Side Story〈Yuuki〉episode Ⅹ

本話は、本編57話の話になります。

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 そしてついに、その日はやってきました。


「じゃあ出かけてくるから、夕ご飯はゆずちゃん一人だけどよろしくね」

「はーいっ! 楽しんできてねっ」


 時刻は現在16時15分ほど。

 待ち合わせの時間は18時に新宿駅西口のヨコバシカメラということですので、余裕をもって30分くらい前につけるように私はオフ会への準備を終えました。

 そしてリビングでゴロゴロしているゆずちゃんに声をかけると、元気な声がかえってきます。

 土曜日だから別にゴロゴロしてても何も言いませんけど、宿題とかちゃんとやってるのかな?


「うん。遅くなるかもしれないから、戸締りはちゃんとするんだよ?」

「もー。ゆずももう17歳なんだから、いつまでも子ども扱いしないでよーっ」

 

 と、一人でお留守番することになるゆずちゃんに戸締りの確認をすると、少しふくれた顔を向けられてしまいました。


 でもたしかに、そう言われるとたしかにちょっと子ども扱いしているような気はしますが、私からするとゆずちゃんはどうにも幼く思えてしまいますので、小さい頃と同じような、そんな扱いになってしまいます。

 少なくとも両親が海外に赴任し、私がしっかりしなきゃと思ったあの日から、何となくイメージは同じ、ですかね。


「それよりさ~、男の人もいるんでしょ~? 朝帰りってやつでもいいんだよ~?」

「もう……男の人もいるけど、皆さん先生なんだし、いきなりそんなことになるわけないじゃない」

「えー。っていうかさ! 男の人もいるなら、お姉ちゃん素がいいんだから、もっとしっかりメイクしてけばいいのに~」

「普段やらないのに、それで変になったら困るでしょ?」

「え~、言ってくれたらやってあげたのにな~」

「はいはい、気持ちはありがとうね」


 そして今度は大人ぶるように、ちょっとおませなことを言ってくるゆずちゃん。


 でも、ジャックさんは置いておいて、ゼロさんを巡ってはゆめさん、ぴょんさん、だいさんと、四角関係というやつとのことですしね。

 まだ恋愛経験もない私がいきなりそんな複雑な関係に飛び込むなんて恐れ多いです。

 まずそもそもイケメンという情報だけは頂けましたが、ゼロさんがどんな人か分かりませんし。

 LAの中では色々と優しく教えてくれる頼りになる方で、すごく社交的で色々な人と知り合いということは知ってますけど、あの社交性は私にはないもので、きっと私とは住む世界が違うんだと思います。

 そういう点は、ジャックさんとゼロさんは同じですかね。

 ジャックさんはいつログインしてもいらっしゃって、色んな方と知り合いみたいですし、きっと私と違って友達も多いのではないでしょうか?


「じゃあ、お留守番よろしくね」

「はーいっ!」


 そして改めてゆずちゃんの返事を聞いて、家を出ます。

 

 人生初のオフ会。

 普段は顔の見えない皆さんと、顔を合わせてお話するって少し緊張しますけど、でもきっと大丈夫。

 皆さん普段からとてもいい人ですからね。

 

 だから、職業詐称していることがバレても、きっと許してくれるはず。

 ……もし許してくれなかったら、その時は……。


 そんな少しの不安と、でもやはり皆さんに会える期待と、二つの想いが入り混じった感情を抱えながら、私は新宿へと向かうのでした。






 17時14分、新宿駅到着。


 ええと、西口西口……。うーん、やはり新宿駅は人がすごいですね……。

 なんでこんなにたくさんいるんだろう?


 ということで、とりあえず邪魔にならないように人の流れに合わせて進んだ先のエスカレーターに乗る私。

 そして進んだ先には、東南口の文字が。


 あれ?

 ここは、違いますよね。


 ということで改札内を歩き回るものの、どうやっても西口という改札が見つかりません。

 分かってはいたけど、複雑ですね……。

 以前新宿に来た時は、紗彩ちゃんが一緒だったので道案内は全部やってもらったのですけれど、ううむ、困りましたね。


 そして歩き回ること数分、私はあることに思い当たりました。

 どこにも出口がないなら、もしかしてホームから移動するのでは?


 ということで上ってきたエスカレーターを降りようと思いましたが……あれ? 私はどのエスカレーターで来たんでしたっけ?

 いや、そもそも下りエスカレーターなんてありましたっけ……?


 むむ。

 むむむ。


 ……とりあえず、適当に降りてみましょう。

 そんな思いで適当なホーム階へ階段を降り、先ほどでたところが東南ならば、反対側は西北だろうということでホーム階に降りてみます。

 

 そして多くの人が向かってくる流れに逆らって、なんとか反対側へ進むと、ありました。

 西口方面を示す文字が。


 なるほど、西口の方だと階段は下るんだったんですね。

 きっとこっち側の改札を目指す人は西口を目指しているのでしょうし、ついていけば平気かな?

 そんな気持ちで人の流れに合わせて歩いていると。


 む、中央東口……?


 中央なのか、東なのか、どっち?

 あれ、でもさっき東南口って……あれ? まだ東? むむむ?


 とりあえず、この改札ではないです。

 またしても私は来た道を戻り、西口の改札を探します。


 ……なんか、ダンジョンを探検してるみたいですね。

 もしこの行きかう人がNPCかモンスターだったら、重くてラグがすごそうです。

 当然リアルがLAと同じわけがないので、重いも何もないのですけれど。


 と、そんなことを考えながら新宿駅の改札内をうろうろする私です。

 ですが、なんというか……どんどん集合時間が近くなっていくことに、少しずつ危機感がつのります。

 でもまだ17時30分を少し回ったところ。大丈夫、30分前には辿り着かなかったけど、まだ30分ありますからね。


 そしてついに、私は西口の改札を発見しました。

 おお、これで勝ったも同然ですね。

 よし、じゃあここから……って、あれ……なんだかお空が少し遠いような……。

 むむ、改札を出たのに地上ではない? あ、そうか駅のホームから移動する時下りましたもんね。あれ、でも東南口の方に行った時は上がったような……。あれ? ……地上って、どこですかね……。

 というか、どうやって行けば……?


 事前に調べていた情報で、ヨコバシカメラはけっこうな大きさがあるのを知っていましたので、改札を出たら見えるかな、と思っていたのですけど、その期待は見事に打ち砕かれました。


 あ、そうだ、こんな時は地図を……。

 鞄からスマートフォンを取り出し、自分の現在地周辺のMAPを出します。

 これを見れば辿り着けるはず。


 と、思ったのですけど。


 あれ? 京王線改札? こちらではない、ですよね……。

 となると、反対側? えーっと、あれ、また階段を下る?

 何となく降りてみましたけど、どっちにいけばいいのやら……。うーん……これはもう地下迷宮ですね……。


 はてさてどうしようか、またしても改札探しに続く再びのトラブルに、私はあることを思いつきます。

 そうだ、駅員さんに聞いてみましょう。

 うん、そうです。駅員さんならどう進めばいいか、教えてくれるはずですよね。


 ということで、私は再び出発地点である改札方面に戻り、駅員さんに道を尋ねようとしたのですが……改札から出る人、改札内に進もうとする人、そんなひっきりなしに足早に駅員さんを求めて移動する人たちを見ると、道を聞くという少し時間を取らせることに、いいのかな、という戸惑いが出てきます。

 他に空いている駅員さんは……ううん、見当たりませんね……。

 皆さん足早に歩いていて話しかけにくいですし、近くに交番でもあればいいのですけど……。

 うーん。


 集合時間まであと15分。

 ちょっとずつ増していく不安が大きくなるなか、私はなんとか辿り着こうとスマホの地図と周囲と視線をいったりきたり。


 そんな時でした。

 改札を出て少しのところで、足を止めて私の方に視線を送っていた、Yシャツにスラックス姿の、いわゆる仕事終わりのサラリーマンのような方がいることに気づきます。

 知り合い……ではありませんね。

 でも人のよさそうな雰囲気で、道を聞いてもよさそうな気もするかも?


 って、あ、歩き出してしまいました。

 道を聞こうと思った矢先、あの人なら大丈夫と思ったのに。


 でも、ここを逃したら遅刻してしまうかもしれない。

 皆さんとの連絡手段はないのですし、待ち合わせに遅れたら置いていかれるかもしれません。そうなったら、もう今日の参加は不可能で、必ず行くと言った言葉を反故にしてしまいます。

 それだけは避けなきゃ。


 だから聞かなきゃ。

 きっとあの人なら大丈夫。。

 よし、ここは勇気を出して。


「あ、あの、すみません」


 歩き出した男性が、私の横を通り過ぎようとしたところに、私は頑張って声をかけました。

 すると、その方は足を止めて私の方に振り返ってくれます。


「はい?」


 立ち止まった男性は、少し驚いたご様子でした。

 でも、近くで見ると整った顔の人だなっていうのがよく分かります。

 短過ぎず長すぎず、耳が出るくらいの清潔感がある黒髪に、ぱっちりとした二重のちょっと可愛らしい目が特徴的で、アルバイト先の塾の同僚の男性たちと比べても、カッコいい見た目だと思いました。

 私より少し背が高く、年齢も私より少し上、24,5歳くらいでしょうか?

 スーツ姿ですから、社会人の方だとは思いますけど。


 というかあれですね、よく考えれば全く面識も関りもない男性に話しかけるのは、これが生まれて初めてですね。

 そう思うと……ちょっと緊張してきますね……。


 でも、道を聞かなきゃ。

 私にはヨコバシカメラに行くという使命があるのだから。


 大丈夫、この人は優しそうな人だから、きっと大丈夫。


「ええと……」


 私が声をかけて立ち止まってくれた方の目を真っ直ぐに見つめて、私は緊張がバレないように気を付けながら、口を開くのでした。








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以下作者の声によるあとがきです。

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 引っ張る……!笑

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