第4話 視察官

「今日は来訪者がくる。」

「来訪者?。」


俺は植物の枝木を切る手伝いの作業しながら返事をする。


「アースエジュケイション(地球教育機関)だ。」


アースエジュケイションという言葉に俺は嫌そうに顔をしかめる。


「嫌そうだな。」

「ああ····。」


正直言ってアースエジュケイションという組織はあまり良い印象が持っていない。若者達の教育、育成、担う組織と聞いてはいるが。俺みたいなはみ出し者の不良に対してあの態度だから。アースエジュケイションはかなり素行悪さや態度で判断するようだ。世間的にその対応が当たり前なのだろうが。教育者としてはどうなのだろう。若者を導くと掲げているのだから献身的に素行が悪くても更正させようという意志はないのだろうか。いや寧ろ異星人の親教者に教育を全て任せて投げ槍な部分がある。全て異星人の教育任せにしている節がある。教育の組織としてそれはどうなのだろうと疑問を感じるが。俺のような不良が言えた義理でもないだろう。


「アースエジュケイションの視察官がくる。大翔の惑星生活態度を視察するためだ。」

「生活態度ですか····。」


一応ネテリークの宇宙冒険者の知識を得るために真面目に薬草摘みや糞拾いなどを進んでしている。進んで手伝いをしているのだから生活態度は問題ないはずだ。動機はどうであれ。


「安心しろ。今のままで作業していれば問題ない筈だ。もしアースエジュケイションの奴らが何か言ってきたら私がガツンと言ってやろう」

「いや、それは勘弁してくれ。」


アースエジュケイションと事を起こせば、宇宙冒険者として宇宙に旅立つプランもおじゃんになりかねない。今は問題起こさないようになりをひそめなくてはならないのだ。我慢ならできるスリルの為ならば。




      発着広場


俺とムム、ネテリークは宇宙船の着陸地点である森の開けた場所にきている。


ぶおおおお

上空から機械音が鳴り響く。

空に金属製の船体が無数噴射口から波動のように放たれ。その影響で周囲の草花が風で煽られ。木々もなぎ倒される。


「アースエジュケイションめ。あれほどエリクシル光石を燃料とした宇宙船を使うなといったのに。!」


ネテリークはせっかく手入れして育てた植物が風で煽られながらなぎ倒され傷つけられる光景を目にして。激怒の表情でかなりの御冠であった。

エリクシル光石を燃料にした宇宙船よりも無限エネルギー回路メビウスを動力源にした宇宙船の方が噴射する波動や音、風を巻きおこ起こす威力も最小限にすむのだ。微力、無音、微風と無限エネルギー回路メビウスは静かな航行を可能とするのだ。


ぶおおおお ドシ

アースエジュケイションの中型宇宙船の船体が無造作に地面を強く打ち付けるように降り立つ。

ネテリークはそれを不快に眉がつり上がる。

ぶぅうう

中型の船体の側面のハッチからアースエジュケイションと思われる制服をきたインテリ眼鏡をかけた嫌みたらしい男が現れる。その隣には同じ制服を着用した誠実そうな若い付き人も現れる。

インテリ眼鏡をかけた嫌みたらし顔をした男は惑星の植物が生い茂る森林の光景を一瞥すると腕を組み。すましたように親指と人差しの指を擦り付ける。どうやらあの嫌みたらしい男の癖らしい。


「ふむ、本当にこの惑星は植物しかないのですね。」

「はい、荒れ地であった未間惑星を。ここの惑星人(ネヴィト)ネテリーク・カルミナスが趣味てあるガーデニングを兼ねて買い取り。この地を植物が生える惑星にまでしたそうです。」


制服着た生真面目そうな付き人の青年は手持ちの資料を読み上げる。


「惑星を買う?。そのようなこと一般の惑星の異星人(ネヴィト)の財力持つ金持ちでさえも不可能な筈です。」

「はい、何でもネテリーク・カルナミスというこの惑星のネヴィトは元は名のある宇宙冒険者のようで。宇宙冒険者の頃活躍した資金を使ってこの惑星を買い上げたそうです。」

「宇宙冒険者?。」


制服を着たインテリ眼鏡の嫌みたらしい顔で不快に眉を寄せる。


「ふん、宇宙冒険者など宇宙のならず者でしかないでしょう。そんなものが金持ちとは何ともよの末ふざけた話です。」


インテリ眼鏡の男は不機嫌に鼻息をならす。

ふざけているのは自分の顔だけにして欲しいんだが。それを本人の前で悪口や悪態つくなんざ普通の社会人でもしねぇぞ。無礼を通り越して最悪なその視察官と思われるインテリ男に俺は鋭い瞳でガンを飛ばし睨み付ける。本人はさも気にしない様子というよりは空気を読めないタイプであり。こういう奴は殴って黙らせるしか方法がない。

俺は不快な気持ちをぐっと堪える。

インテリ眼鏡の男と生真面目そうな青年はネテリークの前にたつ。


「こちらアースエジュケイション(地球教育機関)の視察官を務めておりますザーク・D・バミラス。私は助手のクライ・ジム・アシュネイと申します。」

「私はこの惑星の住人ネテリーク・カルミナスだ。この子は同居人コジョ族のムムだ。」

「キィ~。」


ムムは長い白い胴体をピンと背筋を伸ばし。小さな白い獣耳をぴくぴくさせニッコリ微笑む。


「ふん····。」


ザーク・D・バミラスというアースエジュケイションの視察官はさも興味無さげにムムを無視する。


「観察対象、小田切大翔の生活経過を確認しに来ました。」

「素行の悪い不良の面倒をみることになってさも苦労しているでしょうに。」


ザークはネテリークに対しさて嫌みに似た笑みを浮かべる。

どうやらこのザークという視察官は俺がネテリークに迷惑を懸けていると決め付けているようだ。

ネテリークはそんなザークの態度に茂もせず普通に坦々とこたえる。


「問題ない。真面目に私の仕事を手伝っている。文句何ひとつ言っていない。アースエジュケイションの視察官、素行が悪いだけで人格を判断するな。宇宙冒険者にも素行が悪い奴などごまんといる。それでも銀河で名を上げ活躍したものもいるし。私のように惑星を買えるほどの財力を持った宇宙冒険者などいくらでもいる。ただ私は趣味も兼ねているだけで、殆どの場合は惑星を買うという物好きはいないがなあ。」


ネテリークの言動は静かだったが。その内に秘めるものが熱く滾る程の怒気を秘めていた。


「ふん、隠していても無駄です。私達は不良少年の惑星の生活態度を視察しにきたのです。ボロなどすぐに出ますよ。人間なんてそう変わるもんじゃないんですから。不良は最後まで不良なんですよ。素行悪いものは死ななきゃ治らないですよ。」


ザークという視察官はニヤリと嫌味な笑みを浮かべ悟ったように何度も頷く。

あんたそれ組織存在そのものを否定しているぞ。俺は心の中でそう突っ込む。

そもそも異星文化更正教育プログラムも環境変われば人も変わるという方針で行っていたんじゃないのか?。アースエジュケイションの視察官であるザークはその組織の方向性さえも否定していた。


「ならば思う存分観察すればよかろう。問題あるかどうかなど観れば直ぐに解ることだ。」


ネテリークは言動の語気が強くなり。様子からして相当怒っていた。


「ではそう致しましょう。」


ザークというアースエジュケイションの視察官は嫌味に交じりな冷たい笑みを浮かべる。


パキ ポキ


俺は親教育者であるネテリークと一緒に雑草····ではなく薬草を摘んでいる。コジョ族のムムも小さな手のひらでぶちぶちと茎をもいでいく。今日の摘む薬草はスギナという薬草でこれも地球原産の薬草である。あのつくしんぼの親にあたる。効果効能はガン、肺結核、糖尿病、慢性気管支炎、腎臓炎、結石、カリエス、胆のう炎、リウマチ、関節炎、神経痛など難病に効くとされる薬草である。何でも肺結核を患った人がこのスギナを煎じたお茶を使って自力で治したという逸話があるくらいだ。て言うかこの雑じゃなくスギナという薬草学校の裏手によく生えていた雑草じゃねえか。子供の頃、雑草とりやらされた時もこのスギナという雑草じゃなく薬草を鬱陶しげに取っていた記憶がある。


ぶちぶち

俺はスギナの茎をもぎとり袋に積める。


「何をしておるのだ?。」


視察官のザークは視察対象の草を摘む光景に眉を寄せる。


「はい、ここの親教育者であるネテリーク・カルナミスの趣味である薬草摘みを手伝っていると思われます。」


視察菅の付き人クライが資料を読み説明する。


「ふむ、つまらないですね·····。」


視察菅ザークの嫌みたらしい顔が不快にしかめる。

確かにつまらないけどあんたら視察官が言うべきことじゃないだろうに。

視察官は俺が問題を起こさないことに不満を感じているようだ。

ああいう奴らは無視するに越したことはない。


ザッザッ


次にマヌルワームの糞をスコップですくい。荷車に積める。

視察菅のザークと付き人のクライは鼻をつまみながら俺が作業する姿を観察する。

視察菅ザークの嫌みたらしい顔が不快にしかめる。

確かにつまらないけどあんたら視察官が言うべきことじゃないだろうに。

視察官は俺が問題を起こさないことに不満を感じているようだ。

ああいう奴らは無視するに越したことはない。


ザッザッ


次にマヌルワームの糞をスコップですくい。荷車に積める。

視察菅のザークと付き人のクライは鼻をつまみながら俺が作業する姿を観察する。


「何をしているのです?。それにしても臭い。」

「はい、どうやらマヌルワームと言う生物の糞を拾っているようです。マヌルワームの糞は上等の肥料になりますし。高値で売買もされています。」

「ほう~それはいいです。」


視察菅ザークの嫌みたらしい口がニヤリと薄ら笑いを浮かべる。


「貴方達のような不良は糞拾いがお似合いですよ。社会の塵、正に糞そのものですから。素行の悪い不良は糞拾いは相応しい。」


視察官のザーク何度も俺に対して糞だの不良だの罵倒を繰り返す。

冷やかすのか視察するのかどっちかにしろや。だんだん俺も向かっ腹が立ち。腹立たしくなってきた。


みゅ~!!

バシッ

マヌルワームの一匹が尾が糞の落ちた地面を強く打ち付ける。

地面に落ちていた糞が弾け飛び。視察菅達の元へとかかる。

びちゃ びちゃ


「ぺっぺっ、何ですかこれは!?。」



視察菅達の制服は糞まみれになっていた。

みゅ~~

尾をふったマヌルワームはしてやったりなドヤ顔を決める。

ナイスだ。マヌルワーム。今度美味しい土をご馳走してやろう!。

俺の惑星生活態度を一通り視察したアースエジュケイションの視察官はまだ制服からマヌルワームの糞の残り香を醸し出していた。


「どうやら小田切大翔の生活態度に問題ないようですね。」


付き人のクライは資料に目を通し。大翔の生活経過を伝える。


「ふん、ボロが出ていないだけですよ。不良の中には上っ面を巧妙に隠すものもいますから。真面目なふりして油断したところを本性さらけ出す。不良というものはそういうものです。だからこそ社会不適合者と呼ばれているのですよ。社会にそぐわない社会に相反する存在として。」


ザークの嫌みな顔が醜悪な笑みを浮かべる。

正論と言っているようだが。本性を巧妙に隠す不良なんざそんなにいないがなあ。寧ろ素をさらけ出し我を通す輩の方が多かった。強者の中にそういったタイプが多くいた。大翔はとある喧嘩が馬鹿強く。関東関西を納めた暴走族の族長のことを思い出す。彼は既に引退しており。次の代に早々に引き継がせて何処かに去っていってしまった。今ごろどうしているのだろう?。あっち方面からスカウトも来ていたようだし。もしかしたら裏社会のボスにまで上り詰めているかもなあ。そんなことを大翔は思い浮かべる。


「いい加減にしろ!。アースエジュケイションの視察官!。聞いておれば罵倒や悪口ばかりではないか!。真面目に生活態度を視察にきたのではないのか!。冷やかしなら帰れ!。」


沈黙を保っていたネテリークも堪忍袋の尾が切れたようで。普段は毅然で冷静な態度とは裏腹に眉間紫波を寄せて激怒していた。


「なっ、この私に向かって。その態度は何なんですか!?。」


視察官のザークは激怒したネテリークに狼狽する。

「若者の教育、育成を担う組織とうたいながら何だその対応は!。お前達こそ分を弁えろ!。小田切大翔は真面目に私の仕事を手伝っているではないか。それをお前達はただ彼の行為に不満と悪口をぶつけているだけではないか!。お前達こそ教育者として恥を知れ!。」

「くっ、言わせておけば····。私は学園首席で卒業したのですよ。規律規則もきっちり守ってきたいわばエリート。優等生なのです。そこの不良のはみ出し者とは訳が違うのです!。」

「知るか!。ここはアレイストア銀河では経歴とか学歴とは意味をなさない。全て実績に評価されるのだ。お前達の道理はこの銀河では通用しないのだ。用がすんだらさっさと帰れ!。」


ザークの嫌みたらしいの顔が苦渋に歪む。


「くっ、この屈辱絶対忘れません!。貴女の言葉は侮辱罪にあたります。アースエジュケイションの査問教育委員会に貴女の行為を告発致します。」

「勝手にすればいい!。言っとくがアレイストア銀河にはお前達の法は通用しない。この銀河はどんな人種、どんな性格、どんな組織、団体にも全てに平等にチャンスを与えてくれる銀河だ。何故ならこの銀河は無政府だからなあ。だから色んな惑星人(ネヴィト)が集まり。色んな文化、文明、産業を築いてきたのだ。部外者の法に裁かれる言われようもない。」


ネテリークは毅然な態度で言い返す。

知らなかった。アレイストア銀河は無政府なのか?。確かにこの銀河を実質支配していたという古代人パピノアは忽然と姿を消したと聞いたけど。だから他の惑星人(ネヴィト)が集まり6つもある銀河に独自の文化、文明を築いたと言うことなのだろうか?。


「く、この法の定まらぬ銀河の無法者どもめ!。今に見ていなさい!。」



視察官のザークは悔しげに唇を噛み。宇宙船にそそくさと乗り込む。

金属の船体の底面から噴射口が放たれ宙に浮く。木々が噴射する風の勢いであおられる。


ドオオオオオーーーー!!


耳に轟音のような音が響き。宇宙船は空へと飛びたち船体は一瞬にして消えていった。

ああ~あれは完全に目をつけられたなあ~。


宇宙に密かに旅立つ計画がさい先暗雲を立ち込める。


「ネテリーク、いいのか。あんなことを言って。アースエジュケイションが何か言ってきたらどうする?。」

「あれは小物だ。実際の指揮するものがあれなら組織など直ぐにでも潰れる。それよりもムム塩まいておけ!。」

「キィ~。」


ムムは何処からか塩の入った袋を取り出し塩をまきはじめた。

ここにも塩まく風習あるのかよ。

俺は微妙な顔を浮かべる。


「さて気分を害したから今日はご馳走にしよう!。」


ネテリークは笑顔に言う。


「ご馳走って?。」

「ああ、いつもの山菜の盛り合わせだ。」

「やっぱり····。」


俺はいつも通り落胆する。

はあ~肉食いてえ~。

俺はこれからの旅立ちの障害と肉が食えないという欲求に遠目しながら空を見上げた。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


宇宙の旅立ちの障害となるアースエジュケイションの視察官が去り。ネテリークのコネである宇宙冒険者の手伝いを始める。


次回 社会不適合者の宇宙生活


第5話 『助手』


不良少年は荒波の海に飛び込む······


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