第16話 立つための二対ー3

 下手に拒んでは延々ティミイにつきまとわれると観念してカイサは嫌々詳細を語り出した。その間も『ホワン』を出したまま戦端を突きつけてガインへの警戒を怠らない。彼女にしてみれば忌まわしい疫病を持っているかもしれない相手であり決して過剰な反応ではなかった。大流行の記憶も生々しく罹患した人々の悲惨な光景はそこかしこにあり現在でも警戒は解かれていない。

 ガインは向けられた不信と敵意に傷つきかつ反発もしたが行動を起こすことはしなかった。情報の方が重要と判断したためでありティミイよりよほどらしい。

「ルウ・ノミステクが『ホワン・カオ』寄りだったのはわかるわよね?」

「も、もちろん?」

 カイサに対するティミイの返答の響きにガインは彼女が絶対に忘れていたか知らないだろうと確信した。それほど長い時間を過ごしていないが見栄っ張りで嘘つきのくせに誤魔化すのがへたくそな少女のくせは知り抜いている。カイサも同様だったが面倒くさくて指摘はしない。伝言に来ただけなのだ。

「上が交渉してたんだけどさ、ルウの弟子殺しちゃったでしょ? そうなったらもう無理よね。ってわけで責任とれってこと」

「あ、相手は“立つための二対”ですよ⁉」

「だからでしょ」

 ティミイがかじりつかんとするのをカイサが頭を押さえて阻止した。それほど歳は離れていないはずなのにはた目には母と子にしか見えない光景だった。

「上には上の道理があんのよ」

「だってそんな向こうが仕掛けてきたんですよ⁉」

「知らないっての」

「……俺がやるよマスター」

 ガインが割って入ってティミイを後ろから担ぎ上げた。少女は一瞬身を強張らせたものの大人しく彼へ身を任せることとした。見た目通りに軽い反面強い香水の香りが彼の鼻をくすぐった。

「俺がやったんだから、マスタ―は下がってて大丈夫」

 事実であったためもあるがガインはそれ以上にカイサと『ホワン・カオ』に怒りを沸かせつつあった。取り付く島もなく自身は仲介役で悪を成したとしてもそれは仲介元のせいであると言わんばかりの彼女の態度。ティミイへ全てを押し付けて頭ごなしに命令してくるだけの組織。

 うまく彼は言語化できなかったが奇しくもそこに村を焼いた男たちと同じ匂いを感じ取っていたのだった。ティミイが目を潤ませ声を震わせる。

「弟子い! わかってくれたんですね?」

「任せてくれ」

 喜劇めいた光景にカイサは肩をすくめるしかない。正直彼女は快進撃を未だに信じ切れていなかった。『ホワン・カオ』が士気向上のために活躍を故意に大きく取り上げているだけではないかと思えてならない。はともかくティミイが戦功をあげるなどとは彼女をよく知るカイサには想像できない。

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