第0.09ー08話 闘戟=完了(トウゲキ=カンリョウ)

 トドメを刺そうとした時、敵は思い通りにならない腕を使い苦し紛れの反撃をしてきた。さっきまでのスピードと鋭さはその面影も無い。

 普通の人間なら肩から先は感覚が無くて使い物にならないだろう。

 パンチを繰り出せるだけ魔族堕ちザ・フォールンは頑丈って事か。


 (往生際の悪い事で。仕方ねぇ……なぁ。)


 敵のなまくらな拳を軽くかわし、肘でいなしながら攻撃の内側に入る。

 と同時に腕を伸ばし、敵の腕を絡め取り関節を決め躊躇なく折った。

 軋むような音を立て、あっけなく骨が砕ける。

 唸り声とも嗚咽ともつかぬくぐもった声が漏れる。


 動揺からか、もう一方の腕でフックを放つ敵。こちらも素人レベルの攻撃だ。

 肘を使うまでもない。俺はその拳をかわしざまに手首を掴み引き寄せながら捻り、そのまま氣を込めて握り……砕いた。

 液体金属の塊にも似たあのイヤな硬さは今はもう過去の物だった。

 

 「グギャァぁぁぁぁああああ! 

 や、やめ、ヤメ、やめろぉ……。

 もうやめてクレぇぇぇ……。

 ゆる、ユル……、許してくれぇぁぁぁぁ。」


 「残念だが、そーは行かねぇ。

 俺が許しても、テメーが喰った人は許さねーだろーよ。

 俺はただ、その悪意を終わせるだけだ。

 魔族に堕ちニンゲンを辞めた事、後悔して逝け。」


 言うと同時に、数日前まで人間だった物がデタラメに両腕を振り回し向かって来る。魔族堕ちにそんな物があるかどうかは不明だが、全く以て冷静さを欠いた動きだ。この程度なら天狼派古流を使うまでもないが相手は人間じゃない。

 最後まで気は抜かない方がいいだろう。


(闘いに於いて冷静さを忘れる事は敗北、即ち死を意味するんだがなぁ。)


 向かってくる敵に対し、こちらも素早く距離を詰める。

 相手の腕は壊れてるせいか俺の腹部を狙う事しかできない。

 当然の様にかわすと同時に肘を支点に巻き込み波動を込めて関節を決め、動きを制する。準備完了だ。


 (こいつで終わりだ!)


 たいの動きを停められた敵は、正中線がガラ空きだ。

 目一杯に波動を乗せた肘を明星に深く突き立てる。

 これは八極拳の裡門頂肘りもんちょうちゅうに似ているが、天狼派古流に伝わる技の一つだ。

 肘を通して波動が敵の体内に深く伝わっていくのがわかる。


 「グっ……げ、ゲェェェ……。」


 苦悶の声を上げ崩れ落ちる。

 だが、この技には波動がイヤってぐらいに込めてある。本当の痛みを味わうのはココからだ。果たして、敵の身体を激しい痙攣が襲った。同時に目・耳・鼻そして口から大量の血を流し、完全にその動きを停めた……。



――【闘戟=完了】――



 ≪天狼ノ技ヲ継グ者ヨ……。

 見事デアッタ。

 後ハ、コノ天狼ニ任セルガヨイ。

 我ガ力ニヨリ、完全ニ滅シテクレル。≫


 言下に、魔族堕ちの身体が青白い炎で包まれる。

 燃え上がる……と言うよりは、細かく散って行く感じだった。

 不謹慎かもしれないが、キレイだと思った。

 その柔らかな光が俺の【狩り】の終わりを告げていた……。




※BGM「Crimson Glory」/Crimson Glory

 

 

 

 

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【魔狩り】の≪間借り≫ハンティング・デイズ! 月光狼 @ MoonLightWolf @Gekkokurou

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