第5話 「ひまわりには笑顔を」

「つまり、障害者だからやりたいことをさせてもらえない、ということですか?」

「うーん……、身もふたもない言い方をすればそうかもしれない。本音を言えば……」

「言ってください」


「明るい未来が見えません!」

 みすゞさんにはこのネタは通じないだろう。

「彩華さん、ぶっちゃけて言わせてもらいますけど、俺はヤマトのメール便の梱包や郵便物のパック詰めをやるために事務所に入ったわけじゃない」


「ヤマト……クロネコヤマトの発送ですか? いまの仕事内容が?」

 ぼくは頷いた。

「この1か月、実に厳しく叩き込まれた。梱包のやり方を……、順番を。印を押すミリ単位の位置から、パックを折り畳む角度……」

「それは入社した人が最初は誰でも担当する業務とか、そういうことじゃなくですか?」


 ぼくは少し考えて言った。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。確かなことは、今、事務所の障害者部署が任されてる仕事だってこと」


「……何が一番不安ですか? その仕事がつまらないということですか?」

「みすゞ…いや、彩華さん。怖いんです。その……『障害者部署』が。彩華さん、事務所に来た時に、聞きませんでしたか? 俺たちオープン障害者雇用の人間を事務所で何て呼んでるか……」


「『ひまわりさん』……ですか」

「事務所内では、障害者はスミレさん、と呼ばれるんです。『ひまわりさん』は専用の島が用意されてる。バイトや準社員、正社員、いろいろあるんだろうけど……、俺たちはどれにも属さない。『ひまわりさん』である、と……」


 ぼくはもう少しだけ、聞いてほしいとみすゞさんに言った。


「もっと不安なことは……ほかの5人ほどいる『ひまわりさん』たち、もちろん男性も含めてだけど、皆、心から、嬉々として、大きな喜びをもって、毎日パック詰めや梱包に取り組んでいるということなんだ。2年、3年続けている人も」

「……」



 ぼくはまだまだ言いたいことはあったものの、彩華支援員に愚痴を言うだけぶちまけて事業所をあとにした。仕事の内容や、基本的な契約内容については、あとで日を改めて、事務所との1か月ごとにある面談の場で話をしてみようということになった。

 喫煙所で煙草を吸いながら、いろんなことを考えた。

 ……ひまわりさん、ってなんだよ、糞がっ!!

 障害者がひまわりのようにほほえむ職場づくりみたいな……、糞じゃねえか・・・!

 

 喫煙所で、くわえていた煙草を地面に、たたき付けた。

 思わず、舌打ちが出る。


「トーカさんじゃないですか」

 それを見て、煙草を吸っていたうちの一人が、声をかけてきた。

「あ……、久しぶり!?」

 懐かしい顔だった。




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