第32話 決着
「でもどうして二人が此処に?」
私は当然の疑問を口にする。
二人は祠の外で魔物からの猛攻を防いでいる筈だった。
もう既に魔物達を殲滅し終わったなどという事は戦力的に有り得ない。
つまり、2人は外での戦いを放棄して此処に駆け付けた事になる。
「シェキナって騎士が祠から出てきて、お前を助けに行ってくれってよ」
「シェキナが!?」
「ええ、レアって子が予知したみたいよ。このままじゃアリアが魔王に負けるって。だから、私達に助けに行って欲しいって」
レアはには予言の力がある。
その力で私の敗北を予見したのだろう。
どうやら彼女には大きな借りが出来てしまった様だ。
「しっかし魔王の奴、攻めて来ねーな」
魔王は此方を睨みつけままだ。
触手を此方に向けてはいるが動く様子はない。
だがそれは別に不思議でも何でもなかった。
仕留め損ねたとはいえ、私の一撃は致命に近いダメージを与えている。
つまり奴は動きたくとも動けないのだ。
「魔王は暫く真面に動けないはずよ」
「今が攻め時って事か――おっと」
ハイネが一歩前に出ようとすると、その足元に複数の触手が叩きつけられる。
一本一本の動きはそれ程鋭くはないが、如何せん数が多い。
しかも瘴気を纏わり付かせている。
迂闊に踏み込めばただでは済まないだろう。
「簡単にはやらせてくれなさそうだな」
魔王は自身の回復を行なっている筈。
直ぐに回復する事は無いだろうが、だが余り時間をかけるのも不味い。
勝機を得る為には、回復し切る前に私とハイネで一気に攻め立てる必要があるだろう。
「アリア、魔力を送るわ。ま、私の方もそんなに残ってはいないけどね」
アーニュが私の肩に手を置き、呪文を唱える。
置かれた手から彼女の魔力が私に流れ込み、体から感じる脱力感が薄れていく。
私は彼女から分けて貰った魔力を自分の力に変え、神聖魔法で自らのダメージを回復させる。
本当は全て戦う力に変えたかったが、瘴気によるダメージが深刻で、今のままでは多少力が戻っても真面に戦えそうになかった。
「はぁ……これで……限界いっぱいよ」
アーニュの息は荒れ、額から玉のような汗が幾筋も流れ落ちる。
限界まで私に魔力を注いでくれた様だ。
「ありがとう、アーニュ」
「悔しいけど……あたしの魔法じゃ魔王は傷つけられないみたいだから。後は二人に託すわ」
恐らく魔王には、ナーガと同じような不死性が備わっている。
その為通常の攻撃を行なっても、全て瞬時に回復されてしまうだろう。
ダメージを通せるのは、私とハイネの持つ宝剣の力だけだ。
「それとレアって子から伝言よ。聖剣は、魔王を倒す事でその役割を終えるそうよ」
一瞬何の事かと思ったが、その言葉の意味を私は直ぐに理解する。
その伝言は予知というよりも神託に近い。
どうやら神様には、こうなる事まですべてお見通しだった様だ。
「了解よ。後でレアにはお礼を言わないとね」
私はハイネの横に並び、小声で彼女に囮になってくれと頼む。
何としても私は魔王の懐に飛び込まなければならなかった。
だが今の私に大した余力はなく、時間停止も出来て一瞬だけだ。
それではとても魔王の懐には潜り込めない。
だから……ハイネに盾になって貰う。
危険な役回りにも関わらず、「分かった」とハイネは二つ返事でOKを返してくれる。
私の事を信頼してくれているのだろう。
本当に良い友達を持った。
「それじゃ……行くか!」
ハイネが大地を蹴って魔王へと突っ込んだ。
当然、魔王の触手はハイネ目掛けて殺到する。
「だらぁ!」
ハイネが宝剣で飛んでくる触手を薙ぎ払う。
何本かは千切れ吹き飛ぶが、剣筋からそれた数本が彼女の体に突き刺さった。
幸い、急所となる部分には刺さってはいない。
というより彼女がそれを上手く避けたのだ。
「捕まえたぜ!」
そう言うとハイネは剣を捨て、両手で体に刺さっている触手を掴み――綱引きの縄を引くかの様に、勢いよく触手を引っ張る。
「なっ!?」
魔王もその行動は予測していなかったのだろう。
耐える間もなく体が宙を飛び、此方へと孤を描いて飛んでくる。
「最高よ!ハイネ!」
本当にとんでもないほど最高だ。
瘴気を纏った触手を態と体に刺させ、それを楔にして引き寄せるなんて出鱈目。
彼女以外考えもしなければ、実行する事も無かった筈だ。
「魔王!」
「小娘が!」
私は地を蹴り飛び上がる。
魔王は私目掛けてその拳を振るうが、私はそれを左拳で払って右拳をその体へと叩き込んだ。
「はぁっ!!」
私は叩き込んだ拳から、魔王の体内へと力を打ち込む。
発勁という技を知っているだろうか?
現実では兎も角、ゲーム等では相手を内部から破壊すると言う恐ろしい技だったりする。
勿論そんな技、私には使えない。
だが聖剣を使えば――
今打ち込んだのは攻撃の為の力ではなく、魔王が呑み込んだ聖剣を起動させるための力だった。
宝玉を魔王の体内で聖剣の形に変えるだけでも相当なダメージは期待できるが、今送った力は変形の為の物では無い。
聖剣の自爆を促すための物だ。
内部から魔王を破壊する。
「がぁぁ……貴様……」
魔王の体内から強い光が閃光がとなって
やがてその光は断末魔ごと魔王を飲み込み、光の柱となってその全てを消し去った。
私の……私達の勝ちだ。
「あいったぁっ!?」
衝撃で吹き飛ばされた私は、盛大に地面に叩きつけられて転がる。
「いたたた」
体を強く打ち付けて痛むが、骨折などはしていない。
本来ならばこの程度では済まないエネルギーの量だったが、聖剣の光は魔を滅する力であるため、それ以外に対してはほぼ無害だったお陰でこの程度で済んだ。
「ハイネ?大丈夫?」
起き上がって彼女の様子を確認する。
急所でないとはいえ、彼女は瘴気を纏った触手を何本も体に受けたのだ。
そのダメージは決して軽くは無いだろう。
「ああ……平気だぜ。と言いたい所だけど、こりゃかなりきついな」
「直ぐに回復するわ」
時間停止を使わなかったお陰か、体力には多少余裕があった。
応急手当位は出来る。
私はへばって倒れているハイネの元へと向かう。
「アリアっ!危ない!」
その時、背後からアーニュの危険を知らせる声が響く。
その声に反応するよりも早く、私の体に複数の触手が突き刺さる。
それはハイネが切り裂き、魔王の体から分かたれた触手だった。
本体から切り離されていた為、消滅を免れた残りカス。
魔王の最後っ屁ともいうべき一撃……
「ぐっ……うぅ……」
≪ただでは死なん。貴様も道連れだ≫
「しつこい男は……嫌われるわよ……」
私は最後の力を振り絞り、体に刺さった魔王の触手を魔力で消滅させる。
放置すれば、消滅する前にハイネやアーニュ迄殺されかねない。
「ぐ……ぁ……」
膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。
ダメージ的、私はもう助からないだろう。
幸いな事に体の感覚はもうなく、痛みは感じない。
「「アリア!」」
フラフラのハイネとアーニュが、無理をして私の元へとやって来る。
彼女達だって相当きつい筈だろうに。
「しっかりしろ!」
「アーニュ……頑張ってね。王子との事……応援してるから……諦めないで……」
「何言ってるのよ。貴方が第一王妃に納まってくれさえれば……」
最後まであの王子はあんり好きになれなかったけれど、彼女が好きだと言うなら友達として最後まで応援したい。
「ハイネも……ブレックスさんと仲良くしなさいよ……あんな物好き……他に居ないんだから……逃がしちゃ駄目よ」
「わあってるよ……」
もっと色々と話したい事はあったが、残念ながらもうその時間はなさそうだ。
もう彼女達の姿すら見えない。
「さい……ごに……大神官様に……ありが……と……」
言葉を最後まで言い切る事が出来なかった。
だが彼女達なら察してくれるだろう。
ああ……
眠い……
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