第三話 就労者には定着支援を

 俺たち障害者を取り巻く環境について、もう少しだけ簡潔に説明を加える必要があるだろう。


 関心のない人、健常者たちにとっては縁のないのだからあまり知られていないだろうけれど、今、障害者たちがせっせと毎日、薬を飲みながら、朝起きられない地獄と戦いながら通い続けている「障害者就労移行支援事業所」は、もう、至る所にある。


 少し検索すれば、近くの駅前に数件はあると思う。新宿、原宿、代々木、目黒、目白、秋葉原、錦糸町、両国、船橋、どこにでもある。


 これは「障害者が就職を目指す『就労移行支援』の事業所」だ。


 では、俺が就職した今、「オアシス」を退所した今、どうしてオアシスの一室で、アイスコーヒーを飲みながら目の前のみすゞ支援員と対峙しているのか。


 これは「障害者就労移行支援」が終わると、「障害者『定着支援』」という制度を利用しているためである。


 障害者は就職したとしても、はっきり言って長続きしない。


 例えば俺は司法書士と行政書士の資格を持っている。それもあって、その仕事を任せる、補助からではあるが、という話で法律事務所に入った。


 しかし3か月。俺がやらされているのは、クソのような、ヤマトのラベル貼りと袋詰め。給料なんか、あってないようなものだ。無遅刻無欠勤で源泉徴収で、10万に届かない。食えないんだから、仕方がない。辞めざるを得ない。


 それをなんとか、(せっかく)就職した職場に「定着」させよう、というのが、「障害者定着支援員」の仕事なのだった。


 つまり就職を目指す支援をするのが「障害者就労支援員」、就職してからのフォローをするのが、「障害者定着支援員」。


 「障害者就労移行支援事業所」で、且つ、「障害者定着支援事業所」である事業所がほとんどだと思う。一連の流れなのだから。だから、就労支援員がそのまま定着支援を行うことも、ごく一般的なことなのだ。



 目の前のみすゞさんは、同じ事業所に通っていたから、俺の支援をしていたわけではないけれど、俺の定着支援員というわけ。



「で?」


 感情がほとんど読めないみすゞさんは俺に聞いてきた。


「トーカさんは、つまり、現状に不満があるわけですよね。どうしたいんですか?聞かせてください」







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