ある街に暮らす家族の強い絆のお話

小鳥遊凛音

ある街に暮らす家族の強い絆のお話

ある街に暮らしていた1人の少年は父親と母親と共に幸せに暮らしていました。

少年の名前は光汰(こうた)、明るく元気な男の子。年の頃8歳。

父親は和馬(かずま)、積極的で明るく家族をしっかりと支える良き柱。

母親は紗子(さえこ)、穏やかで人当たりの良い理想の女性像だと評判。

ただ、紗子は体が弱く、よく体調を崩していました。

けれど、紗子が体調を崩した時は、和馬と光汰で家事などを分担しながらフォローしていました。

絆の深いこの家族に異変が訪れたのは、ある病気が街中に広まりつつあったある年の冬の事でした。




「何だか突然、街で病気が流行して来ているみたいで・・・あなた達も気を付けて!」




近所の50代の女性がその様に和馬に告げました。

どうやら稀を見る病気が蔓延して来ている様子でした。

和馬は心配になり家に帰ると家族で話をするのでした。




「どうやらこの街に今迄ない病気が流行り始めているみたいだ・・・」




いつもとは違った気難しい表情を浮かべて話を出した和馬でありましたが、和馬はある事が心配でした。

紗子と光汰の事でした。

紗子は体が弱く、免疫力もそれ程高くは無いはず。もし、万が一にでも紗子がその病気に掛かってしまえば下手をすると命を失う事にも繋がってしまうだろうと・・・

何より例を見ない病気となると免疫力が強い人間であってもどの様な症状に陥るのか分からない・・・

そして紗子だけでは無く、息子の光汰もまだ幼いながら免疫力に関して言えば大人程高いとは言えない事。

和馬はこの病気が家族に及ぼす影響を懸念しつつこの後どの様に対応して行くべきかを考え続けていました。




病気の一件が囁かれ始めてからおよそ数週間程が経過した頃、外出を控える様な案内が各家庭へ届きました。

それまで平穏で和やかだった街は一変して殺伐とした空気が流れ始めてしまいました。

和馬は家族を守る為に出来る限り無駄に外を出歩かずに会社と自宅の行き来していました。

学校へ通っていた光汰の方も和馬から話を色々と受けて協力する為に学校が終われば直ぐに自宅へ帰って外へ遊びに出掛ける事を自粛していました。

年頃の男の子だから外へ出て遊びたいと言う衝動や友達と遊びに出掛けたい、思いきり遊びたい・・・光汰は自分がもしも、我儘を言って外で友達と一緒に遊んでいる間に自分が病気を貰って来て家で待つ母親に感染させてしまえば危険だからと本当は遊びに行きたい事を抑え込み協力していました。

また、和馬も同様で、会社の付き合い、友人との付き合いもありながら、家族を守る為に極限に趣味などを控えていました。




更に時間が経過した頃、少しずつではありましたが流行りを見せている病気についての詳細が挙がって来る事になりました。




「どうやら、ウイルス性で飛沫感染するそうだ・・・簡単に感染してしまうだろう・・・」


「お父さん?ウイルス?ひまつかんせん?」


「あぁ!ウイルスと言うのは細菌の様な菌に似ているけれど大きさなどが違うんだ!風邪を引くだろう?あれは風邪のウイルスが人の体内に入り込んで悪さをするんだ!それと同じで今回の病気についてもこのウイルスが悪さをしているみたいだ!」


「そうなんだ・・・」


「飛沫感染と言うのは、咳やくしゃみ、こうやってお話をしていても唾が見えない様に飛んでしまっているからそれを吸い込んでしまったり吸収されてしまうとウイルスが体内へ入り込んでしまうんだ!」


「怖いな・・・」


「しばらくはあまり外へ出歩かない様にしないと危ないだろう・・・」


「僕も家に居る事にするよ!」


「そうだな・・・すまないな・・・友達とも遊びに出掛けたいだろうに・・・」


「ううん!お父さんだって本当は今迄みたいにしたいでしょ?・・・それなのに僕だけ我儘言ってちゃいけないと思うから!」


「光汰は偉いわね・・・私も感染しない様に注意するわね?」




和馬は鼻炎などのアレルギーの症状を持っており、年中マスクを着けている事が多く、

仕事で汚れてしまう為、1日の内でマスクを何度か取り替える事もありました。

その為にマスクのストックを少しだけ持ち合わせていました。

飛沫感染の為、外出時はマスクは必須だろうと自分のマスクを家族で使う様にしました。




光汰の通っている学校も病気の蔓延の為にしばらく休校する事となりました。

和馬は依然仕事がハードな為に出勤を余儀なくされ更には食料等の買い出しも紗子に任せる訳には行かず、仕事帰りに近所で買って帰る事にしました。




ある日の夜、仕事帰りに買い物へ向かった和馬は店内で順番に買い物を済ませていた時に間近で話をしていた2人の女性の話の内容にふと耳が向かったのです。




「どうやら、この近所の年配の女性が感染したみたいで2日程前に亡くなったみたい・・・」


「怖いわね・・・最初はそれ程の猛威を振るうなんて思いもしなかったのにね?」




どうやら近隣のエリアで病気に感染して亡くなった年配の女性がいたとの事。

不安になりながらも買い出しを済ませ、最後にマスクが無くなって来たのでマスクを買おうと売り場へ向かったのですが・・・




「売り切れ?・・・そんな・・・マスクが無いとマズイ・・・」




昔は布の洗えるマスクをメインに使っていたのですが、近年の不織布等の使い捨てが出来るタイプだと衛生的で利便性も高い為なのか、和馬も洗濯に出せるマスクを持ち合わせなくなってしまい、使い捨てが出来るタイプを使う様になっていました。

仕方が無くそのままその日は帰宅する事にしました。




「マスクが売り切れ?・・・少しインターネットで調べてみるわね?」




早速帰宅してからマスクについて紗子に調べてもらうと・・・




「どうやら何処も売り切れが続出しているみたい・・・」




原因の一環は突然流行り出した病気の影響とそれがウイルス性によるもの、飛沫感染を起こすからと言う理由で一気に需要が高くなり製造が追いつかなくなったと言う事が挙げられるとの事でした。

ですが、それよりも悪質な原因が潜んでおり・・・




「インターネットのオークションでの転売する人達が大量に買い占めて高額で売買されているのが書かれてあるわ!」




悪質な転売・・・

これにより、ただでさえ需要がピーク以上に上がっていたにも関わらず本当に必要としている人の入手を明らかに阻害しており、国はこの様な転売に対する規制を急遽掛ける事となったのです。




和馬は元々アレルギーでマスクを必要としている人物ではありましたが、予備のマスクも光汰が学校がある時に大分使ってしまった為、残りも無くなってしまいました。




「困ったな・・・マスクが無くなれば感染しやすくなる・・・」


「あなた、私が家にあった材料を使ってマスクを作ってみたの!良ければこれを使って?」


「おっ!・・・これはあり難い!早速明日から・・・」




幸いにも紗子は裁縫等も得意で使い捨てマスクを使っていた和馬のストックが切れそうになっていた事を察して何枚も洗えるタイプのマスクを手作りで作ってくれていました。




「お母さん凄いんだよっ!?パパがマスクのお話をした後、予備が無くなって来ただろうからってこうやって頑張って家族の分を作ってくれていたんだよ!?」


「そうだったのか・・・本当に有難う!大切に使わせてもらうよ!」




そして翌日から紗子に作ってもらった手作りのマスクを着用し会社へ向かった和馬・・・

お昼前に光汰から電話が入りました。




「もしもし?お父さん?大変だよ!お母さん、熱が高くて、うなされているんだ!」


「分かった!直ぐに帰るから!」




慌てて帰宅した和馬は・・・




「紗子っ!大丈夫かい!?」




玄関先から大きな声で紗子を呼んだ和馬・・・




「お父さんっ!!お母さん、ずっとうなされているみたいで・・・」


「よし、少しおでこに手を当ててみて・・・これはっ!?・・・随分と高い熱の様だ・・・救急車を!」




あまりもの高熱だった様子で既にうなされている様に見えても意識が朦朧としていた紗子を急いで救急車で病院へ送ってもらう事にした。




「ご主人ですか?」


「はいっ!紗子は・・・如何ですか!?」




担当医師に確認をした和馬・・・




「色々と検査をさせて頂きましたが、恐らく今回流行りの病気だろうと・・・今の所解熱剤を投与しましたので熱は引いて来ていますが・・・」


「そうですか・・・解熱剤を・・・ありがとう御座いました。紗子は・・・」


「はい、お体の件につきましては掛かり付け医の方からも伺っております。今回の病気は免疫力としては最大限に必要とされる病・・・ここで熱が下がったとしてもこの後が重要です。最悪な事に、まだ完全に対応した特効薬は存在しておりません・・・少しでも紗子さんの病に打ち勝つ気力を高める為にも・・・ご家族の絆を紗子さんにもお与え下さい。」


「はいっ!分かりましたっ!必ず・・・必ず紗子を完治させられる様に家族揃って支えたいと思います。光汰?頑張ろうな?」


「うんっ!!!」




こうして入院生活を余儀なくされてしまった紗子・・・

ICUに当面の間入る事となりました。




「お父さん・・・お母さん、治るよね?」


「あぁ!勿論だ!光汰とお父さんとで助けよう!」




更に家族の絆が深くなりました。

毎日病院へ会えないとは言えども様子を伺いに親子で足を運ぶ。

依然油断を許さない状況下の紗子を心の底から支えたいと・・・

完治して欲しいと親子の強い願いは果たして紗子に届いているのでしょうか?




休日になり、和馬は光汰と共にお参りに行き、病院へ向かいました。




「依然予断を許さない状態です。このままの状態が続いてしまえば紗子さんの方の身が持たないかもしれません・・・」


「そう・・・ですか・・・ですが、まだ諦めません!紗子は必死に闘っているはずです。私たち家族も最後まで諦めずに支えます。そうでないと紗子は・・・誰も・・・」




紗子は身内がいませんでした。

幼少の頃に両親が他界しており、紗子は拾われ子ながら決して幸せだとは思える生活を送って来れませんでした。

やっと家族が出来たと思っていた矢先、暴力を振るわれる毎日に逃げ出して施設に迎え入れられた紗子。施設内でもまたいじめに遭うなどの被害を受け、途方に暮れてしまっていた学生時代。ようやく就職した先でも温厚で人当たりの良い事を利用され虐めを受ける毎日・・・何も欠点が無い誰しも慕う事はあれど疎外される様な人物では無いはずの紗子・・・

そんな紗子に人生で一番幸せだと思える時間が訪れたのは、和馬とふとした切っ掛けで知り合った時からだったのです。




「大変だな・・・このまま行けば約束の時間に間に合わない・・・きっと先方も怒っているだろうな・・・こんな時に限ってトラブルが続く・・・」


「どうしましょう・・・靴が壊れてしまって・・・これから大切な面会があるのに・・・お金も・・・もうほとんど無いのに・・・うっ・・・うぅっ・・・」




2人が初めて出逢ったのは、ある街の公園・・・

互いに仕事上で面会の予定が入っており、両者共に公園近くの小さな喫茶店を目指していたのですが・・・




(おやっ!?・・・あそこに綺麗な女性がいるけど・・・何やら困っているみたいだな・・・時間が無いが困っている人を見捨てる訳にも行かないなっ!)




和馬は仕事を放り出して目先の困っている女性に声を掛けました。




「あの・・・お困りの様子ですが如何されました?」


「はい・・・靴が壊れてしまいました・・・お仕事なのにお金も無いから靴が買えずに・・・」


「ちょっと見せて下さい?・・・なるほど・・・これは誰かにやられましたね!今日靴を公の場で脱がれた経緯は?」


「はい・・・会社の方で着替えている時に履き替えました。」


「では、会社の中に犯人がいますね・・・」


「そうだったのですか!?・・・私・・・虐めに遭っていまして・・・」


「それはいけませんね!会社に報告を!」


「うっ・・・うぅっ・・・」




和馬がその様に言うと涙を浮かべてしまった紗子・・・




「あの・・・お時間は大丈夫なのでしょうか?」




自分の事よりも相手の事を優先する紗子らしい問いかけに和馬は・・・




「大丈夫ですよ!既に遅刻ですので少しくらい大した事ありませんよ!」




この様に答えた和馬ではあったのですが、実は会社の存続が掛かる程の重要な仕事であった為、本当は直ぐにでも先方との面談を果たさなければいけなかったのです。

仕事の器量の良い、人間性にも長けた和馬は人望も厚く、仕事も重要なポジションを預かっていた。だが今回だけはその期待に応えられそうに無かったのです。




「ふふっ♪そうですか・・・私も遅刻してしまいました・・・あなたと同じですね?」




少し笑って見せる紗子。何故か和馬はこの女性が気になってしまいました。

急いで近くにある靴屋を訪れ紗子に合いそうな靴を探しプレゼントしたのです。




「そんなっ!?・・・勿体無いです・・・こんな綺麗な靴を・・・私、お金が無いのに・・・」


「いえ、これはあなたへのプレゼントです!高価な物ではありませんのでお気になさらずに!」




紳士な和馬は万を超える靴を紗子にプレゼントしました。

和馬も馬鹿ではありません。ただ困っている女性に靴をプレゼントする様な事はしません。

何故かこの時和馬は紗子に対して特別な感情を抱いてしまっていたのかも知れません。




「私、この後面会の約束があったのですが・・・携帯の方も持っていなくて・・・」


「会社側から渡されていないと言う事ですか?」


「はい・・・お前は今日、面会に行け!社にとって重要な面会だから遅刻なんてするなよ!・・・と・・・」


「そうだったのですか!?なら急がなければ!?」


「面会時刻は11時でしたので既に30分程・・・」


「電話使って下さい!連絡先の方は?」




そう言って相手先へ連絡を入れようと和馬のスーツの内ポケットから渡した携帯電話から連絡を入れると・・・




♪プーップーップーップーッ・・・




「話中の様です・・・どうしましょう・・・」


「私が掛けてみますね?ちょっと失礼・・・」




話中の音で和馬が改めて掛け直そうとした時でした!




「ぷっ・・・ぷぷぷっ・・・はははははは・・・そう言う事だったのか!」




携帯電話を見詰めると和馬はおかしくなってしまい笑ってしまいました。一体どう言う事なのでしょうか?




「どうされたのでしょうか?私、間違えた使い方を?」


「いえいえ、あなたが遅刻・・・私も遅刻・・・この意味分かりますか?」


「えっ!?・・・あっ!・・・もしかしてっ!?あなたは?」


「えぇ!その通りです!これは物凄い偶然・・・いいえ、奇跡と言えるのでは無いでしょうか?」




偶然?・・・奇跡?・・・そうなのです!お互いの面会相手は、お互いが相手だったのです!

この奇跡的な出逢いが後に1人の大切な息子である光汰を育てて行く家族になるのです。

紗子が働く会社は悪質な事に、紗子の靴に施しを掛け、携帯電話を貸与せずに面会先の相手へ面会へ向かわせ、紗子を困らせ、失敗させようと企んでいた上司達が張り巡らせた罠だったからなのです。ですが、皮肉な事にこの嫌がらせや虐めがあったおかげで紗子は和馬と結婚する事になりました。

紗子がいた会社は紗子を追い出す事を企み、和馬のいる会社では逆に紗子を欲しい人材として目を付けており、実はこの日の面会は紗子側の会社は紗子を失敗に追いやりその事を言い分にし紗子を追い出す計画でした。

ですが、和馬の会社は過去に紗子とやり取りをした経緯があり、非常に高く評価しており、今回、重要な案件を和馬に任せ、指名を与え紗子と面会をする様言い出していたのです。




「良かったです。相手があなたの様な方で・・・」


「私の方こそ、色々とご迷惑をお掛けしてしまいました・・・」




早速仕事を開始する為、一緒に近くの面会予定だった喫茶店へ入った2人は、

今回の仕事を進め、成功に終える事が出来たのです。

勿論紗子側の会社の犯人達は想定外の結界を受け、何が何やら訳が分からず、紗子を問い詰める事も出来ず、混乱しながら次なる嫌がらせを考え始めていたのですが・・・




「初めまして、瀧本(たきもと)と申します。こちらに叶(かなえ)紗子様がいらっしゃるはずですが・・・」




瀧本とは和馬の名字であり、叶は紗子の名字となっていた。

実は面会の時に、仕事の要件と紗子を和馬の会社へ勧誘する話を進めており、紗子は少し躊躇いながらも和馬の会社へ行く事を決意していた。




「社長・・・色々とお世話になりました。ご迷惑しかお掛け出来ませんでしたが、私、嬉しかったです。誰も受け入れてくれないままの私を拾って下さって。この御恩は一生忘れません。それでは、失礼致します。」




紗子はその様に言うと1か月前に提出した退職願いに基づき本日付で退社する事になっていたのでした。




「叶君!何とか社に留まってくれるつもりは・・・?」


「本当に今迄ありがとう御座いました。」




笑顔でこの様に言い社長室を去った紗子・・・

この後しばらくして、会社は経営難で倒産したのでした。

紗子は自身が虐めに遭っていた事を訴えず、ただ和馬のいる会社へ就職先を変えても必死に頑張り、今迄通り笑顔を絶やさない紗子のままでありました。

和馬の推薦もあり、気配り、仕事に対する意欲や真面目さも評価され紗子も役職の地位にまで昇り詰める事が出来たのですが、紗子自身の穏やかな気持ちは引き続き部下達からの信頼、評判も良く紗子の本当にいるべき場所がようやく出来たのでした。




それから数年が過ぎ、和馬と紗子は付き合う様になって、何れは結婚をし、紗子は家事に専念する事になり、周囲の願いもあったのですが、寿退社をする事を決意したのでした。

その後も幸せな日々が続き、遂には1人の大切な息子も授かる事になり、その子の名前を和馬と紗子は、光輝く、光が訪れる様“光汰”と名付ける事になるのです。




こうしてようやく本当の幸せを掴み取る事が出来た紗子だったのですが、

元より体調の方が良く無かった為、時折体の調子を崩してしまい、寝込んでしまう事もしばしば・・・

そして今回の様に病気の蔓延によって危篤な状態に陥ってしまいました。




紗子が入院をしてから約1か月程が経ぎた頃、依然ICUから出られない状態が続いており和馬は担当医師との話し合いに来ていました。




「紗子さんは、よく耐えておられますが、依然油断が許されません。引き続き最善の処置を実行して参りますが、万が一の事を考えていて頂きたいと・・・」


「そうですか・・・もう1月が経ってしまいましたが、紗子は頑張っているのですね?・・・まだ可能性はあると思います・・・先生?一度で良いです・・・一度で良いので話を掛けさせては頂けませんか?息子も心配しているもので・・・万全の対策をとって入室させて頂きますのでどうか・・・」




本来ICUに入る事は許されない現状ではあったのですが、万が一と言う所の・・・最悪の場合を考えた和馬は、光汰と共に少しだけでも直接目の前から声を掛けて少しでも勇気付けたいと担当医に願い出たのです。




「・・・・・・・本来、この様な原因が明確にされていない状況下でお会いさせる事は出来ないのですが、幸い、現在ICUに入っておられる患者さんは紗子さんだけです。この後少しだけなら・・・」




そう医師が伝えると、万全の対策を立てて和馬と光汰はICUで一言だけ紗子に声を掛ける事が出来たのです。




「紗子・・・本当にすまない・・・君はずっと家にいたのに、きっと僕が貰って来てしまったのだろう・・・こうして頑張って闘っている君を見ていると胸が張り裂けそうだよ・・・至らない夫で本当にすまない・・・けれど、もう少し頑張ってくれたら嬉しいよ・・・光汰も紗子の事を応援してくれている・・・僕達家族はこれから先もずっと・・・永遠に家族だよ!君がまたいつもの様な素敵な笑顔で僕達を元気にしてくれる日を僕たちはずっと待ち続けているから・・・君の苦しみも、辛さも全部僕達が受け止めるから・・・僕達も頑張るから!君も・・・こんな馬鹿げた病気なんかに負けないで欲しい・・・きっと君なら笑顔で病気とも・・・あの日、あの会社を辞めた時の様に・・・笑顔でさよならしてくれると信じているから・・・だから・・・」




穏やかにその様に言いながら和馬は、今迄に見せた事が無い涙を流しながら強く伝えました。




「お母さん・・・これからもずっと一緒だよ・・・お母さんが辛い時は僕達が慰める・・・お母さんが苦しんでいる時は僕達が代わりになって動くから・・・お母さんの世界で一番優しい笑顔・・・また、僕達だけに見せて?・・・お願いだよ・・・お母さん・・・」




光汰もまた涙を浮かべながら紗子に伝えました。




ピクッ・・・ピクッ・・・




2人が話終えた時でした。

紗子の両手がピクッピクッと動いたのです!

慌てて近くにいた看護師に伝え、担当医を呼んで来ました。




「う~む・・・なるほど・・・和馬さん、光汰君?これは奇跡かもしれませんね?」




医師がその様に言うと・・・




「どう言う事ですか?紗子は・・・紗子は!?」


「はい・・・ずっと身動きすら難しい状況だったのですが、今少しだけ両腕が動きました。きっとあなた方のお話が聴こえていらっしゃるのかもしませんね・・・」




その後少しだけ様子を伺いながら病室を出る時に




「待ってるから・・・君が帰って来てくれるのを!」


「お母さん、僕達ずっと待ってるから・・・」




こうしてこの日2人は帰ったのでした。




数日後・・・




病院から連絡を受けた和馬は早速病院へと出向き・・・




「いや・・・お忙しい所お呼びしまして・・・実はですね・・・先日お話を掛けた後の紗子さんの様子が変わったじゃないですか・・・あれからしばらく私達も様子を伺っておりました。昨日、検診を行った時にまた両腕が動きまして、実は先程なのですが、無事に目を覚まされたのでご連絡をした次第で・・・」


「ほっ!?本当ですか!?紗子が・・・目を・・・覚ました・・・」


「いやぁ・・・本当にあなた方ご家族の強い絆を垣間見た気が致しました。我々もかなりシビアに考えておりましたが、目を覚まされてから検査も行わせて頂きましたが、良好の様です!早速明日には一般病棟へ移動出来ると踏んでおります。」


「あぁぁぁ・・・先生、本当に・・・本当にありがとう御座います。良かった・・・本当に・・・本当に良かった・・・」




涙を流しながら和馬は心の底から喜んだ。

この事を光汰にも早く伝えないとと思い急いで帰宅したのです。




「お母さんが!?・・・やったぁぁぁぁぁ!!!!!良かったよ・・・良かったよ~・・・お母さん・・・頑張ったね・・・」


「あぁ・・・お母さんは頑張ったんだ!・・・僕達はお母さんが退院したら一緒に喜んであげないといけないな?」


「うんっ!!」




一般病棟へ移ってから1週間程が経過した頃、一般病棟へ移ってからも毎日病院を訪れていた和馬、光汰は少し疲れが見え始めていた為、自宅でゆっくりと休息をとる様にさせていた。




「紗子・・・本当に顔色も良くなって来たね・・・よく頑張ってくれたよ・・・」


「色々と心配を掛けてしまったわ・・・ごめんなさい・・・でも・・・ある時夢の中で2人が私に勇気をくれた気がしたの・・・それで私、早く戻らなきゃって思って・・・」




どうやら紗子にはきちんと伝わっていたみたいでした。

和馬は何も言わずに紗子の話す言葉を受け止めながら安堵の笑みを浮かべました。




「待ってるからね!いつでも戻っておいで!」




退院3日前の出来事でした。




紗子が退院の日・・・




「いやぁ、よくぞここ迄回復されました!我々も本当に安心致しました。これからもその家族の強い絆を大切になさって下さい。」


「先生、本当に重ね重ねありがとう御座いました。仰る通り、私達は強い家族の絆でこれからもお互いに大切にし合って生きて行きたいと思います。」


「先生!ありがとう!お母さんを元気にさせてくれて!」




その様に和馬と光汰が言うと担当医師が・・・




「それはね?光汰君。光汰君とお父さんがお母さんを救ってくれたんだよ?先生達は何もしていないよ!君達の強い想い、願いがお母さんに伝わって、お母さんが頑張ろうって病気を退治したんだ!これは嘘でも何でもなく、真実を言っているんだ!だからこれからも光汰君はお父さんやお母さんを大切にして下さい。」




命の大切さ、尊さを考える事の出来る和馬と光汰はきっとこれから先も家族揃って互いを大切にし、守り続ける事が出来る事でしょう。

そして、その家族に元気を与え、和馬と光汰と同様優しい心を持った紗子がいればこの一家はきっとこの先ずっと幸せな家庭で在る事が出来るだろうと・・・




















終わり

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