夏祭り1

俺の住んでいる街は大きな花火大会が行われる会場が近い。


地域の夏祭りもそこそこ大きいが、大半の人達にとって夏祭りはそっちの大きい方をイメージするだろう。

ただ、俺達は違った。


「人混みで迷ったりするのは危ないですから、大きい方ではなく」

「うん、分かった」


というやり取りを夏休み前にしているので、再度確認の為に優衣にメッセージを送ると地域の夏祭りの方へ行くことになった。

それと夏祭りの後は俺の家の庭でちょっと花火をしないかと誘うとOKを貰えた。


俺は内心ガッツポーズをしながら、準備を進めていく。


そこそこ規模の大きい地域の夏祭りだが、毎年なんとなく参加しているので何をするか分かっている。

大きな神社を中心に行うので神事で巫女さん達が毎年踊ってもいる。


「巫女服か」


難しいだろうけれど、安いヤツなら手に入るかな? とか考えながら俺は今日の夏休みの宿題を終わらせる。


「良し、何とか終わった。これなら、夏祭りが終わった翌日には終わるな」


宿題は余裕を持って終わらせられる。既にそこまで終わっていた。

優衣の方も、課題はもうほとんど終わっていると言っていた。


このまま何事もなく、夏休みが終わるだろう。と俺は思っていたのだが。


「ん?」


片づけをして、何か軽く食べようかと思ったら、俺のスマホにメッセージが来た。

誰だ? と思って確認すると。


「七海か」


メッセージを送ってきたのは、七海だった。

少し気まずいが、何かあったのかと思ってメッセージを確認すると。


「……はい?」


七海のメッセージの内容は夏休みの宿題が終わらないから助けてくれと言う内容だった。


――何事?

――部活に集中していたら、課題が全然終わってなくて

――なぜ、俺に? 他の連中に頼んだ方がいいんじゃないか?


七海の仲が良いグループは、頭のいいやつも多い。


――みんな、今は都合が悪くて。アタシ一人じゃ終わらないの、助けて


小学生の頃の自分を見ているようだ。

ふと昔のことをもいだして、憂鬱になったので、直ぐに頭を切り替える。


――正直に言うと、俺は今七海と会うのが気まずい。

――あたしは平気! と言うか本当に余裕がない!


コイツ……。女子じゃなかったら、横っ面引っぱたいているな。


――俺はそこまで頭がいいわけじゃないぞ?

――あたしよりは、遥かに頭いいから大丈夫!

――分かった。で、いつ来る?

――今から!


「はぁ……、まったく。これだから陽キャは」


俺は今日の予定を白紙にして、七海を手伝ってやることにした。


――貸し一つだからな。

――ありがとう!



こうして、急遽七海が俺の家に来ることになった。





少し、話し合い七海は午後に俺の家に来ることになった。

場所も大体わかっているので、近くに来たら俺が迎えに行く事になった。



「久しぶり」

「う、うん、久しぶり」


家の近くのコンビニの店内で待っていた七海は、普段のイメージとは違い、清楚なイメージの私服だった。

白系の上着とちょっと長めの青いスカート。


「うん、似合っているな」

「えっ、いきなり何?!」

「うるさい、急に声を出すな」

「ご、ごめん。って、そっちが変なことを言うからでしょう?」


慌てた様子の七海を見て、下手なことを言うとヒートアップしそうなので、そこで言うのをやめた。


兎に角、七海を連れて俺は家に戻って、自室へと案内する。


「じゃあ、飲み物取ってくるから、準備しててくれ」

「わ、分かった」


飲み物をトレーに乗せて部屋に戻ると、しっかりと宿題をテーブルに置いて、何故か俺のベットの下を覗き込んでいる七海の姿が。


「準備したなら、素直に座って待ってろよ」

「イタァッ!」


少し強めに七海の尻に蹴りを入れると、七海が慌てて此方を振り返った。


「け、蹴ることないじゃん」

「両手がふさがっていてな。手で尻を叩かれた方が良かったか?」

「ぐ、それはその……」

「頼む、そこはハッキリと嫌がってくれ」


微妙な表情をされると、こっちも動揺するからさ。


「ま、兎に角やるぞ」

「うん、分かっているよ」


俺は場の空気を換えるために少し大きめにそう言って、強引に七海の意識を夏休みの宿題へ切り替えさせた。

それから、七海が詰まっていた夏休みの宿題は思ったよりもスムーズに終わった。


「他には?」

「これも」

「分かった」


一応、夏休みの宿題の総数はそこまで多くは無い。

サボっているとはいえ、七海も完全にやっていなかったわけではなく、仲良しグループとそこそこ宿題を消化していたらしい。


「ありがとう、このまま夏休みの課題が終わらなかったらどうしようかと思ったよ」

「そりゃよかったな」


かなり集中して、夏休みの宿題に取り込んだ結果、後は七海一人でも十分なところまで終えることが出来た。


時間は夕方、そろそろ帰った方が七海の親も心配するだろうし。と考えてえいる時にテーブルの迎え側に座っていた七海がこっちにすーっと自然に近づいてきた。


「どうした?」

「その、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「うん」


あ、ちょっと変な空気になりかけてる?


「あたしって、本当に可愛い?」

「ん、優衣と付き合ってなかったら、多分今年の夏は七海と行動することが多かったと思うくらいには可愛いと思うぞ」

「……そっか」

「でも、仮に付き合えたとしても、七海に振られたと思うけどな」

「な、なんで?」

「いや、俺の趣味性癖」


俺がそう言うと「あっ」という顔になった。


「清水さんが言っていたけれど、本当にすごいの?」

「ま、大げさではないと思うな」

「そ、そう。ぐ、具体的にどんな感じ?」

「えー」

「いや、その参考までに今後、いろんな男の人と出会うから」

「はぁ、別に相手の趣味に合わせる必要ないと思うぞ」

「わ、分かっているわ。けど、知らないことは知っておいた方が、マシって言うか、対応策が作りやすいというか」


俺は七海の言葉に大分迷ったけれど、穏当なモノを見せることにした。

3Dのアニメーションとか、ゲームとかだな。


結果だけ言えば、アニメーションは普通に凄いと思う。と顔を真っ赤にしながら感想を言っていたし、ゲームについてはちょっと怯えていた。

ガッツリとダーク系だったしな。


「優衣も理解しているけれど、俺どちらかと言えばクズ人間だぞ」

「そ、そうなんだ」

「ああ、優衣と出会ってなかったら、多分七海とそういう関係になったとしたら、今頃七海は部活を辞めていたかもしれない」

「……そっか」

「踏ん切り、ついたか?」

「うん、ありがとうね。話聞かせてくれて」

「気にすんな。色々アドバイスしたんだ。俺みたいな変な男に引っ掛からないように「睦月」なんだ?」


俺の言葉を途中で遮って、七海は俺の顔をじっと見つめながらこう言ってきた。


「本当にクズなら、こういうことを隠したままにすると思う。後、彼女のことも」

「いや、彼女のことについては隠していたけど?」

「あたしが気になるって言うまででしょう? それに、睦月ってやっぱり優しいと思う」


そうか? と思いながら、七海の感覚だと俺は優しい奴なのだろう。

エロゲーなら、優衣と七海、ついで、もう一度言う。ついでに小夜も狙ったかもしれないが。


「だからね、改めて伝えるね」


真剣な表情の七海に、俺は一瞬怯んでしまった。

怯んでなくても、七海は自分の気持ちを伝えていただろうし。伝えられなかったとしても関係なかっただろう。


「あたし、やっぱり睦月が好きだわ」

「……そうか」

「うん」

「変態だぞ」

「うん、いいよ」

「その、アニメーションみたいに冗談抜きでデカイぞ」

「それは怖いけれど、頑張る」

「いや、そこは逃げてくれよ。まあ、どの道、俺は優衣一筋だら」

「うん、来年は睦月の彼女はアタシだから問題ない!」


ちょっとー! え、なんでそこで少し気合を入れるの?! 間違ってない?!


「……七海」

「なにかな?」

「本気で言っている?」

「うん、何なら、セフレってやつでもいいよ?」

「とても魅力的だけれど、止めておくよ」


優衣を裏切りたくないしな。


「てか、セフレの意味わかってる?」

「うん、エッチだけする関係だよね?」

「その辺の知識はあるのか」

「一応、女の子ですからね」


エッヘンと胸を張る七海。ああ、良い乳だなぁ。理性を総動員して視線をはじめから胸に向けないように我慢する。


「分かった。七海の気持ちだけは分かった」

「うん、ありがと。今はそれだけで十分だから」

「こえなぁ」

「ふふ、覚悟してね。あ、それと睦月と清水さんの二人が付き合っていることは言わないから」

「それはありがとう、あまり目立つと冷やかしが怖くてな」

「あー、それはちょっと、分かる。あたしも胸関連で冷やかしながらいくらでもあったからね」


それからは普通の穏やかな会話に繋がった。

そして、しばらくして、七海は帰ることになったのだが。


「あ、そうだ最後に」

「なんだ?」


自室から玄関まで送っていくと、玄関の前で何か思い出したかのように七海が俺の方を振り返って、


「えいっ!!」

「おわっ」


七海が突然ぎゅーっと、俺を抱きしめてきた。

しかも顔面が胸の谷間に入るような形だった。


「あははは、まさかここまで綺麗に谷間に入るなんて、大きいとこういう時意外と便利だね」

「はぁ~、いきなり何する」

「いやぁ、その清水さんと話していた時に睦月がおっぱいが大好きだって聞いたから、色仕掛けを」


何を教えているんだよ、優衣。

俺の弱点教えるなよ。


「そういうこと、いきなりやんなよ。理性が切れて押し倒されるぞ」

「ま、それなら既成事実ってことで」


「もういい、とっと帰れ」


「あ、怒っちゃった?」

「怒ってない。次やったら襲うからな」

「そ、それはそれで……アリ?」

「ナシだ!」


七海はごめんごめんと謝ったが、最後に「ごめんね、まだ、諦めないから」と言って家に帰った。


「諦めない、ね」


俺はその言葉に、結構翻弄されていた。

可愛い女の子から、自分を好きだと言われて、アプローチまでかけられたらそりゃあ、クラっと来るさ。


「はぁ、優衣に連絡を入れておこう」


うん、こういうことは早めに教えておく方がいい。下手な誤解に繋がるからな。


俺はスマホを取り出しながら、時間を確認して、どういう風に優衣に報告するべきか頭を悩ませた。


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