私と、あなたの中の「私」

 クローンという題材を元に、クオリアや哲学的ゾンビの問題が絡められているように感じた。
 この手のテーマはホラーテイストに描かれることも多いように思うが、この作品は会話という形でクローンと非クローンの視点・主観を行き来することで、そこにある対人関係に焦点が当てられていると思う。
 何よりも顕著なのが「人格の同一性・連続性」の実感の有無であり、それが認識論的問題に関する問答から垣間見えるのが面白かった。社会構成主義や物語論も意識されているのだろうか。
 あと、クローンの言葉がどこかドライに見えるのは、おそらく自分の状態を必然的に受け入れざるを得ないところからきているのだと思っている。
 また、それなりに前から提示されていながらも未だに議論が不足しているであろう「意味」の問題、つまりは客観主義的世界観の台頭によって引っ込みつつある主観的世界、「個人的な気持ち」に触れられているのも好きな点だ。
 ポストモダニズムの雰囲気が強く感じられるSFだが、個人的にはラブストーリーの面を楽しんで読んでいた。

 余談ですが、私はSFだと『アルジャーノンに花束を』がお気に入りです。