第一話 障害者には合理的な配慮を


 PCのキーを叩く音が鳴り響く事務所……。


 50人ほど人がいるだろうか。広い事務所の、角の隅……。

 

 自分の胸ほどの高さの、書類棚……。


 その棚の上には、袋が、ある。

 宅急便用の、書類入れの、紙袋。

 きちんと折り目が付いている、やつである。



 その紙袋の横には、ケースに入った、焼かれたDVD−Rが一枚。

 そして電話帳みたいな厚さの書類と、カタログが数冊。


 書類をそっと持ち上げ、

 全ての書籍の表紙が手前になっていることを、確認する。


 確認すると、袋の位置を変えて、

 口が自分側に向くように、置く。


 書籍とDVDを、自分の右手のひらに載せる。


 そして、そろりそろりと、袋の口の中に、挿し入れる。


 モノが奥まで、袋の底まで到達したことを、感触と、耳で確かめる。


 確かめると、並べた書籍の端がずれないようにずれないように、置き、

 右腕をそろりそろりと、引き抜く。


 隣でそれを、口を半開きにさせながら、様子を凝視している男が、うんとうなづくのがわかった。


 ……まだここまでで、半分。



 今度は、そろりそろりと、両手で、そっと、袋を縦に立てる。


 袋の口を上にして。


 くるりと。


 立っている袋の向きを、逆にする。


 逆にすると、


 クロネコの大きなマークが描かれている側が、俺の手前に来る。


 書籍が入った袋の口を、折り、


 思い切って。


 手前に折り曲げる。


 ここは一気に思い切って折らなければ (オラナケレバ?)

 いけない箇所だ。


 谷折りにして、折った部分をそっと、手前に。


 そして、おソワッた通りに、


 クロネコのマークの、ちょうど耳のとんがっている部分。


 ここが目印だ。とんがっている部分にぴったり合わせて、

 きっちりと折りたたむ。


 俺はおソワッたとおりに発声する。

「お願いします」


 異様に元気のある声で、男は、返事をする。


 隣で俺の動きを凝視していた男が、俺からヤマトの袋を引き継ぐと、

 持っていたガムテープを貼り、折り目を止めた。

 


 今日、何度繰り返してきたか、数えることはしていない。

 資材の数を数えると、ざっと40くらいはあるだろうか。


 それがそのまま、「はい!」「はい!」のやりとりの繰り返しの数だった。


  最初こそ「はい!」と「異様に元気な声」を張り上げる先輩……木村の声に周囲もびっくりしていたけれど、やがて風景のように誰も気にしなくなっていた。


 


 

 意識がおぼろになっていきそうになる。

 ここは、どこだ?

 俺は、何をしている?



 続く



 

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