよ。どうぞ」

「直哉くんが入ってるし」

「俺、長風呂でさ。詰めるから入りなよ」


 ティラを怖がらせないよう、タオルを下半身にかけてある。縮こまるように壁にぴったり背中を押し付けて、場所を空けた。


「仕方ないなあ……」


 諦めたのか、ティラは安アパートの狭い浴槽に入ってきた。

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