第26話 圧倒的強さ

「あそこね」


切り立った断崖の半ばに大きな穴が足ている。

中は洞窟になっており、今そこには巨大なワイバーン達が住み着いていた。


「まだ被害は出ていないが、距離的にいつ近隣の村や街を襲ってもおかしくはない。速やかな対処を期待する」


角刈りの精悍な顔つきをした騎士が、抑揚のない声で説明してくれた。

その表情はしかめっ面で、明かに不機嫌そうだ。

まあそれも仕方が無い事だろう。


「へっ、竜討伐に混ぜて貰えないからって拗ねてんのかよ?」


「ちょっと、ハイネ!ブレックスさんに失礼でしょ!」


彼の名はブレックス・レンゲ。

ガレーン王国の東部にある大国、ギラーム共和国で師団長を務めている人物だ。

共和国内での事であるため本来なら彼が討伐隊を編成し、ワイバーン達を討伐する予定だった。

だがそこにガラハッド王子が交渉の為に訪れた事で、事情は大きく変わる。


私が救世主で有るかどうか見極めるために、共和国の議会はワイバーン退治でその力を示せと言ってきたのだ。

王子も元からそのつもりで私達を連れて来ていた様で、それを二つ返事で快諾した事で今の状況になっている。


「精々君達の戦いぶりを拝見させて貰おう」


此処のワイバーン達はハイネ、アーニュ、そして私の3人で殲滅する。

一応ブレックスさんは5名ほど手勢を連れてきてはいるが、此処へは私達の実力を見定めるためにやって来ているので、戦闘への手出しは無い。


「ええ、お任せください」


因みにハイネがブレックスさんに絡んでいるのは、此処へ向かう道中の態度が気に入らなかったからだった。

彼は始終不機嫌そうな仏頂面をしている為、ハイネの癇に障ってしまったらしい。


まあブレックスさんからすれば、いきなり自分達の仕事を奪われる形になったのだ。

上の決めた事とは言え、面白くはないだろう。

仏頂面なのもしかたがない事だ。


「へっ!俺達の強さを見て腰を抜かすなよ」


「期待している」


ハイネがまた挑発する。

だが彼はそれを特に気にした様子もなく、配下を引き連れこの場を離れていく。

流石に近くで観戦されると邪魔なので、気を効かしてくれた、もしくは巻き込まれるのを避けたのだろう。


まあ何となく後者っぽい気もするが……


「んじゃ、やりますか」


彼らがある程度離れた所で開始する。

作戦としてはまずアーニュが魔法を洞窟内にブチかまし、ワイバーン達を燻り出す。

そして出て来た奴らをハイネが誘導して一纏めにし。

最後は私の魔法一発で全滅させるという物だ。


「ブートデバイス!アガートラーム!」


正直、この程度の相手に変身する必要性は皆無だが、此処へは聖剣の力を知らしめるためにやって来ている。

そのため、可能な限りド派手にワイバーン達を始末し、聖剣の力を同行した彼らに見せつけなければならなかった。


「なあ、何匹かは倒してもいいんだろ?」


「駄目よ」


軽くOKを出すと、彼女なら調子に乗って半分位倒しかねない。

流石にそれは不味いので不殺を徹底して貰う。


「それじゃあ行くわよ」


アーニュは素早く呪文を唱える。

彼女の握るワンドの先端に球形の魔法陣が現れ、バリバリと雷を纏う。


「エフェクト・サンダー!」


放たれた電撃が洞窟内に吸い込まれ、凄まじい閃光と轟音が洞窟内を蹂躙する。

光や音の凄まじさだけを聞いていると、何匹もワイバーンを倒していそうに感じるが、実は彼女の使った魔法は強烈なエフェクトで相手を驚かすだけの魔法でしかなかった。

その為、威力は殆どないの倒してしまう心配はない。


「おらおらおら!雑魚共掛かって来な!」


魔法と同時に駆け。

洞窟からワイバーンが飛び出した所で、ハイネが落ちている岩を拾って投げつけた。

勿論それは只の威嚇で、外れる様に投げてある。

今の彼女の馬鹿力で投げた岩が当たれば、それだけでワイバーンは死んでしまいかねない。


剣を片手でぶんぶん振り回す彼女に気づいたワイバーン達が、一斉に彼女へと群がって行く。

因みに、私達は結界で姿と匂いを遮断しているのでワイバーン達には見えていない。


「へっ!すっとろいんだよ!」


襲い掛かる大量のワイバーンを軽く躱し、ハイネは武器も使わず体術だけでいなす。

既にその数は20を超えているが、彼女は子供をあやすかの様に傷つける事無く意識を自分に向け続けさせる。


「全部できったみたいよ」


アーニュが生体感知の魔法で、全てのワイバーンが出て来た事を告げる。

此処からは私の出番だ。

私は結界を解除する。


「ハイネ!オッケーよ!」


「わかった!」


彼女は攻撃の隙間を素早く抜け、此方へと駆けた。

ワイバーン達は列をなし、その後を追って来る。

良い配置だ。


「ちゃんと躱してよ!」


「任せとけ!」


私は右拳に力を籠める。

力の収束に合わせてガントレットにはまった宝玉が輝き、その光が限界に達した瞬間、私は拳を打ち出した。


「ホーリー!バスター!!」


私の手から放たれた光は、巨大な津波となってワイバーン達を容赦なく飲み込み消し飛ばす。


範囲的にハイネもギリギリ含まれていたが、彼女は素早く横に飛んでちゃんとそれを交わしてくれている。

まあ無理そうなら時間を止めて彼女を救出するつもりだったのだが、どうやら余計な心配だった様だ。

流石ハイネ。


「しっかし……凄い威力ね」


光はワイバーン達を消し飛ばすだけではなく、切り立った断崖を円状に大きく刳り貫くりぬいていた。

住処であった洞窟は最早完全に消滅しており、穴の向こうには青空がハッキリと見えた。


「そう……ね」


自分でもここ迄とは思っていなかったので、驚きを隠せない。


「ははは、危うく死ぬところだったぜ」


走って戻って来たハイネに笑顔で肩を叩かれた。

その瞬間、私の体はよろめき思わず片膝を付いてしまう。


「おいおい大丈夫かよ!?」


「ちょ……ちょっと力を使い過ぎたみたい」


消耗もそうだが、ハイネが馬鹿力で叩いたせいというのも大きい。

出来ればもう少し優しく扱って欲しいものだ。

まあ彼女にそれを期待するのは無理という物だろうが。


「無理せず休んだら?」


アーニュが気遣ってくれるが、そういう訳にも行かなかった。

此処へは圧倒的強さを見せつける為にやって来たのだ。

へばってしゃがみ込む様な、みっともない姿を見せるわけには行かない。

私はゆっくりと深呼吸してから立ち上がった。


「ちょっとふらつくけど、これぐらいなら問題ないわ」


「きつくて休憩したくなったら、いつでも言えよ。俺があいつらをぶっ飛ばしておねんねさせておいてやるからよ」


私は苦笑いする。

普通なら冗談だと思うが、彼女の場合本当に実行してしまいそうで怖い。


「取り敢えず気持ちだけ貰っておくわ」

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